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「プロローグ」
(第1部)[1/1]

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「ふ、ふふ、ふふふ……」

顔を俯かせながら、横島忠夫は肩を震わせ――、







「ここはどこじゃーーーーッ!!!」




力の限り絶叫した。










〜回想〜

物語はいつもと変わらず、美神の事務所から始まった。

「はぁ? 空間転移装置?」

美神は心底から胡散臭そうに聞き返す。

「そうじゃ! この装置はの、離れた場所同士の空間を一時的に繋げて、瞬時に移動する事ができるという、このドクターカオス渾身の作品じゃ!!」

「ワタシも手伝ったあるよ!」

自信満々に言い放つのは、朝から美神事務所を訪れている二人。

千年を生きる伝説の錬金術師、今はただのボケ老人、ドクターカオス。

オカルトグッズを扱う厄珍堂の主、存在自体が胡散臭い、厄珍。

組み合わせからして怪しい二人が紹介しているのは、見るからに怪しい縦型のカプセルだ。

配線コードやメーターがあちこちに付いており、中には大人一人程度なら余裕で入れる程度のスペースがある。

ちなみに厄珍堂からここまでそれを持ってきたのは、カオスの後ろに控えているマリアだ。

「それはすごいでござるな!」

「ふーん、おもしろそうね」

「シロ、タマモ、騙されるな。あれを作ったのはそこの二人だ。絶対に欠陥品だ、むしろ欠陥品じゃない方がおかしい」

目を輝かせるシロと興味を示すタマモを、確信的な口調で横島が止める。

「失礼じゃな小僧。わしの渾身の作品じゃと言っておるじゃろう」

「お前らにはテレサという前科があるだろーが!! おかげで酷い目にあったんだぞー!!」

「よ、横島さん、落ち着いてください」

あの時の思い出が蘇ったのか、うがーと吼える横島。それをおキヌが宥める。

「で、それをわざわざここまで持ってきて、私にどうしろっていうの?」

騒がしくなった横島付近を完全無視して、ジト目で美神が話を戻す。

二人はここぞとばかりに駆け寄り、

「どうじゃ、画期的な発明じゃろう! わしとお主の中じゃ、誰よりも早くこれを売ってやらんでもないぞ!!」

「今なら特別価格で五億円あるね!!」


「いるかそんなもん!!」

「「ぐはッ!」」



ぶん投げられた分厚いオカルト本の直撃を顔面に食らった。

「ちょ、ちょっと待つある。ちゃんと人の話は最後まで聞くあるね」

鼻血を拭きながら厄珍が口を開く。

「ワタシらも“あの”美神令子がいきなりこれを買うとは全く、全然、これっぽっちも思っていないある!」

「そうじゃ、相手が他ならぬ“あの”美神令子じゃからな!」

「おお、それは間違いない! “あの”美神さんがこんなうさんくさい機械にお金を払うはずがあるだろうか!? いや、絶対にない!!」


「あんたらは人を何だと思っとんのかー!!」


神通棍で血まみれにされた横島、カオス、厄珍の三人を見ながら、

(だって美神さんですし……)

(他ならぬ美神どのでござるし……)

(美神だからね……)

