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「Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 3」
(第2部)[1/1]

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 武は、自分へと近づいてくる不知火数機を目にした。
 この横浜基地で不知火を与えられている部隊はA−01部隊のみである。
「きたな」
 伊隅大尉、速瀬中尉、涼宮中尉、柏木。前の世界で英霊と化した人たちが今目の前にいる。知らず涙が出そうになった。

 さきほどの撃震8機は、武が本気をだすまでもなかった。機体性能だけで十分なレベル。当初相手はこちらがたった一機なので完全に油断していたことだろう。そこに、「伊邪那岐(いざなぎ)」の驚異的なスピードで奇襲し、態勢を立て直す前に一気に制圧する。衛士としての腕も、連携の錬度も足りない。武自身の技量を使う必要もなかった。

 しかし、A−01部隊―――伊隅ヴァルキリーズはそうもいかない。衛士としての腕も、連携の錬度もトップクラスだ。特に古参の伊隅大尉、速瀬中尉、宗像中尉、風間少尉は実戦経験も十分積んでいる強敵だ。
 向かってくる不知火は9機。

「……9機?」
 あれ、何かおかしい。確か、前の世界で武がA−01部隊に配属されたとき先任していたのは、伊隅大尉、涼宮中尉、速瀬中尉、宗像中尉、風間少尉、柏木、涼宮の計七人ではなかったか?涼宮中尉はCPだろうから、不知火は計6機ではないのか?

「ん〜……あっ」
 そうだ。自分が配属される前に、新潟BETA上陸時や、12・5クーデター事件のときに何人かが戦死や病院送りになったと伊隅大尉が言っていた。
 そうか。残りの3機は、そのときの―――。



『―――ヴァルキリー1よりヴァルキリー2。第一撃はお前がくらわせてやれ』
「ヴァルキリー2、了解!伊隅ヴァルキリーズ突撃前衛(ストーム・バンガード)の力見せてやりますよ!」
 不知火9機のうち突出している一機、A−01部隊突撃前衛長、速瀬水月は一機で不明機(アンノウン)へと向かっていった。無論、一対一などやろうとは考えていない。後続には二機の突撃前衛。さらに後衛は不明機を取り囲むような隊型へと動いている。
 速瀬機の背部兵装担架の基部が起動、同時に右腕マニピュレーターが装備されていた74式近接戦闘長刀の柄へとのびる。

 不明機は、自分へと向かってくる不知火に突撃砲を向けるのではなく、自分も同じように背部に装備されていた長刀へと手を伸ばした。
「―――っ!いいわ、あたしとやろうってのね!」
 速瀬機、刀身部分を固定していたリップに合計8箇所あるロッキングボルトが、小爆発によって強制解放されると同時に、火薬式ノッカーが長刀そのものを跳ね上げた。そして、水平噴射跳躍(ホライゾナルブースト)による勢いのまま、長刀を不明機に向かって振り下ろした。

 強烈な火花を伴い、その長刀は不明機に受け止められた。その衝撃で不明機の脚部が地面へとめり込む。
鍔迫り合いとなり、速瀬機の主機出力が上昇していく。噛み合う部分の金属皮膜とカーボン・ナノ構造体の圧壊により、火の粉と共に放電が発生。

『ヴァルキリー2!』
「!」
 通信が入ったと同時、後方へと噴射跳躍(ブーストジャンプ)。すると、速瀬機と入れ替わるように前にでた後続の突撃前衛二機から突撃砲が不明機へと撃ち込まれる。さらに部隊最後尾に位置する制圧支援機(ブラスト・ガード)二機から無数のミサイルが発射される。
(勿論、さっきのスピードを見る限り、この程度で仕留められるなんて思ってないわ。前、左右、後ろ、どこでもいい。あんたがこいつをよけるために飛び出した瞬間、その足をぶった切ってやるわ!)
 しかし、その不明機が動いたのはそのいずれでもなかった。

 上だ。

 ミサイルが自機の上空に来る前の噴射跳躍。一呼吸遅ければ、自分からミサイルの大群へ突っ込んでいくようなタイミングだった。しかも高い。後方へ噴射跳躍した速瀬機をとび越えるのではないかと疑う高さだった。
 しかも、ただの跳躍ではなかった。不明機は、跳躍しながら空中で倒立反転しているのだ。ちょうど、速瀬機の真上に来た時にはきれいに機体が反転していた。

