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「Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 2」
(第1部)[1/1]

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「さて、と……」
 武は「伊邪那岐」に乗り込みつぶやく。驚くことにコックピットには強化装備が置いてあった。今、武はその強化装備を身に着け、「伊邪那岐」を起動した瞬間である。直立不動の「伊邪那岐」のコックピットにたどり着くのはかなり苦労した。

 当初、武はゲームガイを持ち込み、横浜基地で夕呼先生に会うつもりだった。しかし、そう考えていた矢先、この「伊邪那岐」がきたのだ。武は、計画を変更することにした。
 
その計画とは、この「伊邪那岐」による、横浜基地強襲である。
 前の世界の横浜基地では、日本という最前線に位置しながら、その中でも後方だと勘違いして腑抜けた軍人が多すぎた。そして夕呼先生は、横浜基地のほとんどの部隊が戦力にならないとして、その現状を打破するため捕獲したBETAに横浜基地を襲わせた。

(そして、まりもちゃんは死んだんだよな……)

 今回はそんなことをしなくても、自分が腑抜けた兵士たちの目を覚まさせてやる。
 所属不明の戦術機に襲われるのだ。横浜基地は混乱するだろう。ここがいつでも戦場になる可能性があるということをあいつらに教えなければならない。
 おそらく、A−01部隊も展開するだろうが、旧OSの機体相手に負けるわけがない。しかも今回搭乗するのは、この「伊邪那岐」だ。とりあえず、全員倒しとこう。

「大尉たち、悪く思わないでくださいよ」
 そう言って武は「伊邪那岐」を横浜基地へと向けた。




 その日、門兵はいつものように横浜基地の正面ゲートに立っていた。ここから見えるのは、廃墟と化した街とここへ至る道に植えられた桜ぐらいだ。桜に花などついていないし、ぶっちゃけ何も見るものがなかった。この日も同僚とくだらないことを言いながらその日の仕事を終えるはずだった。

ソレを見つけたのは同僚のほうが先だった。
「お、おい!アレ見ろよ!」
 一体何を見つけたのか、同僚はひどく驚いていた。
「おいおいどうした?BETAでもやってきたのか」
 そんなこと有り得ないという確信のもと、冗談を言って同僚に何事かと問う。
「べ、BETAじゃねえ!戦術機だ!」
「は?」
 
 同僚の指さす先。そこには確かに一機の戦術機がいた。
 この街はほとんどが廃墟で高い建物もないためずいぶん遠くまで見ることができる。おそらくまだ数キロ先にそいつはいた。
 白銀(はくぎん)の戦術機。一直線にこの横浜基地へと向かってきている。
 今日戦術機がこの横浜基地を訪れるなどという連絡は受けていない。
「な、なんだありゃ?」

 混乱している最中でも、白銀の戦術機はその速度を変えることなく、こちらへ向かってきている。だんだんと近づいてくると、戦術機の姿がはっきりと見えてきた。
 見たこともない機体だ。撃震ではない。不知火でも、吹雪でもなかった。ましてや米軍の機体でもなかった。
 しかし、だんだんと近づいてくると、その戦術機が手にしているものが見えた。それは突撃砲だった。
「な!?」
 この基地に用があるのなら、突撃砲など構えるはずがない。

 ―――あれは敵だ。
 門兵は生まれて初めて味方であるはずの人類の兵器、戦術機を敵と判断した。
 そして、大急ぎで基地に連絡をとる。



―――防衛基準態勢1発令―――即時出撃態勢にて待機せよ!
―――防衛基準態勢1発令―全戦闘部隊はただちに出撃態勢に―――

 横浜基地の副司令―――香月夕呼はその警報を自室で聞いた。
「はぁ?一体なんだってのよ!?」
 見ていた書類を机に叩きつけ、即時に中央作戦司令室に連絡を取る。
『香月博士ですか?』
「そうよ!いったいなんだってのよ、この騒ぎは!?」
『正体不明の戦術機が一機、この横浜基地へ向かってきています。今すぐに中央作戦司令室へとおこしください』

「っ!?」
 何?戦術機ですって?どこの馬鹿よ、この基地を襲おうってのは?
 苛立ちながら夕呼は自室を後にした。
 しかも、さっき正体不明っていった?どういうことよ。機体の種類ぐらいわかるでしょうに。そしたら、日本か米軍かソ連かぐらいわかるでしょ。
 そう思いながらも、その戦術機の正体についてあらゆる可能性を考えていた。
 一番可能性が高いのはオルタネイティブ5推進派だが、こんな馬鹿な手を使うとは思えない。
 と、通路を歩いている途中、銀髪の少女がこちらを向いていた。
「……」
 いつものように、無表情で夕呼を見つめる瞳。
「社、心配いらないから。あんたは部屋で待ってなさい」
 銀髪の少女―――社霞は無言のまま、ゆっくりと頷いた。



「指令」
「博士か」
 中央作戦司令室に入ると、すぐさまこの基地の司令、ラダビノッド司令に声をかけた。
「これは一体どういうことです」
「わからん。……あれを見たまえ」
 そういって正面のスクリーンを示した。
「なんです。あれは?」
 そこに映っていたのは、見たこともない白銀(はくぎん)の戦術機だった。日本、米軍、ソ連、地球上のどの軍隊の機体でもない。背中には機体の全高とほぼ等しい長さの長刀を備えている。長刀を運用しているのは日本のみだが、あれは日本のどの機体にも当てはまらない。複雑な三次曲線と鋭角的なパーツで構成されたそれが、突撃砲を構え、この横浜基地を睨むように廃墟と化した街の中立っていた。

