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「蟻喰い狩人(キメラアントハンター) HUNTER×HUNTER」
(第0部)[1/1]

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 ――確かに、その結末しか在り得なかったのは理解出来る。

 虫けらを駆除するのに、人間が対等の立場で挑むだろうか?
 答えは否、殺虫剤でも振り掛けてやればそれだけで事足りる。態々人間様が自ら赴くまでも無い。
 それが核爆弾じみた『貧者の薔薇(ミニチュアローズ)』だっただけの話。
 蟻と人間との関係が現実のものと全く変わらなかったという皮肉が、実に冨樫らしかった。

 正直言えば『貧者の薔薇』では無く、人間の手で蟻(キメラアント)を倒して欲しかった。

 最強級の人間でも、蟻の王には勝てない。その事実が何処と無く悲しかった。
 プフとユピーを喰らうまでは、勝てない相手では無かった。護衛軍の二人を喰らって誰も勝てなくなり、最期まで勝ち逃げされた靄々とした寂寥感は幽白の仙水編を思い起こさせる。
 別に蟻が嫌いな訳では無い。好きな部類でも無いが、虫けらのようにくたばるのでは無く、せめて化物として打ち倒されて欲しかった。

 ――その在り得ない機会をこの手に得た瞬間、私は存在しないと絶対的に信仰する神に初めて感謝した。

 この手で蟻編の結末を変えてやろう。
 原作改変がどれ程の悪業になるかは知らないが、何処にでもいる脇役の一人として生まれたのだ。二度目とは言え、自分の人生だ、好き勝手にやらせて貰う。
 化物は人間によって打ち倒されるべきなのだ。それが生物界の頂点に立つ至高の王と言えども、同じ事なのだから。

 ――それ故に、私は自らの意思で発現させた奴等限定で、奴等を問答無用に殺せるこの念能力を、単純明快に『蟻喰い(キメラアントキラー)』と名付けた。


 No.001『開始』


 ――1987年、マリリン社から史上最高額のゲーム、グリードアイランドが発売される。

 58億ジェニーの現金一括振込みで限定百本という狂気の沙汰だが、それでも二百倍以上もの注文が殺到する。
 この世界を風刺したかの如く色々トチ狂った代物であり――とある目的の下、結束した彼等が入手出来たのは、僅か二本だけだった。
 実際にプレイ出来るのはマルチタブを使っても16名のみ。ただし、セーブデータを気にしなければ無制限に入れる事は入れるが、デメリットが非常に多い。
 その十六人の内の一人に不運にも選ばれてしまった彼ことアルマ・ロイリーは溜息吐きながらとある飲食店に張り込んで勧誘活動に励んでいた。
 これは記念すべきグリードアイランド稼働初日の出来事であり、原作開始時から十二年前の話である。

「結構来ると思ったけど、全然来ないなぁ」

 今年で十七歳になり、原作開始時には二十九歳にまでなっているのかと溜息付きたくなるアルマが張り込みに選んだ飲食店は、三十分以内に巨大パスタを完食すれば無料の上にFランクの割には高く売れる『ガルガイダー』が貰える懸賞が行われている。
 此処はゴンとキルアが懸賞の街アントキバで真っ先に行った場所であり、原作知識のある者なら真っ先に目指す場所だと自信満々に豪語していたが、三時間が経過して訪れたプレイヤーは彼の他に四人だけだった。内一人は話す前の段階で何処かに行ってしまったが。

(うーむ、思った以上に手に入れた者が少ないのか? 確かにグリードアイランドは手に入れる事自体が超難問だし、俺達でも二本しか手に入らなかった激レアな代物だが――まさか俺達以外にもういないのか……!?)

 アルマは気落ちしながら温くなった紅茶を啜る。
 既に一回『ガルガイダー』を換金した後なので原作のゴン達が如く通報される心配は無いが、主な目的を果たせずに無為に時間だけが過ぎていき、焦燥感だけが募っていく。

(ったく、何でよりによってこの俺が殺人ゲームをする羽目になったんかねぇ。生粋の戦闘職じゃねぇっつーの!)

