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「ミルク多めのブラックコーヒー(似非中世ファンタジー・ハーレム系)」
(第0部)[1/2]

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チラシの裏から移転してきました。
世界観は、中世ファンタジー(っぽい)雰囲気。
いわゆる剣と魔法と冒険者のお話です。

迷宮探索がストーリーの中心の割に、みんな広いところが好きなのか、あまり潜りません。
むしろこの作品は、ヒロインらといちゃいちゃするのがメインの話です。
陵辱、NTRっぽいのはまずないのでご安心下さいというかそういうのは、他の書き手さんにお任せします。
死人もあまり出ない、ぬるくてゆるい仕様となってます。

基本、平日深夜更新、一話の文章量は大体5kb前後となっております。
各エピソードは後日、ある程度まとめますので、一話の文章量が物足りないと思われる方は、一週間毎に確認などの方向でよろしくお願いします。


それでは、よろしくお願いします。
//――――――――――――――――――――――――――――――


 幌付き馬車の荷台に揺られながら、どうにもやりづらいなとシルバ・ロックールは思っていた。
 原因は、荷台の反対側に座る先月から入ったパーティーメンバーの少女にあった。
「それでぇ、昨日は楽しみでほとんど眠れなかったの。それでノワ寝坊しちゃって……二人とも、ごめんね?」
 すまなそうに目を伏せ、悪戯っぽく舌を出す少女、ノワに、金髪の軽薄盗賊と眼鏡の学者風魔術師が慌てて首を振る。
「いーっていーって、気にしないで。ちゃんと時間には間に合ったんだからさ」
「そうですよ。問題ありませんでした。結果オーライです」
「…………」
 何だかなーと思う。
 二人はああいうけど、間にあったのはたまたま、護衛すべき{商隊/キャラバン}の雇い主が、ノワと同じく寝坊しただけに過ぎない。
 それに、口ではああいうモノの、彼女があまり反省していない風なのが明らかなのも妙に引っ掛かる。
 が、それをわざわざ口に出すのも大人げないな、とも思うシルバだった。
 しかしその自分の呆れた様子が表情に出たのだろう、盗賊テーストと魔術師バサンズに愛想を振りまいていたノワと、バッチリ目が合ってしまった。
 一瞬だけ、ノワは鋭い目を、シルバに向けた。
 しかしすぐに表情を和らげ、テーストとバサンズにニコニコと微笑みかける。
「……昨日、寝不足で、ノワちょっと眠いかも」
 ノワのアクビに、テーストは素早く荷袋を取り出した。
「だったら、オレのこれ貸してやるよ。ほら、枕代わりに使って」
「じゃ、じゃあ、僕はこの寝袋を」
 同じくバサンズが、荷台に寝袋を敷き始める。
「二人とも、ありがとー」
 嬉しそうなノワに、男二人は蕩けそうな表情になった。
 うん、傍から見ていると、大変気持ちが悪い。
「さすがにそれはないんじゃないか、バサンズ」
 荷台の中でただ一人冷めていたシルバは、寝袋の準備を終えた魔術師をたしなめた。
「何がですか?」
「仕事中だろ。仮眠するぐらいならともかく、本格的に寝るのはどうかと思う」
 シルバの言葉に、テーストは小さく舌打ちした。
「ったく、小言多いな−、シルバ」
 同じく、バサンズも不満そうだ。
「そうですよ。それに問題があればすぐに僕が起こします。外はリーダー達が見張っているんですから、敵の襲来があればすぐに分かるでしょう。第一、眠いままじゃ仕事になりませんよ」
「……寝ちゃ、駄目なの?」
 そしてノワは、ぺたんと尻餅をついたまま、拗ねた上目遣いの表情でシルバを見た。
「……普通、駄目だろ」
 心底苦手だ、この子とシルバは思う。
 大体風紀の取り締まりみたいな真似は、自分のキャラクターではない。もっと緩いのが、本来の自分の性格なのだ。
 しょうがないので、シルバは小さく印を切り、呪文を唱えた。
 即座に青い聖光が、ノワを包んだ。
「あ……」
「何、どうしたノワちゃん」
「彼が何かしたんですか?」
 詰め寄る盗賊と魔術師に、ノワは目を瞬かせた。
「眠気……取れちゃった」
「{覚醒/ウェイカ}の呪文。悪いけど、寝るのは休憩か仕事が終わってからにしてくれ。あとそこの男二人。そんな不満そうな顔するなよ」
「……空気読めよなー」
「……そうですよ、まったく」
 ブツブツと、テーストとバサンズはぼやいた。
「ありがとー、シルバ君」
 へにゃっと笑うノワの様子に、テーストとバサンズがシルバに向ける視線が一層きつくなった。
「……どういたしまして」
 頬が引きつるのを自覚しながら、シルバは何とか返事をした。
 お前目が笑ってねーよ、コエーよ。

