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「01.藤村初日という少女」
(第1部)[1/1]

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 ここは鶴賀学園の保健室。
 入学式当日だというのに、早速一人の生徒がお世話になっていた。

「ついてねぇ……」

 不機嫌そうに眉を顰め、藤村 初日(ふじむら はつひ)は零した。

「そんな顔しないの。あなたすごい表情してるわよ」

 左手首にシップをテープで固定しながら保険医の女性が注意する。
 初日が備え付けられている鏡を覗き込むと、不快感を露わにした自身の顔が映っていた。
 やさしそうな印象を他人に抱かせるやわらかな曲線を描いている瞳と眉、ショートボブに揃
えられた黒髪もまた丸いフォルムである。そんなどこか小動物を連想させる様なかわいらしい
顔つきのせいで、半泣きになっている様にも見えた。

「はい、終わり。自分の教室の場所はわかる?」
「……大丈夫です。ありがとうございました」

 自分の運のなさはいったい、いつから始まったのか。
 その答えは――生まれたその日と決まっている。
 1月1日。それが彼女の誕生日。その名前は初日の出から取ったものだと両親から聞いた。
 これを聞くと、大抵の人は「へえ、縁起のいい日に生まれたんだねぇ」という感想を持つ。
 しかし、彼女はその日に生まれるためだけに一生分の運を使い果たしたのではないかと信じ
ていた。

-

 鶴賀学園入学式の当日、藤村家の前にはどこからか大量のカラスが現れ、たむろしていた。
 ゴミ収集所が近いという訳でもないのに、一体何の用事があるというのか。不吉である。
 初日は玄関先からその光景をどこか達観した様子で眺めていた。

(わかっていたけど、こっちでもあたしはこうなのか……)

 靴を買った当日に靴ひもが切れる、週に一回は茶碗が割れる、などというのは日常茶飯事。
 茶柱など一度も立った試しがない。
 今も昔も藤村初日はとにかくツイてない少女だった。
 この体質はどうやら母から受け継いだらしく、母が自身と同じ様な不吉な事態に直面してい
るのを何度も見てきた。

「初日〜! ゆっくりしていると間に合わないわよ〜!」
「わかってる! いってきます!」

 少しボーっとしていると、玄関先から急げと言う母の声が聞こえた。
 初日は駆け足で玄関を潜り、学校へと向かう。

(少し感傷に浸っていただけなのに……。ま、仕方ない)

 入学式は父に車で送り届けてもらう予定だった。
 しかし、なぜかタイヤがパンクしており、入学式の朝をのんびり過ごすという計画は破綻。
 のんびりするどころか、朝食を流し込む様に掻き込むことを強要された上、その後にはラン
ニングと来た。
 
(ついてねぇ……)

 初日は汗だくになりながらも何とか遅刻を免れた。
 しかし、入学式に備えワックスでピカピカに磨かれた体育館の床で悲劇が起きた。

「のわっ!」

 足を滑らした彼女は思わず床に手をついてしまい、無事? 捻挫を果たす。
 結局入学式には参加できず、保健室へ直行となった。

-

 入学式を保健室で過ごすという輝かしい高校デビューを飾った翌日、初日は麻雀部の部室へ
と足を運んでいた。
 ドアをノックして、どうぞという返事を聞いて中に入った。

 部屋では自動卓を3人の女性が囲んでいた。
 一人は薄紫色の髪をした知的な印象を受ける人。
 もう一人は濃いピンク色の髪の小柄な人。どちらも部活説明会で見た顔である。
 自身と同じく入部希望者と思われるのは黒髪をポニーテールにしている人。この娘は一緒の
クラスの津山睦月だ。

「君は入部希望者で良いのかな?」

 そう口を開いたのは薄紫色の髪の女性。
 その問いにYESと答えると、立ったままでは落ち着かないだろう、空いている席に座って
くれと言われ、初日はその指示に従った。

「ワハハ、2人目かー。初日から入部希望者が来るとは嬉しい誤算だなー、ユミちん」
「ああ、あと1人で団体戦にも参加できるな」

(ちょっ、団体戦には5人必要だから……部員はここにいる4人だけかい!)

