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「魔法の世界の魔術し!(ネギま!×Fate)」
(第0部)[1/1]

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――鉄を打つ音が聞こえる。
 どこからともなく響く鉄の音。
 近いのか、遠いのか。
 規則的に、断続的に、絶え間なく、休むことなく。
 繰り返し、繰り返し。
 響く、響く、響く。
 まるで、どこかに誘うように、導くように。
 只、漂う自分はその誘いに導かれるままに……


◆◇―――◇◆
 

 ふと、目が覚めた。
 なにか長い、とても長い夢を見ていた気がする……
 ただ、それがどんな夢だったか思い出そうにも、夢は既に霧のように霞んでしまい、思い起こすのは難しい。得てして夢とはそんな物だろう。
 とりあえず、横たわったままの体を頭を振りながら起こす。
 ふう、と一息吐き出し、落ち着いたところで周囲を見回す。
 で、

「……ここ、どこさ?」
 
 見渡す限り木、木、木。
 既に夜なのであろう、辺りは薄暗く、その全容は見渡せない。
 ……しかし何だって、一切合財、微塵も、ミジンコの毛ほども記憶に無い場所に寝転がっていますか、俺は。

「……む」

 いかん、イカン。
 こういう時こそ平常心でありますヨ?
 『ヨ?』とか、軽くパニくる自分を無理矢理なだめ、一から順にゆっくりと記憶を掘り起こす。

 赤い炎に彩られた世界。
 そこから救ってくれた、自称魔法使い。
 『衛宮』の苗字。
 新しい日々。
 新しい家族、切嗣、藤ねえとの出会い。
 楽しい時間と空間。
 そして、永遠の別れ。
 正義の味方になると決めた瞬間。
 ガムシャラに走り続ける毎日。
 新しく妹分ができた日。

 ……うん、覚えている。
 掛け替えの無い日々。
 それはこの、『衛宮士郎』の魂に刻まれた思い出だ。
 でも、まだここに居る理由には至っていない。
 更に記憶を探る。

 心臓を穿つ紅い棘。
 そして、

 月夜に浮かぶ金砂の出会い。

 ああ、これだけは幾ら時を経ても色褪せず浮かぶ情景だ。
 そして――、
 
「……って、あれ?」

 ……おかしい、その後の記憶が曖昧だ。
 もっと、深く深く思い出そうとする。

『貴方が、私の鞘だったのですね』
『士郎を真人間にして、思いっきりハッピーにするのが私の野望なんだから』
『じゃあお花見とかしたいです、わたし』
『ええ。わたしはお姉ちゃんだもん。なら、弟を守らなくっちゃ』
『前から思っていたけど……貴方ロックスターみたい』
『では背中合わせで行きましょう。……何というか、いま貴方の顔を見たらひっぱたいてしまいそうなので』

「――ッガ!?」

 瞬間、頭をハンマーで殴られたかのように頭痛が走った。
 ……なんだ、今の記憶は?
 脳裏に走った映像が、幻想か現実かはっきりしない。
 それが最近のことなのか、遠い昔の出来事なのか???
 ただ、そんな出来事があったという記憶だけははっきりと残っている。
 順序がおかしいのか、混乱した頭で整理しようとしてもうまくいかない。
 けれど途切れ途切れの記憶がその後も思い浮かぶ。

 休むことなく、皆が笑える場所を求めて走り続けた。
 傷つき倒れる身体、這いずってでも先に進もうとする心。
 向けられる笑顔に力を貰った、向けられる敵意に心で泣いた。
 信じた者に救われた、信じた者に裏切られた。
 助けたい人を助けた、助けたい人を殺した。
 生命の足し引き、生命の天秤。
 綺麗な物が好きだった。醜いものは悲しかった。
 終わらない旅、止まることを知らない足取り。
 ――それでも、いつかきっと。
 
「――っ」

 眩暈がした。
 記憶の濁流に飲み込まれそうになる前に、強引に蓋を閉める。
 頭がフラフラで、上手く動かないせいか立ち位置を見失いそうになる。

「……仕方ない、とりあえず曖昧なことは後にして、現状把握を優先しよう」
 
 ひとり呟いて立ち上り自身の戦力を把握する。
 創造理念、基本骨子、構成材質、製作技術、憑依経験、蓄積年月の再現による物質投影。
 魔術理論、世界卵による心象世界の具現。
 魂に刻まれた『世界図』をめくり返す固有結界。
 今まで幾多の死線を潜り抜けて来た戦闘技術、経験、肉体強度。
 ――修正、肉体寸法の変化に伴う戦闘技術に変更あり。

「……は?」
 
 自身に掛けた肉体走査の魔術の内容に思わす首を傾げる。
 肉体寸法の変化ってなにさ?
 改めて自分の身体を観察する。
 とりあえず格好は私服で、これといった外傷も無い。
 拳をギュっと握り締め感触を確認。
 そういえばなんか違和感がある。
 リーチが短いようなそうでもないような……
 視線が低いようなそうでもないような……
 元々の身長がどれ位か思い出せないがなんか違和感を感じる。

