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「プロローグ」
(第1部)[1/1]

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ろくでもない人生だった。





平民以下の赤貧貴族に生まれ、容姿も並、魔法の才能は下から数えた方がいいレベル。
無駄な(親の)プライドで学院に入学したものの、成績はブービー賞で使い魔は生理的に受け付けないイキモノ。デカくて空飛ぶムカデって何の罰ゲーム?
ミス・ヴァリエールの平民の方がまだマシだよ。正直そんなに要らない言うなら交換して欲しかったよ。

・・・ああ、炎が迫ってくる。
学院にどうして賊が?というか何故に私は殺されなきゃならないの?
走馬灯だ。

うわー懐かしい。
借金のカタに売り飛ばされかけた(買取不可で突っ返されたけどね)幼少期や、食べ物がなくて隣の領主に恵んでもらいに行った(石ぶつけられたけどね)少女時代がすっ飛んで行く。
うん、改めてろくでもない。学院卒業したらまた貧困生活だと思うと、このまま死んだ方が幸せかも。
あー、でも焼死ってむちゃくちゃ苦し、


・・・そして。

気が狂いそうになるような苦痛の中、ラリカ・ラウクルルゥ・ド・ラ・メイルスティアはその短すぎる人生を終えたのだった。


※※※※※※※※


「・・・書いてないし。所詮はワキ役以下って事か」

自嘲気味に笑い、本を閉じる。
恐らくこの章の辺りで殺されたのだろう。俺・・・じゃなくて“私”は。
机の上に置いてある小説は“ゼロの使い魔”。そこそこ知られたファンタジー小説だ。


俺は佐々木良夫、25歳。絶賛就職活動中の無職だ。

特技は全国大会まで行ったアーチェリー。他は皆無。
超絶に凡人な俺だが、何と前世の記憶を持つ転生者だったのだ!しかも異世界!

この(こちらの)世に生を受けた瞬間からバリバリに前世の事を覚えていて、まだオギャーしか話せない頃から自分は特別だと思っていた。
でも何か世界観的に違うなーとか感じていた俺が、ここを異世界だと理解したのは5歳の頃。死んでる間に魔法が廃れてカガクギジュツが発達したという予想は見事に違っていた。
それに何度試しても魔法が出ないし。ガキンチョだったから良かったものの、気付くのが遅れていたら大変な事(病院に連れて行かれる的な)になっていただろう。
棒を振り回して意味不明な言葉(スペル)を喚くって、奇異以外の何者でもないし。

最初の頃は、もし転生前の世界のように魔法が使えたら、一躍有名人になれるのになぁとか淡い期待を持っていたが、それも15の頃には諦めがついた。
同じ頃、いろいろな小説に触れあい、“転生”というジャンルを知ったのだったが・・・。

その時の落胆を想像できるだろうか?

 普通、逆だよね?

現実⇒ファンタジーが普通。
剣と魔法の世界に憧れる現代っ子が、何らかの形でファンタジーな世界に飛ばされて大冒険!魔法が使えるようになったり、剣の腕が現実じゃ不可能レベルに上がったり。

幻獣倒してお姫様と恋に落ちるとか、それが王道。みんなの夢。
でも、俺の場合はこの有様だ。
魔法は使えなくなり、知識も役立たず。俺の前世はファンタジー!とか言っても証拠は皆無だし下手すれば変人扱いだ。お前の脳味噌がファンタジーだよ馬鹿って言われるのがオチ。何と言う無駄転生。なまじ記憶が鮮明なぶん、邪魔だ。



 そんな俺が“ゼロの使い魔”に出会ったのは昨日の事だった。
転生とかファンタジーというワードが半ばトラウマと化していたので、そっちの小説コーナーにはしばらく目を向けない人生を送っていたのだが、何か懐かしい顔(二次元になっていたが)を見掛け、覗いてみた。

・・・あれー?この服って昔着てた制服に似てね?てか、この子ミス・ヴァリエールっぽくね?

ビンゴ。
表紙に居た子はミス・ヴァリエールだった。

軽い興奮を覚え、ページを捲ってみると懐かしい単語が次々に出てきた。
トリステイン、サモン・サーヴァント、あーそういやキュルケって子もいたわ。胸がデカかったから覚えてる!タバ・・・いたっけ?シエスタ・・・メイドの名前なんていちいち覚えてないや。ギーシュは知ってる。グラモン家だったっけ。1回だけ声掛けられた。社交辞令で。

使い魔の平民、才人って名前だったんだ。あの頃は興味なかったから知らなかった。ルイズの爆発懐かしいなー。吹っ飛ばされてミスタ・グランドプレに激突したんだ確か。肉の緩衝材で怪我が少なくて、微妙に感謝した記憶がある。
まさか転生前の世界がこちらで小説になっているとは思わなかった。だからどうした、と言われたらそれまでだが、膨れ上がる懐かしさで店内にも拘らず泣きそうになったくらいだ。
そして即購入。

読んでいくうちに分かったことは、“私”が描写すらされないワキ役以下の存在だったという事。
フーケ騒動とか正直怖くて部屋で震えてたし、アンリエッタ姫様がルイズ達に密命を下したなんてのも知らない。戦争はさすがに知ってるけど、どうか徴兵されませんようにと祈ってただけで彼女らの活躍なんて知らなかった。
同じ学院の生徒でもこうも行動力が違うとは・・・。
おそらく“私”は学院襲撃事件か何かで殺されたのだろう。描写されてないけど。


 そして「・・・書いてないし。所詮はワキ役以下って事か」に戻る。

得たものは多少の懐かしさ(人名とか地名)と虚しさ。
主役は無理でもチラッと名前くらい出して欲しかった。こんな事ならミス・モンモランシみたいにミス・ヴァリエールを馬鹿にしたりすれば・・・あぁ、爆発怖くて無理か。
うん、どう考えても無理だな。知らないところで殺されてるのが分相応だ。

俺は机の上の小説を一瞥すると、気晴らしに外の空気を吸いに行くことにした。ついでにコンビニでワインを買おう。“私”の頃は水代わりに飲んでたんだけどなー。


・・・そして。

アパートを出た瞬間、暴走トラックに撥ねられて。
全身への耐え難い激痛の中、佐々木良夫はその短い人生を終えたのだった。


※※※※※※※※


「女の子か」

知らない天井・・・いや、知ってる天井?それに聞き覚えのある声。

「旦那様。お嬢様のお名前はお決まりですか?」

あっるぇ〜?この声もやたら懐かしいぞ?

「うむ。男ならライル、女ならラリカ。この子は女の子だから・・・ラリカだ」

え?なにその懐かしい名前。他人の口からその名前を聞くなんて何年ぶり・・・。

「ん?起こしてしまったか、娘よ」

・・・おはようございます、“お父様”。これはひょっとしなくても、アレですね?

「ラリカ・ラウクルルゥ・ド・ラ・メイルスティア。お前も今日からこのメイルスティア家の一員だ。貴族の名に恥じぬよう、」

“お父様”が何か言っているが、もう耳には入ってこなかった。
OK、冷静になれ、俺。・・・・じゃなくて“私”か。私か、じゃねーっての。
これはアレですか?転生モノ、じゃなくて憑依モノ、じゃなくて・・・。

ループ?ワンモアセッ?何だろう?何ていうんだろう?
ええと、これは、あばばばばばばばばばば!!???

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