 無茶苦茶だと初日は思わず突っ込みたくなったが、以前通っていた学校の様に廃部になって
いるよりはマシかと思い直す。

「あ、奈良産のドジっ娘だ。左手は大丈夫?」

 睦月がからかう様な目線で話しかけてきた。
 初日は口をとがらせながらも、大丈夫だよと左手をひらひらとさせる。

「ちょっと痛いくらいで麻雀は問題なく打てるよ。でもドジっ娘は止めて、津山さん」

 派手に転倒して入学式をスルーするという荒技を見せた初日はクラスでドジっ娘認定をされ
ていた。
 知り合いがいればまたいつもの不幸かとスルーされるのだが、あいにく高校入学と同時に越
してきた長野に知り合いはいない。

「津山とは知り合いなのか? なら都合が良い。説明会でも自己紹介したからもう知っている
かもしれないが、私は2年の加治木ゆみだ、よろしく頼む。こっちが……」
「同じく2年で部長の蒲原智美だ。ワハハ、よろしくなー」

 薄紫色の髪の女性が加治木、小柄で濃いピンク色の髪の人が蒲原と名乗った。

「1年の藤村初日です。よろしくお願いします」
「なら早速入部届に署名を……と言いたいところだが、なあユミちん」

 蒲原は意味ありげに途中で言葉を切って、加治木に流し目を送る。
 すると加治木は好戦的な笑みを浮かべ、初日達にこう言った。

「ん、そうだな。せっかく4人揃ったんだ。麻雀部員らしいことをしようじゃないか」

-

※牌の表記
萬子 一二三四五六七八九 赤【五】
筒子 ????????? 赤【?】
索子 123456789 赤【5】
字牌 東南西北白發中

-

東風戦 アリアリ 喰い替えなし 25000点持ち30000点返し
東家 蒲原智美
南家 津山睦月
西家 加治木ゆみ
北家 藤村初日

東1局0本場 ドラ3 親 蒲原智美

蒲原手牌  

一巡目 
二三六八????2367白 ツモ3 切白

(ワハハ、ドラ2枚にタンピン三色まで伸びそうな好配牌。部長としていいとこ見せるぞー)

 麻雀部設立から約半年、その間は自身の相棒と二人っきりの時間が多かった。
 待ちに待った新入部員。それが二人も来てくれたのだ。
 否が応でも蒲原に気合いが入る。

二巡目 
二三六八????23367 ツモ【5】 切?

 自身の気持ちに牌が応えてくれているのか。
 そう思えるくらいにツモも良かった。

三巡目 
二三六八???233【5】67 ツモ四 切2

(最低でもオヤマンはもらったぜい、ワハハ)

 嵌七萬待ちでタンヤオドラ3聴牌。
 出和了りなら40符4翻、ツモ和了りなら5翻でどちらにしても満貫。
 8索引きで三色、五萬引きで一四七萬の3面待ちに移行できる良型の牌姿。
 そして七巡目、赤五萬を引いた蒲原はリーチをかけた。

「リーチ」

七巡目 
二三四【五】六???33【5】67

(リーピンドラ4で親ッパネ確定。四七萬ならタンヤオが付いて一発かツモで親倍。これを和
了って東風戦でまくられることはない! ……たぶん)

捨て牌
東家 蒲原智美
白?21?南
八リーチ

南家 津山睦月
西北九9一二

西家 加治木ゆみ
??發東86

北家 藤村初日
西北東5?南

睦月
切?

加治木
切1

初日
切2

(全員現物切り……。親リーに突っ張ってくれるわけないか。なら自分でツモるだけだ!)

蒲原
ツモ一

(ワハハ! マジで来た!)