「うん、まあ、――大したこと無いか」

 と、一人納得する。
 フフフ、『あの』遠坂に付き合ってると、体が多少伸び縮みした程度でいちいち驚いていたらこっちの精神がもたんのデスヨ?
 遠坂と書いてトラブルメイクラッシャーと心の中でルビっているのはナイショだ。
 その心は、自分でトラブル作るにしても、他人のトラブルにしても更に大きくさせて、更に更に派手に解決するという遠目に見てる分には鮮やかなヤツという事だ。当時者としては実にたまったもんではないのである。
 ちなみに、『ルビっている』という部分も遠坂さん家の凛ちゃんのご幼少時の輝かしい思い出(トラウマとも言う)と微妙に掛かっているのがポイントだ。
 これを口走ると何処からとも無くガンドと絶招が飛んできそうなので中の大事なところにしまっておく事にする。うん、そうしよう。

「さて……っと」
 
 傍らに転がっていた自分のであろうバックを背負い、改めて周囲を見渡し、側にあった大きな樹を見上げる。
 それを”一足跳び”でテッペンに飛び上がる。
 その瞬間、肌寒い風が頬を撫でた。
 吐く息は白く、空気は乾燥している。
 季節は恐らく冬。
 空気が澄み切った夜空を見上げれば、輝く大きな満月。
 月は好きだ、アイツを思い出させてくれる。
 周辺は森のようだが、遠くには街の明かりがキラキラ煌いて見える。
 ソレを確認し、眼球に強化の魔力を叩き込み様子を探った。

「ここは……西洋――か?」
 
 あの建築様式の町並みはいかにも西洋なのだが、イマイチ自信が持てない。
 その原因が、

「なんだ? あの馬鹿でかい樹は?」

 あんな大きな樹が街中に生えている国なんて俺は知らない。
 いや、俺が知らないだけであるのかも知れないが、少なくとも俺の記憶には該当が無い。
 にしてもでかい。つーかでかい。ものごっついでかい。
 遠目に見て他の建造物と比較してみるが、まるでパースが狂ってるように感じる。

「――はあ、本当、どこなんだってんだよ、ココは」

 全く見覚えのない光景に思わずため息を漏らし、樹から飛び降り地面に降り立つ。

「何にしても、ココでこうやってても何も変わらないか……」

 肩に下げたバックを背負い直し、先ほど確認した町明かりを目指して歩を進める。
 さて、鬼が出るか蛇がでるか……どちらにしても厄介なことに巻き込まれた感は拭えない。
 サクサクと森の中を見回しながら歩き出す。
 そこへ――、

「――良い月夜だ。こんな夜に忍び込もうなどと言う不届き者には罰を与えねばなるまい。なあ、侵入者?」

 金糸のような長い髪を風に遊ばせる、人形の様に美しい少女が月の光に濡れて佇んでいたのだった。


◆◇―――◇◆


「ふう、いい月夜だ」

 窓枠に腰掛けながら日本酒の入ったお猪口を傾ける。
 今宵は満月。
 例え魔力が封印されていようとも、この身は闇の眷属たる吸血鬼。月が満ちる夜は多少なりとも力を取り戻す。
 気分も若干高揚しているのが自分でも分かる。
 ああ、本当に良い気分だ。
 冬の澄んだ空気のおかげで一層美しく夜空に浮かぶ満月。それだけで他の肴など不要というものだ。

「……む」
 
 しかし、そこで違和感を感じとる。

「――マスター」

 側に控えていた従者たる茶々丸も感じとったようだ。

「――ああ、分かっている。ちっ、侵入者だ」

 無粋な輩め、この美しい月夜を愛でる雅を解さぬか。
 せっかくの気分が台無しだ。

「これもおかしな封印のせいだ。――ったくメンドーな」

 タカミチが一々魔法界からの呼び出しに応じているからそのしわ寄せが私にくるんだ。
 まあ、明日にはタカミチも帰って来るらしいので、とりあえずは今夜までであろうと高をくくっていたのだが……最後の最後でコレだ。

「マスター、お供します」
「ああ、今日は構わん。力もある程度戻っているし、なにより――風情の欠片も持ち合わせておらん不逞の輩には私が直々に手を下さねば気がすまん」
「――YES、マスター」

 茶々丸を下がらせ一人で侵入者の元へと向かう。
 そうして家を出ること数分、それは思いのほか簡単に発見できた。
 侵入して来た者は隠れる気はないのか、周囲をしきりに気にはしているものの、気配をまるで隠す事無く町の方向へと向かって歩を進めていた。
 
「……なんだ、まだガキではないか」
 
 木々の隙間から月明かりに照らされ、その姿が露になる。
 まず目に付いたのが鉄が錆びたかの様な赤みのある髪。
 年の頃は15〜18位といったところか。背は余り高くはないが無駄の無い体つきをしている。
 だが、バックを肩から下げ、枯れ葉を踏みしめて歩く姿は、侵入者というよりはどこかの旅人が道に迷っているかの様に見える。
 ……こんな緊張感も無さそうなヤツに月見を邪魔されたのか。――馬鹿馬鹿しい。さっさと、追っ払って月見の続きをするとしよう。

「――いい月夜だ。こんな夜に忍び込もうなどと言う不届き者には罰を与えねばなるまい。なあ、侵入者?」

 コレが――『衛宮士郎』という男との、最初の出会いだった。


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