「やはり、博士でもわかりませんか」
 ラダビノッド司令が口を開いた。
「確認されたのはついさっきだ」
 そのあとを、ピアティフ中尉が続ける。
「あの不明機(アンノウン)は、まっすぐにこちらへと向かってきていました。しかし、先ほど横浜基地手前2キロメートルの時点でなぜか停止。しかし、以前突撃砲を構えたままで、こちらの呼びかけにも一切答えようとはしません」
 停止?ますますわけがわからない。この基地を襲うことが目的ではないのか。いや、違う。ならば突撃砲など構えるはずがない。
「しかし、あのままあの機体に我が基地を攻撃されていれば、多大な被害がでたことでしょう」
 でしょうね、と夕呼は心の中でつぶやく。この基地はこの日本において、後方に位置しているなど勘違いして腑抜けている連中が多すぎる。先ほどの発令を聞いていったい何人が迅速に動けたことか。どうせ、混乱でもして行動が遅れたに違いない。ここだって何時BETAに襲われるかわからないのだ。
 しかし、さすがに夕呼もいきなり戦術機に襲われるとは思わなかった。どこかの軍の行動なら、自分の情報網に必ずひっかかるはずだ。
(たった一機なんてどこの馬鹿よ?)

「っ!司令!」
 その時、今まで静止していた不明機が動きだした。
 すでに防衛部隊は展開しているはずだ。このまままっすぐこちらへ向かってくれば、間違いなく戦闘になる。相手はたったの一機。対してこちらは、この横浜基地全兵力だ。
 しかし、なぜだろう。夕呼を何か嫌な予感がしていた。
「……博士」
「……わかっています。A−01部隊も展開させます」
 そして、A−01部隊隊長、伊隅大尉に出動命令をだした。



 いきなりの出動命令で防衛展開してみれば、目の前にはたった一機の謎の戦術機。横浜基地の衛士たちは状況がまったく理解できなかった。
 しかし、その戦術機が突撃砲を構え向かってくるというだけで、戦う理由には十分だった。再三の警告にも相手は応じない。ついに司令室から攻撃許可が出された。
「よし!あの馬鹿を囲んで一気に勝負をつけちまえ!この横浜基地に単機で攻め込んだことを後悔させてやれ!」
『了解っ!』
 8機の撃震が不明機へと向かっていった。
 前衛の二機が不明機に向けて突撃砲を撃つ。
 その次の瞬間、不明機の機動に衛士たち全員が度肝をぬかれることになる。


『なっ!』
 それは、当初ただのブーストジャンプだとおもった。しかし、違う。速さが桁違いなのだ。こちらの突撃砲をよけ、一瞬で前衛の二機に肉薄した。そして、相手の突撃砲が前衛二機の突撃砲を撃ち抜いた。援護しようにも味方機と隣接しすぎて、突撃砲は使えない。次の手を考えるその一瞬のうちに、前衛の一機のコックピットに突撃砲の銃口が向けられた。

『バンッ!』
 不明機の外部スピーカーから、そんな声が聞こえてきた。
 その瞬間、突撃砲を突きつけられた衛士は、死の恐怖で体が一瞬で硬直してしまった。そして情けないことに目をつぶってしまった。

 しかし、覚悟した衝撃はいつまでたってもやってこない。恐る恐る目を開けてみると、すでにあの機体は照準を自分から外し、さきほど自分の機体にしたように味方機のコックピットに突撃砲を向けていた。
『バンッ!』
 また、あの声が聞こえた。自分が照準されているわけではないのに、その声を聞くと、またしても体が硬直してしまった。
『お前ら二人は死んだ。本当に死にたくなかったらそこでじっとしてろ』
 不明機がそう告げた。そう言われずとも、先ほど感じた巨大な死の恐怖に手が震え、しばらく動けそうもなかった。
 
 そして、不明機は最初の二機にしたように、武器を破壊し、突撃砲を突きつけ、あっというまに8機、全機を制圧してしまった。



 その様子をA−01部隊隊長伊隅大尉は、離れた場所から見ていた。不知火に搭乗し、その周囲には同じA−01部隊の不知火が展開していた。
『見ていたわね?伊隅。どうやらあの馬鹿はこちらを殺すつもりなんてないらしいわ』
 司令室から香月夕呼の通信だ。
『あんたたちは何としてもあの機体を捕まえなさい!そしてその衛士をあたしの前までつれてくるの。わかった!?』
「了解!」
 先ほどの戦闘を見ていたが、不明機は自身のブーストによる驚異的なスピートで相手を撹乱し、それぞれの武器を破壊していった。
 しかし、先ほど見ていた通りでは脅威になるのはそのスピードのみ。相手の衛士の腕もただそのスピードに任せた戦い方だ。
 自分たちA−01部隊の衛士、またその機体の不知火では、十分捕獲できるレベルだと判断した。

「―――ヴァルキリー1より各機、オルタネイティヴ計画直属部隊の意地と名誉に賭けて、あの機体を捕獲する。いいな!」
『了解!』
                       つづく

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