 彼――いや、彼等は基本的に『HUNTER×HUNTER』の物語を読む側の人間だった。
 事故死した覚えは無く、自殺した覚えも無く、病死した覚えも無く、神様に穴に落とされて送られた覚えも無い。
 いつの間にかこの世界に生まれていて、ある日、唐突に前世を思い出した者が大半だった。
 アルマが所属する組織だけでも六十人はいるので、この世界に生きている同胞の者は優に三桁以上は楽に居るだろう。

 その同胞の者が抱く目的は大別して三種類に分類される。

 一つは現実世界への帰還。アルマが所属する組織の目的がまさにそれであり、その可能性があるグリードアイランドに全力を注いでいる。
 二つ目は原作に関わる事。だが、これは原作から十二年もの歳月がある為、余程の変わり者じゃない限り目指さない少数派閥である。
 三つ目は原作を改変する事。主に現実世界への帰還を諦めてこの世界に骨を埋める覚悟した者、もしくは元の世界に興味の無い人間が目指す目的であり、大半の者は原作で史上最大規模の生物災害となった蟻(キメラアント)の事前排除を大前提としている。
 アルマ達にしても、蟻編が始まる前に現実世界への帰還を果たす事を大前提としている。
 何しろ十二年も時間があり、原作知識という反則的な特権まであるのだ。これでクリア出来ない方が異常だと彼は意気込む。

(最低7人、その全員がロム持ちのソロプレイヤーだったら完璧だが――お?)

 アルマが物思いに耽けている内に新たな挑戦者が現れた。
 年頃は十二歳程度の、黒いゴスロリ風の衣装を着こなす黒髪紅眼の少女だった。
 腰元まで伸びた黒の長髪を一本の三つ編みに束ね、その細い腰元には括りつけられた拳大の銀時計を揺らしている。

(おいおい、原作のゴンとキルアぐらいの年齢でグリードアイランドに――へっぽこのオレと違って余程才能に恵まれていたんだろうなぁ。こりゃ十中八九、同胞か?)

 黒いゴスロリ服の少女は三十分以内の早食いながらも上品さを崩さず、されども山のように盛られた巨大パスタを十五分足らずで食べ切ってしまった。
 あんな小さな身体の何処に入るのだろうか。この世界の一部の人間に共通する事だが、胃の許容量が明らかにおかしい奴がいる。

「お待たせ、賞品の『ガルガイダー』アル」

 猫みたいなシェフから『ガルガイダー』を受け取った少女は説明されるまでもなく「ブック」と唱え、適当なフリーポケットに入れてもう一度「ブック」と唱えて本(バインダー)を消す。

(やっぱり事前に知っている反応だな。ありゃ)

 少女はそのまま優雅に食後の一服に――手を出そうとして、げんなりとした表情で水を渋々飲む。
 ああ、とすぐさま気づく。此処に来たばかりでカード化した金銭を持ち合わせてなかったのだ。アルマは気を利かせて紅茶を頼んだ。
 これからの交渉で少しでも好印象を抱かせて有利に進めたいという気持ちが若干合ったが、大半は可愛い美少女とお知り合いになりたいという下心からだった。

「ソイツはオレの奢りだ。気にせず飲みな嬢ちゃん」

 自分なりの好青年を装いながら、空いている対面の相席に座る。
 少女は警戒心を顕にして、紅茶に手をつけず、品定めするかの如くアルマを油断無く睨む。
 もし今の自分が不審者だと思われたなら、かなりショックである。アルマは内心落ち込んだ。

「おっと、自己紹介がまだだったな。オレの名はアルマ・ロイリー、一応プロのハンターだ。お嬢ちゃんは?」
「……名乗られたからには名乗らざるを得ませんね。私はナテルアです」

 少女は愛想無く、淡々と返す。まるで懐かない黒猫のようだとアルマは苦笑する。
 流石に臨戦態勢に入っていない状態で相手の実力を一目で把握するなんて芸当は出来ないが、少女が纏っているオーラは大河を思わせるが如く静かで滑らかだった。

「――それで何の用です? 詰まらない世間話で貴重な時間を浪費する気は欠片も無いので、単刀直入にお願いします」
「せっかちだなぁ。じゃあご希望通り単刀直入に。――この世界の作者は誰でしょう?」

 ぴくりと、少女は若干驚いたような反応をする。
 これで外したら自殺ものの恥ずかしさだったとアルマは自分の観察眼が間違っていなくてほっと一息付く。

「……他に居る事は知っていましたけど、こうして対面するのは初めてですわ」
「やっぱり同胞だったか。この店を張って正解だったよ」

 持ってきたコーヒーを飲みながら警戒心を解こうと軽く微笑む。少女は相変わらず紅茶に手をつけようとしないが。

「君の目的も『離脱(リーブ)』で現実世界への帰還だろう? もしそうなら俺達と協力しないか? 単独でのクリアがどれほど困難かは説明するまでも――」
「徒党を組んで原作の『ハメ組』の真似事ですか。謹んでお断りしますわ」