 その時、馬車が停止した。
 一番素早かったのは、さすがというべきか盗賊であるテースト。
「敵か」
「だろうな」
 次にシルバだった。
 馬車から飛び出ると、森の緑の臭いが鼻を突いた。
 木々の間から漏れる日差しが強い。
 リーダーである聖騎士イスハータと無骨な雰囲気の戦士ロッシェは騎乗したまま既に武器を抜いていた。
「テースト!」
 イスハータの声に、テーストはすぐさま気配の探知を開始した。
「敵の種類は人間、おそらく山賊団だ! 包囲網はまだ完成してねー! 敵の包囲網が完成するより早く、叩いた方がいいぜリーダー!」
「だな! 蹴散らすぞ、テースト! ロッシェは皆と一緒に、商隊のみんなを守れ!」
「らじゃ!」
「了解!」
 白金の聖騎士と革鎧の盗賊が駆け去っていく。
 長剣を抜いたロッシェは手綱を操りながら、次第に包囲を狭めてくる山賊達を目で射竦めていた。

「あわわわわ……」
 雇い主である商隊の主は、先頭の馬車の御者席ですっかり腰を抜かしていた。
 頬のすぐ脇を、一本の矢が突き刺さっている。
「{沈静/アンティ}」
 シルバが印を切り、呪文を唱えると、主の震えがようやく鎮まった。
「……は」
 主は目を瞬かせる。
「冷静になる呪文を唱えました。今、動くとヤバイですよ。大丈夫ですか?」
 商売用の口調で問うと、主はコクコクと頷いた。
「な、何とか。わ、我々はどうすれば……」
 主と話している間にも、既にシルバは作戦を立て終えていた。
「心配要りません。ウチのリーダーが正面を崩します。私が合図をしたら、馬車を走らせて下さい。護衛はリーダーが務めます」
「わ、分かりました」

 シルバは武器を持たない。
 その技能を磨くぐらいなら、少しでも司祭としての力を付けた方がいいと判断した為だ。
 だが、その分後方支援の能力は、他の聖職者よりもそれなりにあるつもりだ。
 そのシルバが最初に取った技能は、精神共有。
 ある程度離れた相手とでも、会話無しで情報の伝達が可能になる。
 リーダーであるイスとは、笛や発光弾などの必要なく連携が可能になるのだ。
 シルバは精神念波で、作戦をパーティー全員に伝達する。

