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「NADESICO ZONE OF THE ENDERS 2話:赤くない火星」
(第2部)[1/1]

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火星、それは宇宙へと活動範囲を広げていく人類がテラフォーミングすることによって移住が可能となった惑星である。
だが、そのテラフォーミングはまだ完全では無く、宇宙から見たその姿は未だに「火のように赤い星」であった――。

――いや、はずであった。


「おい……エイダ。あれは何だ?」
「はい、火星ですが」

彼の眼前に見える星。
エイダの言葉が間違っていなければそれは火星だという。

だが――。

「お前な、火星ってのは赤いから火星っていうんだよ! あれはどう見ての赤くねえぞ!」

――彼の眼前に見える星はどうみても彼の知っているソレとは大きく違っていた。

「いえ、お言葉ですが確かにあの星は火星の座標と一致しています」
「んじゃ、何で赤くねえんだよ」
「それは私にもわかりません」

延々と繰り返される、答えのない論議。
何度聞かれようともエイダにも分からないものは分からないのである。

「……まあいい、とりあえず降下するぞ」

赤くない火星を不審に思いつつもジェフティを火星へと降下させる。
これ以上変な事が起こらないだろうな、という淡い希望を抱きつつ。









2話:赤くない火星









「おい、エイダ」
「なんでしょうか?」
「何度も質問して悪いが……ありゃなんだ?」

だが、どうやら人の望みとは儚いものなのだろう、その思いは一瞬で裏切られる。
彼の視界に映っているのは大気と摩擦で発熱しているボディの表面でキラキラと輝く見慣れる光。
今まで長らくランナーをやっきたディンゴだが、こんな現象が火星で起きるなど聞いたことが無かった。

「解析してみます」

ディンゴの声に忠実従い、エイダは光の原因を解析し始める。

「わかりました。解析した結果、あの光はこの大気に含まれる極小のナノマシンが機体表面接触することで発生しているようです」
「ナノマシン? 第一次火星テラフォーミングに使われたのは知ってるが……これほど大量に散布されただなんて聞いたことないぞ。ってか前に火星に降りた時はこんなことは起こらなかったはずだ」
「ですが、実際に目の前で起こっています」
「確かにな……で、害はないのか?」
「どうやら大気以外の物質と接触すると自然分解されるようにできいるようです。そのため当機に影響及ぼす可能性はありません」

とりあえず害がないなら大丈夫か、と安心するディンゴ。
だが実際のところは、あまりに自分の知らないことが起こりすぎている今の現実がどうでもよくなってきていたというのが本音であった。

「間もなく地表に到達します」

エイダの声がすると同時に、雲が邪魔で見えづらかった火星の大地がはっきりと見えてくる。

「ふう、無事到着か……エイダ、現――」

そして、エイダに現在地を問おうとした瞬間――。

「未確認飛行物体接近」

――突然、アラートがコックピットに響き渡った。

「なんだありゃ!?」

何時の間に湧き出たのか、自分の周囲を囲うように旋回する夥しい数の謎の機体が展開されている。

「データに該当機体無し。形状はバフラム軍のスパイダータイプに比較的似ているようですが、まったく別機体です」

すかさず機体の照合を終えたエイダの声がディンゴの耳に入る。
確かにエイダの言うとおり比較的バフラム軍のスパイダータイプに似ていないこともないが、どちらかといえばバッタに近い形状の機体であった。

「どうしてここまで発見が遅れた?」
「どうやら周囲に存在する渓谷を利用してレーダーの感知網から逃れていたと思われます」
「ちっ……仕方ねえ。エイダ、目の前の奴に通信を……」
「ミサイル接近」
「なにぃ!?」

こちらに戦意は無いと伝えようとした矢先、突如目の前の機体からミサイルが発射される。
とっさにシールドを展開し防御したが、あと数瞬遅れていれば直撃は必至だっただろう。