「なによ!そのアクロバットは!?」
 しかし、驚いている暇もない。なんとその不明機、その場で長刀の切っ先を速瀬機に向け、噴射により地上にむけて加速してきたのだ。
受け止める。否。今まで経験したこともない真上からの攻撃。今からでは間に合わない。もし仮に間に合ったとしても戦術機一機の質量に噴射による加速を乗せた突きだ。止められるはずがない。

(ダメ!貫かれる!)
 本来ならその突きによって大破するはずの速瀬機。しかし、不明機は自らその切っ先をずらした。
代わりに片腕を突き出し、速瀬機の肩に手を乗せ、まるで軽業師のようにもう一度反転。後方に着地し、長刀の代わりに蹴りを速瀬機にくらわせた。
 不知火の背中をえぐるような蹴りで、不知火が体を反るようにして吹き飛ばされた。すさまじい衝撃が速瀬機を襲う。
 突撃級の突進、要撃級の前腕による薙ぎなど、くらえばそれだけで致命的な損傷となる戦場において、速瀬はこれほどの衝撃の一撃をくらったことはなかった。



『大尉!速瀬中尉がっ!』
 A−01部隊強襲掃討(ガン・スイーパー)、涼宮茜少尉から驚愕に満ちた声が聞こえる。
 さきほどの一瞬の攻防を見て、実戦経験豊富な伊隅もただただ呆然とするしかなかった。あの一瞬で、A−01部隊が誇る突撃前衛長が敗れたのだ。彼女の衛士としての腕は、この隊全員が認めるものであり、間違いなくこの国においてもトップクラスのものだった。しかし、敗れた。もし、あの不明機が長刀の切っ先をそらさなかったら、間違いなく速瀬機を貫いていたであろう。

(何なのだ!?あの機体は!)
 そもそもあのような戦術機の機動は見たこともなかった。
 訂正する。奴はただ機体の性能に任せっきりの二流、三流の衛士ではない。撃震との戦闘は機体性能だけで圧倒できだけで、衛士としての力をだすまでもなかったのだ。
 間違いなく、あの不明機の衛士の腕は一流だ。
 自分の判断が誤っていたことを伊隅は悔いた。

「ヴァルキリー7、ヴァルキリー8!そいつとの近接戦闘は避けろ!」
 速瀬中尉に続いていた突撃前衛二人に告げる。
『た、大尉!』
と、不明機が長刀を構え、こちらへと向かってきた。
「―――くっ!ヴァルキリー3!」
 自機左前方に位置していたA−01部隊、左翼迎撃後衛(ガン・インタセプター)宗像中尉に命令をだす。
『了解。……このっ!』
 宗像機が2000発にも及ぶ突撃砲をフルオートで発射する。だが、当たらない。不明機は跳躍噴射を巧みに使い、右へ左へ上へと銃弾をかわしながら接近してくる。
『なぜ当たらない!?』
『大尉!』
 と、伊隅機の前にA−01部隊、制圧支援風間少尉が出る。背部に装備した92式多目的自律誘導弾システムから無数のミサイルが発射される。
 しかし、それをもってしても不明機の進行を止めることはできなかった。

 不明機は、風間機を跳躍噴射で飛び越し、まっすぐに伊隅機へと向かってきていた。
(なぜ私を?―――私を指揮官機と見抜いたのか!)
 伊隅機も突撃砲を用い、撃墜しようとするが、やはりあの独特の機動でかすりもしない。あっというまに目の前まで迫ってきた。相手の長刀によって突撃砲が破壊されてしまう。
(ここまで接近されるなんて!)
 74式近接戦闘長刀を使うには近すぎる。使い物にならない突撃砲を捨て、肘に内蔵された65式戦闘短刀を引き抜く。
 
 不明機が長刀を振り下ろしてきた。
 それを、機体を退かせることによって回避した伊隅機は、手にした短刀を目の前に機体に向けて繰り出した。
 並みの戦術機―――並みの衛士なら、間違いなく貫かれる突きだった。
 しかし、その必殺の突きを不明機は振り下ろした長刀の勢いに引っ張られるまましゃがみ、避けたのだ。まるで最初からそれが狙いだったかのような自然な動きだった。
 
 短刀が何もない空を裂く。
「なっ、避け―――」
 そう認識する前に、長刀から両手を離した不明機に突き出したままの右腕を掴まれた。そして次の瞬間、世界が逆転したかのような感覚とともに、伊隅機は宙に浮いていた。そして、強い衝撃とともに機体が背中から地面に叩きつけられた。