「テースト、弓手が邪魔だ。排除してくれ」
「あいさ!」
 イスハータは正面の山賊達に疾駆しながら、テーストに指示を送っていた。

 ――テーストの索敵能力は一級品。どうやら、飛び道具の心配はないようだ。
 そう、シルバは結論づけた。
 無理に殲滅する必要はない。
 リーダーが敵を倒すまで、馬車を守りきればいい。それも、そう時間は掛からないだろう。
「今回はスピード勝負か。次のターン、持ちこたえれば決着だな」
 そう判断して、シルバは幌の上に飛び乗った。
 馬車の周囲では、パーティーのメンバー以外にも、商隊の若い連中が盾を持って山賊達から馬車を守っている。
 少し離れた所で、ノワが斧で敵の剣を弾き飛ばしていた。
「たやっ!!」
 返す刀で相手を吹っ飛ばす。
「実力はあるんだよなぁ……」
 本職は商人のはずだが、戦士としても充分な力量だと思う。
 そのノワの後ろに従うように駆けていたバサンズが、何やら呪文を唱えようとして。
「っ……!」
 突然、喉を押さえた。
「どうした、バサンズ!」
「……っ! ……っ……っ!」
 苦しそうに、無言でバサンズがシルバを訴える。
 精神共有のお陰で、バサンズの状態は声に出せなくても分かった。どうやら、呪文で声を封じられたようだ。
 つまり。
「敵の魔術師――! ロッシェ!」
 最も見晴らしのいい場所に立つシルバには、魔術師の居場所はすぐに分かった。
 シルバの認識と同時に、戦士であるロッシェは馬を走らせていた。
「承知!」
「薬は……治療は、俺の方が早いけど、ここは……」
 ノワは商人であると同時に薬剤師でもある。
(バサンズの治療を頼む、ノワ)
 通信念波を飛ばしながら、シルバは次の手を打った。
「{加速/スパーダ}!!」
 印を切る。
 直後、ロッシェや遠くのイスハータの動きが一気に速まった。
「おおおおおっ!!」
 魔法を発動しようとしていた敵の魔術師が、ロッシェの剣で斬り伏せられる。
 後は、ノワがバサンズの治療を終わらせれば、敵を一掃できる。
「……って、いないっ!?」
「とおっ!!」
 喉を押さえて苦しむバサンズを無視して、ノワは逃げ惑う山賊達を切り倒すのに夢中になっていた。
「バサンズの治療してやれよ……ったく! {発声/ヤッフル}!」
 幌の上から、シルバは呪文を飛ばした。
「あ……」
 バサンズの唇から、声が漏れる。
「いけるか、バサンズ!?」
「はい、ありがとうございます! ――{疾風/フザン}!!」
 魔術師バサンズが、杖を青空に掲げる。
 その途端、巨大な渦が発生する。
 強烈な魔力の突風に、山賊達が空高くへ吹き飛ばされていく。
 どうやら、これで終わりらしい。
 シルバが念のため温存しておくつもりだった魔力も、今の{発声/ヤッフル}で底を突いてしまった。後はもう、足手まといにならないように防御に専念するしかない。

 一方、リーダーであるイスハータも、山賊の集団を蹴散らし終えていた。
「終わったぞ、シルバ!」
 刃の血を振り払いながら、イスハータは叫んだ。

 もちろん、声に出さなくてもシルバには伝わっている。
「今です! 馬車を進めて下さい!」
 シルバの指示に、商隊の主が急いで、部下達の声を掛けた。
「わ、分かった! おい、行くぞ、みんな!」
「撤収! バサンズとノワも乗り遅れるなよ」
 ガクン、と馬車が動き始める。
 しかし、バサンズとノワが追ってこない。
「おい!?」
 見ると、ノワが倒した山賊達の財布の回収をしており、バサンズもそれを手伝っているようだった。
「……アイツら」
 あの二人は放っておいても大丈夫だろうが、馬車の方が心配だ。
 結局、シルバが馬車の殿を最後まで見張り続ける事になった。