「おいおい、いきなりかよ!?」
「目標に生体反応無し。無人機のようです」
「ちっ、問答無用ってことか」

戦闘は可能だが、今のジェフティは万全には程遠い状態である。
できれば極力戦闘は避けたいのが本音であった。

「エイダ、今のこっちの状態じゃあ分が悪い。とりあえず逃げるぞ」
「完全に囲まれていますが?」

エイダの言う通り、レーダーには百を超える数の赤いマーカーが表示されている。
事実上、完全包囲と言ってもいいだろう。

「なぁに――」

だが、先ほどの言葉とは裏腹に今のディンゴの表情には焦りは見えない。
いや、寧ろ余裕の笑みさえ浮べている。

「――ノウマンの野郎に嵌められた時比べりゃあ屁みたいなもんだぜ!」

ディンゴがそう叫んだ瞬間、バーニアが勢い良く点火する。
同時に突風が起こり、大地に積もっていた大量の砂埃が巻き上げ、一瞬にして完ジェフティの姿を完全に覆い隠してしまった。

「!?!?!?」

一瞬にして目標を見失ったことで、まるで動揺したかのような仕草をとるバッタ達。
想定外の行動にプログラムが対応できず、飛び回っていたバッタ達が一瞬その動きを止めてしまう。

そしてまるでその瞬間を待っていたかのように、砂埃の中かから幾条もの光の筋が飛び出してくる。
ジェフティのホーミングレーザー、それが数条の光の正体だ。
ディンゴはあの砂埃が舞い上がった瞬間、一瞬にして前方に立ちふさがる敵の幾つかをマルチロックし、ホーミングレーザーを放ったのである。

レーザーの一本一本が狙い済ましたかのように、動きを止めていた幾つかの敵に突き進んでいく。
バッタも一瞬送れてそのレーザーを感知したのか慌てて回避行動をとるが、まるでそれはは意思をもったかのようにバッタの動く方向へと進路を変える。
このまま行けば数瞬後には大量の花火が火星の空に瞬くはずであった。

――そう、この時点ではディンゴはもちろん、エイダでさえもそうなると予想していた。

「なんだと!?」

だが、予想は虚しく外れる。
ホーミングレーザーが敵機に直撃する寸前、まるで何かにぶつかったかのようにその軌道をずらされたのである。

「攻撃が全て弾かれました。敵機全機健在です」

エイダが冷静に現状を報告してくる。
ディンゴは一瞬見間違いかと思い、その後続けてレーザーを発射する。
だが、それも先ほどと同じく敵に当たる直前で虚しく方向を逸らされてしまった。

「エイダ、原因は分かるか?」
「分析結果がでました。敵機体の周囲に空間の歪みが発生しています」
「空間の歪み?」
「はい、敵機を覆うように展開された空間歪曲力場のようなものでレーザーの軌道が逸らされています。恐らくホーミングレーザー等の低出力エネルギー兵器は全て通用しないと思われます」
「ちっ、まるでアーマーンを覆っていたフィールドの小型版だな」

細かな違いはあれど、アーマーンの周囲を覆っていた空間圧縮フィールドと似たような性質を持っているなら相当厄介なものである。

「いえ、アーマーンを覆っていたのは空間圧縮による質量の断層を使ったフィールドであって、空間歪曲では……」 
「だあ、うっせえ! 今はそんな細かいことよりどうすれば突破できるか教えろってんだよ!」

エイダにそんな薀蓄はいらないと叫ぶディンゴ。
今はそれをどうやって突破できるのかが重要であったのだ。

「それは比較的容易です」
「どうするんだ?」
「はい、バーストショットなどの相手の空間歪曲力場を突破できるような高出力エネルギー攻撃をぶつける、もしくは――」
「もしくは?」
「――空間の歪曲の影響を受けづらいブレード等の物理攻撃、もしくはグラブで相手を地表に叩き付けるなどすれば突破可能です。この場合、後者の方があなたのお好みですね」

まるで当たり前の事実を述べるかのように淡々と報告するエイダ。
ディンゴもその台詞を聞いて、エイダに答えるかのようにジェフティを操作する。

「まったく――」

流れるような動きで目の前にいたバッタに接近するとブレードを叩き落すジェフティ。
まるで紙のように空間歪曲力場もろとも装甲を切り裂かれ、バッタが爆散する。
そして次の瞬間にはディンゴはまるで疾風――いや雷光の如くジェフティを走らせ、目の前にいるバッタ達を次々とすれ違い様に薙ぎ払っていった。

「――良くわかってるじゃねぇか!」

疾風怒濤、まさにその言葉が似合う勢いでジャフティは敵の中を突き進んでいく。
その通り過ぎた経路には切り裂かれたバッタの残骸だけが残され、まるで雨のように降り注ぐミサイルさえもジェフティの持つ慣性を無視した機動により易々と回避され迎撃されていく。

