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「せめて勇者として召喚してほしかった」
(第0部)[1/1]

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「ここは一体?」

「ああようこそいらっしゃいました勇者様」

「君は……誰?」

「私はこの国の姫巫女。勇者様、どうかこの世界を脅かす魔王を倒してください」

「分かった。僕に出来るか分からないけど頑張ってみるよ」






「凄いですな勇者様は!我が国最強の兵士ポチョムキンと互角とは」

「これでも元の世界では剣道をやってましたから」





「な、なんという巨大な魔力じゃ!!しかも全属性の魔法に適正があるとは……いやはや長年王宮魔道師として仕えてまいりましたがこれほどの才能には初めて会いましたわい」

「そうなんですか?自分ではよく分からないんですけど…」




「大変だ!!女の子が魔物に襲われてる!!」

「あ、誰か助けに行ったぞ?」

「あれは姫巫女様が召喚なされた勇者様だ!」

「流石勇者様!!」



「大丈夫かい?」

「あ、あの、あなたは」

「話は後でね。安心して。必ず守るから(ニコッ)」

「は、はい(ポッ///)」





「この聖剣は初代勇者様以外誰ひとり抜く事が出来なかった伝説の剣。にも関わらずあんな簡単に抜いてしまうとは……」

「そうか。僕を待っていてくれたのか。これから宜しく、相棒。」







「ふははは!貴様ごときがこの私に勝てるとでも思っているのか!?」

「負けない!僕には帰りを待っている仲間がいるんだ!行くぞ魔王!!必殺、皇龍天翔神魔轟撃覇!!!」

「ぐぎゃああああああ、ま、まさか、この私が……ごふぅ!!」











































「もう限界だあああああああああ!!!!!!!」

眼の前の画面に向かって思いっきり叫びながら強制シャットダウンする。

隣の部屋からうるせえぞ!と言う声が飛んでくるが今の俺はそれどころではない。



なに? この素晴らしく香しいSSは? もう俺のライフはゼロよ。

時計を見ると既に3時間が経過していた。
















大学3年になりバイトで貯めたお金で買ったパソコンでネットでSSを読むのが趣味の俺だが今回のダメージは大きかった。

勇者として召喚されたイケメンの高校生の男の子が美人の女の子達とパーティー組んでチート能力で次々と冒険を繰り広げる作品だったがあまりにも香しい。

画面から見事なほどに香ばしい匂いがしていた。

少し読んだ時点で何か肌に合わないかなーとは思ってたんだが話数が200話もあり、しかも完結していたのでまあ試しにと読み始めて早3時間。

どんどんとこちらの精神力が削られていくけれどキリの良いとこまで、と我慢していたが魔王が倒される所で俺の限界が来てしまった。

因みに今現在の話数は15話目。後どれだけこの主人公の冒険が続いているのか分からないが魔王がいないのにどうする気だ?

電源が落ちたノートパソコンを閉じて後ろのソファにもたれかかる。

昔はこうじゃなかった。今読んだような作品はむしろ大好物だったはずだ。

自分が異世界に飛んだら、アニメや漫画の世界に行ったら、どんな事になるんだろう、と想像に胸を躍らせたものだ。

その時の黒歴史ノートはこの前部屋の大掃除をした時発見して直ぐに焼却したけど。

だけど未だにアニメや漫画の熱い戦闘や台詞はカッコいいと思えるし主人公に憧れることもある。

けれどやはりあの頃のように素直に受け止められないのも事実だ。

さっきの話にも剣道やってたからうんたら書いてあったけどもう10年以上武道やってる身からすれば出来るわけないじゃん。という感想しか出ない。

実戦と試合とは違うのよ。

まあ俺が強くないだけかもしんないけど。

………なんか考えてたら鬱になりそうだ。

飯でも食おう、と考えて冷蔵庫の中が空だと思いだした。

諦めるかと思ったけど一度沸いた食欲は無視できずに財布を持って近くのコンビニで何か買ってこようと家を出る。

はずだった。







ずぶり、と






まるで泥沼に足を突っこんだかのような感触。

ドアを開けて一歩出した瞬間に感じた違和感。

足元を見るとそこには何もなかった。

違う。

”何も無い”があった。

何も見えない闇のようなものが俺の足を飲み込んでいる。

混乱と恐怖で固まっていたが足がさらにずぶずぶと音を立てて沈んでいくのを見て慌てて足を引きぬこうとする。

けれどそんなのは無駄だと言わんばかりに暗闇の底なし沼は俺の身体を沈めていく。

「た、助けて。誰か、誰か助けて!!」

悲鳴混じりの助けを呼ぶ声に対しての返事は「だから静かにしろっつってんだろうが!! 俺は明日早えんだよ!!」だった。

何となく狼少年の気持ちが分かった気がする……

…ってアホなこと考えてたらいつの間にか首まできてる!?