 目的地である首都に着き、その夜の酒場にパーティーの面々は集まった。
 酒場の薄暗い隅で料理を突きながら、リーダーのイスハータが大きな金袋をテーブルに置いた。
「という訳で、みんなお疲れ。コレが今回の報酬だ。それじゃ分配を……」
 戦闘時とは違う、柔らかな口調で袋の紐を解こうとする。
「ちょーっと待って」
「ノワ、何か?」
 少女の言葉に、イスハータは動きを中断した。
 彼女は赤ワインを飲みながら、言う。
「前から思ってたけどぉ、何かこれって公平じゃないと思うの」
「と言うと?」
「いっぱい頑張った人と、働いてない人が同じ報酬をもらうのは間違ってると思う」
「……みんな、頑張ったと思うけど?」
 イスハータは、頬から一筋汗を流した。
 ノワが何を言っているのか分からないようだ。
「そうかなぁ。一人も敵を倒していない人がいるんだけど」
 彼女は白魚のソテーを切り分けつつ、可愛らしく小首を傾げた。
 その言葉に、全員の視線が一点に集中した。
「いや、ちょっと待てよ。俺の事?」
 米酒をチビチビと飲みながら、シルバは渋い顔をした。
 しかし、ノワは朗らかな笑みを崩さない。
「うん。ノワ、三人倒したよ? バサンズ君、何人?」
「え。あの……ご、五人ですけど」
 突然話を振られた魔術師が、眼鏡を直しながら答えた。
「うわ、すごいね! さすが魔術師!」
 わざとらしく拍手をするノワに、骨付き肉を咥えたまま、テーストが身を乗り出した。
「お、オレだって四人倒したって!」
「リーダーとロッシェさんは戦士さんだから、もっと多いよね」
 ダラダラと流れる汗をひたすら拭うイスハータと、無言でスープにパンを浸すロッシェ。
 ロッシェが何も言わないので、イスハータがシルバを庇うしかない。
「ま、まあ、そりゃ……しかしだね、ノワ。戦いっていうのは、敵を倒すのがすべてという訳じゃないんだ。シルバは、やるべき事はやっている」
「でも今回、シルバさん、全然馬車から動かなかったよね。バサンズ君みたいに、呪文で敵をやっつけてもいないし」
 ふむ、とシルバは杯をテーブルに置いた。幾分乱暴な音が鳴ったのは、酔いのせいだけではないはずだ。
「……なるほど。見る人が見ると、そう見える訳か」
 シルバは軽く息を吐くと、意地悪そうな視線をイスハータに向けた。
「んで、どうするんだ、イス。リーダーとしての意見を聞きたい」
 その言葉に、グッとイスハータは詰まった。
「お、お前はどうなんだ、シルバ?」
「わざわざ口にしなきゃ分からんほどアホなのか、お前は?」
 心底呆れたシルバだった。
 確かに今回の作戦、シルバは一人も敵を倒していない。
 精神共有を常時使っているとはいえ、傍目から見れば幌の上から『加速』と『発声』の二つの呪文を放って指揮しているだけにしか見えないかもしれない。
 だが、それが自分の仕事だという誇りがシルバにはあった。
 しかし。
「……ちょっと待ってくれ」
「…………」
 どうやら、そう思っていたのは、シルバだけのようだった。
 いや、違う。
 ちょっと前までなら、悩む事自体ナンセンスな話だったはずだ。
「ぶー」
 元凶であるノワは、頬を膨らませて不満そうにイスハータを見ていた。
 シルバがイスハータを促そうとした時だった。
「な、なあタンマだ。リーダー、シルバ、少し話がある」
 腰を上げたのは、テーストだ。
「うん?」
「あ?」

 テーブルを少し離れて、シルバはテーストの提案を聞いた。
「……何だって?」
 思わず、耳の穴の掃除をしたくなったシルバだった。
「それで我慢してくれよ、シルバ。それで丸く収まるんだって」
 パン、と手を合わせるテースト。

 テーストの話は単純だった。
 つまり、一旦ノワの言い分を聞いて、彼女の言う『分配』を行う。
 そして彼女がいなくなってから、テーストやイスハータの取り分から改めて、本来のシルバの取り分を渡すという事にしたいらしい。