 少女が席を立つと同時にアルマは頭を机に激突させ、そのまま地面に力無く倒れ伏した。
 ぱくりと裂傷した額から夥しい流血を撒き散らし、その全身を不規則に痙攣させる。
 一体どうしてこうなったのか思考錯誤する余地も行動選択する余地も、彼には残されていなかった。


「でも貴方達の本に私の名前が乗るのはちょっとだけ厄介だから死んでね」


 少女は天使のように感情無く微笑んだ。
 やがてぴくりとも動かなくなり、跡形も無く消失して一足先に現実世界に戻った彼を一瞥すらせず、少女は悠々と自然な振る舞いで店から出た。

 ――殺した張本人が殺された者に対して、自らの手で死んだ事に驚きを抱く筈も無い。

 こうして、グリードアイランド史上最初にして最恐のプレイヤーキラーは食後の運動がてらに、音程の狂った鼻唄を口ずさみながら魔法都市マサドラを目指したのだった。




「楽勝楽勝っ! 何だ、グリードアイランドのモンスターも大した事無いな!」

 G-333「一つ目巨人」をフリーポケットに入れながら、黒髪の少年は「がっはっは!」と大口で笑った。
 年齢は十四歳ぐらいだろうか、青一色のTシャツに短パンというラフな服装で左頬に刃物で抉られたような古傷がある黒髪黒眼の少年は巨人の攻撃を軽々と避けながら一つだけの眼を殴りつけ、次々とカード化させる。

「コージ! 序盤の雑魚倒したぐらいで調子に乗らない!」
「ユエに同意」

 コージと呼ばれた少年と同年代の、桜色の着物を上着として羽織る銀髪碧眼の少女は自分の背丈より巨大な大鎌を縦横無尽に振るい、弱点の眼を切り裂かずに真っ二つに両断し、次々と葬ってカード化させていく。
 その後ろで、二つほど年下の、西洋人形のような可愛らしい洋服にシンプルなデザインの黒のミニスカートを翻らせる金髪の少女は地面に落ちたまま放置されているカードを黙々と回収していく。
 後ろ髪を縛ったポニーテールがゆらり揺れる中、彼女の背後から繰り出された棍棒を躱し、その一つ目に蹴りを入れて仕留め、カードの回収作業に戻る。
 彼女の地道な努力のお陰で取り零しは無く、計十六枚が彼等三人のフリーポケットに収まった。

「アリスも無事だな? おーし、なら早く行こうぜ。魔法都市マサドラへの一番乗りは俺達がするんだからな!」
「……いつまでも子供扱いしないで欲しい」
「ハハッ、その台詞はまともな『発』を作ってから言うんだな!」

 むーと、アリスと呼ばれた金髪翠眼の少女は不機嫌さを隠さずに口を尖らす。
 確かに彼女は自分にあった念能力を未だに一つも作っていないが、身体能力や潜在的なオーラなどは二人とほぼ同等であり、『発』が無いという一点で子供扱いされている事に強い不満を抱いていた。
 下手に急いで、強化系なのに最も苦手な操作系と具現化系の複合である『発』を作ってしまったカストロのような失敗だけは犯したくない。

 ――『HUNTER×HUNTER』の原作を知る者ならば誰もがそう思うだろう。彼等三人も嘗ての読み手であり、今は名も無き出演者の一人だった。

「よーし、魔法都市マサドラ目指してしゅっぱーつ!」
「……どうでも良いけど、方向逆よ?」

 別方向に指差しながら進もうとする方向音痴のコージに呆れながら、ユエは髪を描き上げて溜息を吐いた。

 ――彼等三人は知り得ない事だが、魔法都市マサドラに『三番目』に速く到着した組だった。





「――ガキ三人か。十中八九同胞だろうな」

 呪文カードを売っている店を遙か遠くから望遠鏡で監視しながら、二十代の中半に差し掛かった金髪赤眼の青年は、魔法都市マサドラに三番目に到着したプレイヤーを品定めする。

「どうする? 早い内に仕留めるか?」

 神字が無数に刻まれた包帯で全身をミイラ男の如く覆い隠す青年は明日の食事を決めるかの如く軽い感覚で尋ねる。
 事実、彼等三人組が此処まで来るまで駆逐したプレイヤーの数は既に両指の数では納まらない。
 特に同胞と思われる者に対しては現段階の実力に関わらず、必ず邪魔になると睨み、容赦無く葬ってきた。

「いや、今の段階で仕掛けても旨みは全く無い。格下と言えども能力は不明だからな」

 何処かで見たような民族装束を羽織る金髪の少年に、タンクトップのシャツの黒髪の少年、制服じみたブレザーを着る橙色の髪の少女の三人組を眺めながら、彼はそう判断を下す。
 途中の岩石地帯で原作のゴンとキルアの如く、岩山を一直線に掘って修行の真似事をする雑魚共とは一味違うと彼は判断する。そんな事をしていた雑魚は彼等に背後から襲われ、既にゲームオーバーとなっているが。
 ――尤も、この世界に生まれて二十数年経っている自分達には遠く及ばないという絶対的な自負が先立つ。