と、おキヌ達は心の中で呟いた。

「そこで、じゃ! ここで実演をして見せようと思っての。わざわざここまで持ってきたんじゃ」

あっという間に復活する三人。もはや血の一滴たりとも流れていない。そしてもはや誰もそれに驚かない。なぜならそれが普通だからだ。

「実演? つまりもう起動実験は済ませてあるっていうの?」

予想外だったのか、少し驚いた様子で美神は尋ねる。

「いや、まだじゃよ。だからここで小僧を使って実験をするんじゃ」

「ボーズなら万に一つがあっても心配いらないある」



「なめとんのかおんどりゃーーー!!」



当たり前のように言い放つカオスと厄珍に叫ぶ横島。

「あれか!? 俺は実験体か!! お前らの中で俺の扱いはどうなっとんのじゃー!? モルモットかコンチクショー!!」

「どうせ反対するじゃろうと思ったからの、お主の為に移送先はわざわざ隣町にある女子高を選んで――」



「さっさと起動しやがれカオス!!」




「「「だあぁぁぁ!」」」


言い終わる前にもうカプセルの中に入り込んでいる横島に、全員がこけた。

「よ、横島さ〜ん、止めておいた方が……」

「そ、そうでござるよ、先生〜……」

「フフ、女子高……女子高……ムフフフ……」

おずおずとおキヌとシロが口を出すが、血走った目で妄想している横島の耳にはもう届かない。

「オホン。では――起動!」

カオスがスイッチを押すと、カプセルが淡く光り出す。

「転送ポイント、P−012X。マリア、状況を」

「稼働状態・良好。量子データ・転送開始。20%……30%……」

状況を逐一報告するマリア。

「いよいよじゃな」

「世界初の量子移動、世紀の瞬間あるよー!」

成功の期待に胸を膨らませるカオスと厄珍。

「怖くなんかないぞ、怖くなんかないぞ。この先には新鮮な女子高生たちが――桃源郷が待っとるんやー!」

カプセル内で騒ぐ横島。

「だ、大丈夫でしょうか、美神さん。何か凄く不安なんですけど……」

「なるようになるんじゃない」

不安そうなおキヌに無関心そうに美神は言った。が、

「90%――!? 警告・転送先・エラー表示。移送先・不明」


「「「へ?」」」


マリアの言葉に誰もがぎょっとした表情を浮かべ、

『部屋内に小規模な異空間ホールが発生しました!』


「「「え゛!?」」」


人工幽霊一号の緊急報告に誰もが顔を更に引きつらせた。

そして次の瞬間、カプセルが発光し、光が収まった後に横島の姿は無かった。

〜回想終了〜








そして今、横島は唯一人、見覚えのない草原の真ん中に佇んでいた。

「うう、やっぱりカオスと厄珍なんかを信用するんやなかった、女子高生どころか誰もいないやないかー!! チクショー、また目先の欲に目が眩んでしまったー!!」

今更ながらに後悔する横島。とはいえ、いつもの事なのだが。

「つーか、ここどこだよ? 見渡す限り一面草原とか、明らかに日本じゃないだろここ……」

哀愁を漂わせながら、横島は呆然と地平線まで続く草原を見つめた。

《それは、私が草原の境目を弄ったからよ》

「へ?」

呟きに対する思わない返答に、横島は間の抜けた声をあげた。

そして、いきなり目の前の空間に亀裂が入る。

「な、なな、ななななな……ッ!」

ズザザザッと高速で亀裂から後ずさる。

「ふふ、こんにちは。招かれざるお客様」

そして空間の裂け目から姿を現したのは、日差し傘を差した女性。

『境界を操る程度の能力』を持つ唯一のスキマ妖怪、八雲紫であった。









一方、美神事務所では。

「転送・終了。指定座標に・横島さんの・反応なし」

「カオスどのぉぉぉ!! 先生をどこにやったでござるかーー!?」

「お、落ち着きなさいシロ!」

「は、放すでござるタマモ!」

『異空間ホール消失。横島さんの反応、ロストしました』

「み、美神さん! よ、横島さんが、横島さんが〜!?」

「ああもう、あのバカ……」

「どーゆーことあるか!? 設計上は何の問題もないはずある。何度も確認したから間違いないあるよ!」

「何故じゃ!? P−012Xで間違いないはず!? 現在地からの距離は3×3=12じゃから、座標指示に誤りは――」

「ノー・ドクター・カオス。3×3=9・です」

マリアの淡々とした一言で、狂騒にまで広がりつつあった騒ぎがピタリと止んだ。

……。

………。

…………。

「しまったーーーー!!」

「アホかーーーーー!!」



頭をかかえたカオスを、美神が思いっきりしばき倒した。






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