待ってマジで止めてがぼぼばぼべぼぶっぼぼぼぼぼぼおぼ




















「いやだー!まだ死にたくねえー!! ってあれ?」

気がつくと暗闇の沼から抜けていた。

と言うよりは違う場所にいた。

さっきまでは俺のアパートの玄関先にいたはずなのに何故か回りにあるのは薄暗い石造りの部屋。

壁には何やら古そうな剣やら旗みたいのがかかっていて他にも何に使うのか分からない物も置いてある。

そして幾つかある蝋燭に照らされている部屋の真ん中にいる俺の前にはなんていうんだろう、ローブのような服を着た銀髪の美形が立っている。

歳は俺より下だろうけれどモテるだろうということは想像に難くなかった。

第一印象はジョブで魔法使いを選んだRPGの主人公みたいと感じた。

……ん? RPG?

えーっと、状況確認。

暗闇にのまれた俺。

移動した覚えもなく違う場所。

場所は何処となく魔法使いの召喚場所と言えなくもない。

目の前には魔法使いらしき人物。

あれ? これってもしかしてあれか?

俺がさっきまで読んでたような勇者とかみたいな召喚?

異世界来訪か?

いやいやそんなこと急に言われても困る。

何せ俺は一般人。そりゃ武道は学んだけど大したことはないし

それに世界を救おうっていうほど正義感もあるわけじゃない。

……けど、なんだろう? この胸のドキドキは?

なんていうか、うん、あれだ。俺も男だ。

そういうロマンあふれる冒険のようなものに憧れても仕方がないよな?

男はいつだって厨二の魂を持つ生き物だって何処かの誰かが言ってたような言ってないような。

あー、だから、なんだ。もしこの魔法使いっぽい子が頼んできたら少し渋って条件付きで受け入れてもいいかな?

身の安全とか生活に関してとか保障してもらうような形なら夢見てもいいよね?

……ってアレ? さっきから結構立ってるのに何で何も言ってこないんだろう?

よくよく魔法使いの子の顔を見てみると呆然というか絶望というか受験で大失敗したような顔を浮かべている。

そう思ったらようやく魔法使いの子がかすれるようにゆっくりと声を出した。




















「…………ミスった」




















ん? 今何て言った?

ミスった? 『ミスった』って言ったのか?

待て待て待て待て、そもそもよく考えれば言葉が通じるか分からないんだ。

もしかしたら今の『ミスった』も『貴方は勇者様ですか?』かもしれないじゃないか!


「勇者を召喚しようとしたのに何で男が召喚されるんだ……。勇者の力を持つのは女性しかいないはずなのに」



はいアウトー!! 言葉理解出来てるー!! しかも勇者召喚しようとして失敗したっぽいじゃねえか!!

いや、まだ諦めるな俺。もしかしたら例外的な勇者なのかもしれないじゃんか。コイツの言葉からするにここの勇者は女性がなるもんらしいけど初の男の勇者になるってフラグじゃないか? そうでなくても何か特別な力で勇者の代わり的ななにかをするとか?



「しかも黒髪黒目って……魔力を一切持たない証拠じゃないか」



おいマジでやめろ!? 何とか自分で希望を持たせようとしてんのになんでことごとく潰してくんだお前は?


「せっかく高い触媒を必死に集めてようやく勇者を召喚出来ると思ったのに…勇者を召喚すればそのお供として魔王を倒す手助けが出来ると思ったのに…ああ泣きそうだ…」


こっちが泣きそうだ。下手に期待してしまった分ダメージも大きかった。


「また一からやり直しか……。ああ、もうお前一体何なんだよーーーー!!」

「それはこっちのセリフだーーーー!!」



お互い半泣きでののしり合いから始まった喧嘩は最終的に蝋燭の灯が消えて真っ暗になるまで続いた。






続かない

2010/10/17 投稿

2011/08/29 修正


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