「当面は有力なプレイヤーの能力を探りながら『神眼』の入手が最優先だな。ある程度指定カードを集めさせてから奪おうぜ」

 彼等は自分達が今のグリードアイランドで最強のプレイヤー集団である事を微塵も疑わない。
 十五人揃わなければ手に入らない『一坪の海岸線』とそれと同等の入手難易度と思われる『一坪の密林』以外なら、全て自力で揃える自信がある。
 その二つさえどうにかしてしまえば、最初にグリードアイランドをクリアし、一年後に付けられるであろうバッテラ氏からの懸賞金500億を手にするのは自分達になる。

「そうですか? では、彼女を確保するのは次の機会ですね。至極残念です」
「お。ルル、気に入ったのが居たのか? ソイツは可哀想だなぁ」
「バサラに同意だな、今から同情するぜ」

 バサラと呼ばれた金髪の青年は下品に笑い、全身包帯の青年も皮肉げに笑う。
 彼等の最後の一人である黒髪紫眼の青年は端正な顔を酷く歪ませて、下卑た顔で嘲笑う。

「ええ。彼女には僕の首輪が良く似合いそうですね」

 彼の右手の指先には念で具現化された首輪がくるくる回っており、彼の視界には遥か彼方にいる橙色の髪の少女を捉えていた。




「屑カードばかりじゃないか! 運まで見放されているのか君は……!」
「同じ台詞をそのまま返すぜ! 『初心(デパーチャー)』を四枚被りで出したテメェだけには言われたくねぇよ!」

 金の刺繍が施された青色の民族装束を着こなす金髪茶眼の少年と、タンクトップのシャツを着る筋肉質の黒髪黒眼の少年は惜しみなく怒鳴り合う。

「二人とも落ち着いて! こんな処で喧嘩しても何にもならないでしょ!」

 いがみ合う二人の間に割って入り、白色系のブレザーを羽織った橙色の髪の少女は必死に仲裁する。
 臆面も無く舌打ちする金髪茶眼の少年ミカと、迷惑掛けて心底申し訳無さそうな顔をする黒髪黒眼の少年ガルルは事有る毎に衝突するほど仲が悪かった。
 どうして其処まで険悪な喧嘩を繰り返せるのか、何故仲良く出来ないのかと心底呆れながらマイは溜息を付いた。
 一、二年の付き合いでも無いのに、ミカとガルルは致命的なまでに反りが合わなかった。
 決して融和しない水と油という次元では無い。共に大炎上して周囲に被害を齎す火と油の次元だった。

「……それもそうだな。さて、今後の方針だが、シソの木を南下してギャンブルの街ドリアスに――」
「阿呆か。態々戻るなんて二度手間だ。更に北上してカードを取り尽くしてから反対側に行った方が良いだろう」
「これだから目先の事に囚われる単純馬鹿は……。大した実力無くても運次第で手に入るカードなら早めに入手しておいた方が無難だろう? 下手に独占されては後々厄介だしな」
「それはドリアスで手に入る指定カードに限らず、どれにも言える話だがな」

 交差した視点上に火花が散るが如く互いに睨み合う。
 自信過剰で独断専行が多いミカと、警戒深く慎重で石橋を叩いて進むガルルでは意見の食い違いなど日常茶飯事だった。

「マイはどう思う! 僕に賛成だろう!?」
「マイの意見を聞こう……!」

 そして埒が明かなくなると、何故だか知らないが、自分に最終決定権が渡される。
 二者択一、意見を通した方は気分を良くするが、通らなかった方は頗る不機嫌になる。何方を選んでも同じ展開になるのでいい加減げんなりする。
 恐らくグリードアイランドで最も纏まりの無い攻略組だろうと内心溜息付きながら、マイは内心嫌々選択するのだった。




 魔法都市マサドラに『一番目』に到着し、『二番目』のバサラ組が到着する前に街から立ち去った三つ編みおさげのゴスロリ少女は、自らの手で手に入れた指定カードを愉しげに眺める。

「指定カード073『闇のヒスイ』独占完了っと。ゲイン待ち対策と使用する為に三十個ぐらい多めに取っておくかね」




 ????組

 ???????(♀12)
 系統不明
 能力不明

 現在の指定ポケットカード
 No.073 闇のヒスイ
 全1種類 15枚



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