「……アホか」
 シルバとしてはそう言うしかない。
 賭けてもいいが、この話は今回一回だけに留まらない。
 今後の仕事では、そのやり方が罷り通ってしまうだろう。
 少しでも考えれば分かる話だった。
 ところが。
「いや、しかし、彼女の言い分にも一理……」
 イスハータが真剣な表情で検討を開始したので、シルバは思わず彼をぶん殴りそうになった。
「一理もねーよこのスカタン! 前衛職と後方支援を同列で語ってる時点で、どー考えたっておかしいだろ!?」
 少し離れたテーブルを指差し、シルバは叫んだ。
「しっ、声がでかい! と、とにかくさ、今の話でひとまず我慢してくれよ。な?」
 何とかシルバをなだめようとするイスハータ。その行為そのモノが、さらにシルバを苛立たせる。
 ロッシェとバサンズも、いつの間にか相談の輪に加わっていた。ノワは一人、退屈そうに晩餐を味わっているようだ。
「シルバ……」
「ぼ、僕も賛成です。ナイスなアイデアじゃないですか」
 バサンズが弱々しく両拳を握りしめ、テーストがその勢いに乗る。
「だろ? お前もそう思うだろ?」
「僕達だって、回復の重要性は分かっている。ここは堪えてくれ、シルバ。報酬自体は実質、変わらないんだ」
 眉を八の字にしながら、イスハータはシルバの肩に手を置いた。
 続いて、ロッシェもボソリと呟いた。
「……俺もそう思う」
「……ロッシェ。お前もか」
「…………」
 シルバの問いに、ロッシェは気まずそうに目を逸らした。
「ねー! もういい? ノワ、早くお風呂入って眠りたーい!」
 足をバタバタさせながら、テーブルに一人残っていたノワが声を掛けてきた。
「じゃ、じゃあ、そういう事で……」
 シルバが返事もしない内に、イスハータの中では結論が出たらしい。いや、シルバ以外の全員か。
 シルバは、心の底から失望した。
「そういう事もへったくれもあるか、このド阿呆ども」
 吐き捨てるように言うと、シルバは仲間達が止める間もなく早足でテーブルに戻った。そして乱暴にテーブルを叩いた。
「俺は今日でこのパーティーを抜ける。それで満足か?」
「え?」
 目を瞬かせる、ノワ。
 しかし驚いた振りなのは、あからさまだった。
 シルバは、ノワから、背後のリーダー達に視線を移した。
「俺の分の報酬は手切れ金代わりにくれてやる。……お前らは仲良しパーティー続けてろ。じゃあな」
 そして、テーブルに背を向けて、自分の部屋へ戻る事にした。
「やってられるか」
 その背に、ノワの声が掛けられた。
「シルバ君」
「あ?」
「ばいばーい」
 ノワが無邪気に勝ち誇り、シルバにヒラヒラと手を振った。


 その夜の内に、シルバはパーティーの泊まる宿をチェックアウトした。
 そして友人が用心棒をする別の酒場で、やけ酒をあおっていた。
「心っ底ムカつくっつーの、あの{女/アマ}!」
 ダン、とカウンターに空のジョッキが叩き付けられる。
「災難であったなぁ」
 隣に座るシルバの友人、キキョウ・ナツメはうんうんと頷いた。
 黒髪に着物という、この国では珍しい凛々しい風貌の剣士だ。極東の島国、ジェントからここ、辺境の都市国家アーミゼストを訪れたのだという。

 この世界に魔王が復活して数十年。
 十何度目かの討伐軍の派遣と共に、古代の失われた技術で作られた武器や防具の発掘も進められてきた。
 ここアーミゼストは、多くの遺跡が眠る{遺物/アーティファクト}・ラッシュの真っ直中にある。
 キキョウも何やら目的があって、この地にいるようだが、詳しい事はシルバも知らないでいた。