そして包囲網が展開されてからたった数十秒。
たったそれだけの時間でバッタ達は包囲網を完全に破られ、渓谷の隙間へと逃げ去っていくジェフティの後ろを慌てて追いかけていくこととなった。





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「周囲のスキャン終了、敵影ありません」
「ふう、やっとまいたか」
「お疲れ様でした」
「まったく……なんつうしつこい奴らだ。まるでゴキブリみたいにゴロゴロ沸いてきやがって」
「どうやらあのバッタのような機体はこの周囲一体を監視するように展開しているようです。その監視網に引っかかったのでしょう」

初めはジェフティの機動性を持ってすれば軽く振り切れると思っていたのだが、驚いたことに何処から沸いたのか逃げる先々にバッタ共が待ち構えていたのである。
そしてしばらくの間、しつこく追いかけてくるバッタと渓谷の隙間で絶叫空中カーチェイスを繰り返したディンゴは、偶々見つけた岩の裂け目に身を潜めることで漸く追跡を逃れることに成功したのだ。
もしもあの時裂け目を見逃していれば、今もまだ奴らと空中カーチェイスを繰り広げていたことだろう。

「にしても、入口は狭い癖に中はこんなに広いとはな……」
「前方の突き当たりまで数百メートル以上あるようです」

自分達が滑りこんだ岩の隙間の中が思ったより広かった事に驚くディンゴ。何しろ入口はジェフティがギリギリ滑り込めるほどの僅かな隙間だったのである。
だが、いざそこを通り過ぎるとそこにはジェフティが飛びながら移動できるほど広い空間が存在していたのである。

「天然にしては珍しい――いや、それにしちゃあやけに綺麗すぎる」
「それだけではないようです。後ろを見てください」

そうエイダに言われ、ジェフティを後ろ向きに旋回させる。
するとそこには、大半が体積した土砂で覆われているものの、はっきりと人工物と分かる入口のようなものが鎮座していた。

「どうやら我々が入ってきた隙間は、本来そこにあった入口が地殻変動のような大規模な自然現象で塞がれた後、その蓋のになった土砂の一部が偶然崩れたものだと思われます」
「まさか古代人の遺跡とでも言うじゃあるまいな?」
「いえ、そのまさかの可能性が高いと思われます」
「まったく、俺達は考古学者じゃねえんだぞ。こんなもん見つけても仕方ねぇだろうが……」
「ですが火星に知的生命体がいたという記録はありません。もしもこれを発表すれば世紀の大発見だと思われますが?」
「勘弁してくれ……」

今更、有名になど成りたくないと溜息をつきながら断るディンゴ。
確かに、火星に知的生命体がいたという事実を裏付けるような発見をしたことには多少驚きを感じたが、それ以上は考古学者でもないディンゴにとってはどうでもよいことだった。

「まあいい、とりあえずこの中を探索してみるか。どうせしばらくの間は奴らもこの周囲を警戒してうろうろしてるだろうからな」
「わかりました。ソナーをパッシブからアクティブに切り替えます」

そう言うと同時に、レーダーに空洞の構造が細かくに表示される。
どうやら自分達がいる場所はまだ通路のような場所であって、その奥には更に広いドームのような空洞が存在しているようである。

「エイダ、念の為何かあったら直ぐ対処できるようにしとけよ」
「はい、既にいつでも最大出力で行動可能な状態にしています」
「相変らず仕事が早いな」
「レオが私に搭乗していた頃は常に危険な状況でしたので……その影響だと思われます」
「やっぱりお前は惚れた男に合わせるタイプだな」
「以前もおっしゃられましたが……その言葉の意味が良く理解できません」
「はは、気にするな」


相変らずレオの事が絡むと、言葉に少し感情が入り混じるエイダに苦笑するディンゴ。
人工知能らしからぬ事だがディンゴにとっては充分面白い話相手であった。

そしてその会話を終えると同時にディンゴはジェフティを滞空させながらゆっくりと空洞の奥へと進ませていく。
しらばく進むと自分達が入ってきた裂け目から差し込む光が届かなくなり、完全に闇が空間を支配する。

ディンゴは暗視モニターとエイダがスキャンした空洞の構造を頼りに曲がりくねった通路のような空間を進んでいく。
しばらくの間ジェフティの駆動音だけが響く静寂な空間が続いた。