「ツモ! リーヅモ一発平和ドラ4、裏は……なし。8000オール!」

蒲原智美 49000(+24000)
津山睦月 17000(−8000)
加治木ゆみ 17000(−8000)
藤村初日 17000(−8000)

-

東1局1本場 ドラ東 親 蒲原智美

初日手牌

一巡目
二五八????59南西白中 ツモ白 切南

(麻雀牌の感触が懐かしい……)

 藤村家は家族全員が麻雀を打てるものの、父が母との同卓を頑なに拒否する。
 その為、通っていた麻雀教室が潰れて以降は、ネット麻雀をたしなむ程度だった。

二巡目
二五八????59西白白中 ツモ一 切西

(しかし、ついてねぇ……。いきなり32000点差か。こんな理不尽は久々だ……)

 でも、やっぱりおもしろい。初日は思わず口元が緩んでいた。
 奈良に住んでいた頃、しばしばこんな苦境に立たされていた記憶があった。

三巡目
一二五八????59白白中 ツモ九 切5

『ツモ! ツモドラ7、8000オールです!』

 最初に自身を麻雀教室に誘ってくれたドラ爆女を思い出した。
 本当に良い精神訓練になったものだ。

四巡目
一二五八九????9白白中 ツモ9 切五

『そんなオカルトありえません!』
『確率の偏りです!』

 次に、そう言って理不尽に憤慨していた一つ年下の友人の姿を思い出す。
 小学六年生とは思えないすばらしい「おもち」をお持ちだったピンクブロンドの少女。

(そういえば長野に引っ越したんだっけ……。案外近くに住んでいたり)

五巡目
一二八九????99白白中 ツモ三 切中

(でも、あの娘は中三。中学と高校では接点がないからなあ……って余計なことを考えてない
で対局に集中せんと)

六巡目
一二三八九????99白白 ツモ七 切?

七巡目
一二三七八九???99白白 ツモ白 

 ?筒切りで白チャンタ聴牌。
 ツモなら満貫、出和了りなら5200。リーチをかければ一発ツモで跳満になる手だ。

(嫌な予感がする……。大抵トントン拍子に手が進むときはどこかに落とし穴がある)

 あぶれた牌が他家の当たり牌だったというのは良くあること。
 初日はあらためて河を眺める。

捨て牌
東家 蒲原智美 (チー)??? 4(チー)56
南北????
西

南家 津山睦月
?9?5?1


西家 加治木ゆみ
北21發89


北家 藤村初日
南西5(チー)五中?(チー)

 蒲原は2フーロで喰いタン濃厚、睦月は字牌と萬子が河に少なく染め手の気配。
 この二人には?筒はほぼ間違いなく通るし、?筒を掴めば出す可能性は高い。
 加治木は公九牌と辺張の処理をしている最中に見える。
 初日はそう判断した。

(いざ――勝負!)

 千点棒を取り出し、?筒を横に曲げ河に置いた。

「リーチ」

 しかし、それに待ったの声が加治木から発せられる。

「ロン」
「へ?」
「東混一ドラ3、12000の1本場は12300」

加治木手牌
??????????東東東 ロン?

(?筒−?筒の両面だけど?筒は4枚切れだから、実質?筒単騎待ち……)

「この待ちなら蒲原か津山が吐き出してくれると予測していたが……お前から出てくるとは」

 初日は項垂れながら加治木に点棒を差し出した。

(ついてねぇ……。そもそも?筒全部持たれとる……)

蒲原智美 49000
津山睦月 17000
加治木ゆみ 29300(+12300)
藤村初日 4700(−12300)

-

 東2局では睦月が4000オールをツモり、続く1本場では加治木が500・800をツ
モ。
 東3局は加治木が11600を蒲原に直撃させるが、続く1本場で蒲原が5500を加治
木から取り返した。
 そしてオーラスに突入した。


蒲原智美 38400
津山睦月 28200
加治木ゆみ 33200
藤村初日 200

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