「ふーっ!」
 というか怒りのせいで、今のシルバは赤ら顔のまま飲む事にしか集中出来ないでいる。
「どうどう。落ち着くがよい、シルバ殿。今日は{某/それがし}のおごりだ。金は気にせず、心ゆくまで飲め」
「……すまん」
「何の。短いとはいえ、それなりの付き合いではないか」
 パタパタとふさふさの尻尾を振るキキョウ。頭の狐耳もピコピコと揺れていた。
 キキョウは人間ではなく、一般に亜人と呼ばれる種族だ。アーミゼストや周辺国では、その中でも獣人という種族がキキョウに近いが、本人の談によると厳密には違うらしい。
 冒険者稼業においても、種族の違いから人間は人間、亜人は亜人とパーティーを組む事が多いが、シルバはあまり気にしていない。
 キキョウは獣人でもいい奴だし、ノワは人間でも気に入らない。
 まあ、そういう事だ。
「あーもー、腹立つ! マスター、もう一杯!」
「しかし、今後どうするのだ、シルバ殿? その、働き口のアテはあるのか? も、もしよければ……」
 ドン、とシルバの前に麦酒の注がれたジョッキが置かれた。
 それを煽りながら、シルバはヒラヒラと手を振った。
「あー、そりゃ多分問題ない。回復役は、この稼業にゃ必須だからな。その気になれば、何とでもなると思う」
「そ、そうか。それは何より」
 何だか残念そうな、キキョウだった。
「まー、我ながら短気だとは思うよ。けどよー……何か違うだろアレはー……」
 ジョッキの半分ほどになった中身をチビチビ飲みながら、シルバはぼやく。
「うむうむ。何というか、長くないなそのパーティーは」
「だろー? 次に入るパーティーはこー……アレだな。女いらねー。やだよもー、あんなの」
「はは、それはそれで極端ではあるなぁ。にしても、よほどの美女だったと見えるな、そのノワという少女は」
「んー、まあそだなー。外見は悪くないぞ、確かに。アイツらがコロッと落ちるのも分かる」
「しかし、シルバ殿は落ちなかったではないか」
「んんー……別にそれ、俺が人格者だったからとか、そんなじゃねーぞ」
「というと?」
「ウチの実家な、上に三人、下に四人」
「……何が?」
「姉と妹」
「……な、なるほど。ならば、女の本性を見抜けるのも道理かも知れんな」
「まーさー、同じパーティーに異性が混ざると、多かれ少なかれ、そういう問題ってのは発生するよな」
「む、む……まあ、それは確かに。某も心当たりがないでもない」
 キキョウの凛々しい外見は人目を引く。特に若い女性ともなれば、言い寄ってくる者は数多いのだ。
「だろー? お前、格好いいしー」
「むぅ……格好いいか」
 どことなく、不満そうなキキョウだったが、酔ったシルバはそれには気付かない。
「男女の仲を否定はしねーよ。それでいい関係になる事だってあるだろうし、悪い事だけじゃねー。けど、俺は嫌。少なくとも、当分は勘弁。そーゆーの抜きで仕事させてくれ」
「な、ならばだ」
 パン、と両手を打つキキョウ。
「うん?」
「シルバ殿自身がパーティーを作ればよいのではないか? 女人禁制のパーティーだ」
「お、そりゃ名案だな」
「そ、某も及ばずながら助力しよう。事情を知っている人間の方が、シルバ殿も何かと動きやすかろう」
 何故か、キキョウは強く握り拳を作りながら言う。
「んんー……でもよ、キキョウ。お前さん、誰とも組まないって有名だったんじゃなかったっけ。それに、今の用心棒業はどうすんのさ」
 シルバの問いに、キキョウは肩を竦め、唇を尖らせた。
「べ、別に誰とも組まない訳ではない。ただ単に、これまでその気がなかっただけだ。獣人というのは、奇異の目で見られるしな」

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