「エネルギー反応感知」
「なに?」

と、その時突然エイダのレーダーが何かを捕らえる

「この先にメタトロン反応があります」

メタトロン、それがそのエネルギーの正体だった。

「そんなばかな。火星にメタトロンの鉱脈があるなんて聞いたことないぞ」
「いえ、間違いありません。しかもかなり強力な反応です」
「まさか……またお前みたいな奴が捨てられてたっていうオチじゃないだろうな?」
「いえ、これほど強力なメタトロン反応を発する機体は当機ジェフティとアヌビス以外存在していません。アヌビスは貴方の手によって破壊されていますので、今ではこのジェフティのみです」
「じゃあ、一体なんだっていうんだ?」
「不明です」
「ちっ、仕方ねえ。行って確認するぞ」

今までゆっくりと滞空していたジェフティを加速させるディンゴ。
エイダはああ言ったが、万が一アヌビスが生き残っていた可能性を考えると急がずにはいられなかった。

「広い空間にでます、注意してください」
「わかった」

数十秒ほど進むと前方に薄っすらと出口らしき明かりがみえる。
同時にエイダの軽い注意が耳に届き、ディンゴはそれに軽く返事をするとその出口へゆっくりとジェフティ進ませた。

「――――っ」

今まで暗闇に慣れていた眼に光が飛び込み、目を細める。
だが、エイダが気を利かせてくれたのか軽い遮光が成され直ぐに視界が回復する。

「何だ……ここは?」

目の前に映る光景に思わず声が漏れる。
まるでクレバスのように深い巨大な縦穴がそこにあった。
上をみれば薄っすらと明かりが見え。その先には青空が見える。
そして、その壁面の所々に人工的に補強された後が見て取れた。

「目標確認。あの箱状の筐体のようなものからメタトロン反応が検出されています」
「あれか……」

そして問題の物体はその穴の一番底に鎮座していた。
ディンゴはゆっくりとジェフティを降下させ、その謎の筐体に近づいていく。
近づくにつれてその姿はっきりと見て取れるようになる。
複雑な模様が刻まれたまるで黄金で出来ているかのように輝いている謎の筐体。
明らかに自然にできたものでは無いとわかる、異質な物体であった。

「エイダ、これが一体なにか分かるか?」
「いえ、用途は全く不明です。かなりの高純度のメタトロンが使用されているようですが、それ以外にも未知の物質が数多く使用されているようです」
「未知の物質? 何だそりゃ?」
「文字通り未知の物質です。それどころかこの物体を構成している大半の物質はおろか、その構造すらほぼ解析不可能です」
「おいおい、まじかよ……」

エイダの報告を聞いて、呆れ顔になるディンゴ。
何しろ、俗に言うオーパーツとやらを発見してしまったようなのである。

「まあいい、とりあえずやれるだけ解析してみてくれ」
「わかりました。それではジェフティの末端回路を目標に接触させてください」
「了解っと」

エイダに言われた通りディンゴはジェフティの腕を目の前の筐体の伸ばす。
そして、手に備え付けられたメタトロンコンピュータの末端が筐体に接触した瞬間――

「――ン――プの――プロ――ム――入――」

「なっ、どうしたエ――があああぁぁぁ!?!?!?」

――筐体が発光し、ジェフティに何かが流れ込んだと思うと、ノイズが混じったエイダの音声とディンゴの絶叫がコックピットに響き渡った。

まるでゼロシフトプログラムが着床した時のように、機体表面からエネルギーが放出しながら大地に膝を着くジェフティ。
溢れたエネルギーがジェフティを中心に渦を描くかのよう旋回しながら、ジェフティを包み込むかのように渦を形成していく。
そして数秒後にはそのエネルギーの光の渦は完全にジェフティの姿の姿を覆い隠してしまったのだ。

まるで光の繭に閉じ込められたかのようになったジェフティ。
その直ぐ傍ではまるで脈動するかのように先ほどの筐体が明滅を繰り返している。

そしてそのまましばらく時間が経過し、その場に静寂が戻ってきた頃――。
――ついに光の繭に変化が現れた。

まるで帯が解かれるようにエネルギーの奔流が消え始めたのだ。
徐々に消えていくエネルギーの奔流。

そしてそのエネルギーの奔流が収まったそこには――


――まるで色素が抜け落ちたかのように白亜に染まった装甲を身に纏った、完全に修復されたジェフティの姿があった。
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あとがき
エイダは素直クールだと思う。

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