「―――うっ!?」
 コックピットを襲う強い衝撃。
 伊隅には、いったい何が起こったのか理解できなかった。
 だが、その他のA−01部隊の面々はしっかりと見ていた。
 それは、戦術機による一本背負いだった。
 確かに座学では、人間ができる動きで戦術機にできないものはないと教えられたが、この世界でいったいだれがあのような動きをできるだろうか。
 もう一度訂正する。こいつの腕は一流じゃない。超一流だ。

 その後の展開も似たようなものだった。当たればほぼ間違いなく致命的な損傷を与えたであろう一撃を寸止めし、A−01部隊全員を倒してしまった。その間、不明機が使った武装は長刀ただ一つ。衛士としての力量が違いすぎた。いや、それだけではない。あの機体は機動力だけでなく、もっと根本的なものから自分たちの不知火とは異なっていると感じた。
 結局、A−01部隊は捕獲なんてもってのほか、一撃もあてることなく敗れてしまった。



その様子を見ていた夕呼は、舌打ちをした。
現在、中央作戦司令室はだれもかれもが、スクリーンに映し出される戦闘を信じられないという面持ちで眺めていた。この横浜基地、いや中隊としてはおそらく日本でもトップクラスのA−01部隊が手も足もでないのだ。
その中で一人、夕呼はあの機体のことを分析していた。
あの機体、おそらくOSからして既存のものとはまったくの別物だ。機体の反応速度が尋常ではない。しかし、あのような三次元機動。本当に乗っているのは人間かと疑いたくなるものだった。
「―――コ、コマンドポストより、ヴァルキリーズ各機―――って、え?」
 目の前にいた、A−01部隊CP(コマンドポスト)、涼宮中尉を右手で制し、夕呼は告げる。
「あんた達、まだ死んでないんでしょ?いつまでも、ボーっとしてないで早くあいつを捕まえなさい!」
『りょ、了解!』
 ま、無理でしょうけどね、と夕呼は心の中でつぶやいた。
 なぜかはわからないが、相手がこちらの機体に致命的損傷を与えないのならば、A−01部隊には少しでも長く戦ってもらって、あの機体のデータをとってほしかった。



「おっ?」
 突如、A−01部隊が再び全員で攻撃を仕掛けてきた。
 さっきまでは、一度倒した機体はみな一様に、動かなかったが、
(こりゃ夕呼先生に檄でも飛ばされたかな?)
と、武は突撃砲を避けながら考えた。
(……まあ、でもそろそろ引き際か)

 不知火―――おそらくこれは伊隅機だろう―――の長刀を自機の長刀の側面でいなす。バランスが崩れた不知火の顔を掴み、近くのビルの廃墟に叩きつける。そして、突撃砲を不知火の胴体に当て、
「動かないでください」
 オープン回線から聞こえてきたその声を聞いた瞬間、A−01部隊全員の動きが止まった。

『き、さまはいったい……?』
 オープン回線から伊隅大尉の声が聞こえてきた。しかし、武はその問いに答えることなく告げる。
「あなた達はまだ弱い」
『なっ!?』
 今度は、速瀬中尉の声だった。その声を無視して続ける。
「このままでは、出撃するごとに一人また一人と失ってしまいます」
『……』

そして、一呼吸おいて告げた。
「強くなってください」
『!?』
 そのまま、突撃砲を伊隅機から離し、後方跳躍噴射、横浜基地から遠ざかっていった。
 あとを追ってくる機体は、一機もいなかった。



「――追撃はいいわ。いってもどうせ返り討ちだろうから」
『……』
 しかし、どの機体からも応答はなかった。まあ、無理もない。A−01部隊誕生以来、初めての完璧なまでの惨敗だ。
 レーダーから不明機が消えたのを確認し、数部隊は警戒のため残し、それ以外の部隊を撤収させた。A−01部隊もだ。
いくら致命的な損傷を機体に受けていないとはいえ、地面に叩きつけられたり、ビルに叩きつけられたりで強い衝撃をくらっているのだ。機体のどこに不具合があるかわからない。全機、精密メンテナンスが必要だ。
 目の前では涼宮中尉が
「……み、みんな、元気だして、ね!」
 と、意気消沈したA−01部隊の面々に語りかけていた。
 
 それにしても、あの機体はいったい何だったのか。
 あのオープン回線はA−01部隊のみでなく、この中央作戦司令室の全員も聞いていた。夕呼もそうだ。
 声は、若い男のものだった。少なくとも30歳以下だと、夕呼は判断した。ただし、本当にあれが肉声かどうかはわからない。あの機体の正体を推測するには、情報が足りなさすぎる。
 しかし、あの衛士が言っていた言葉。どうにも、どこかの軍に所属しているものには思えなかった。間違いなくオルタネイティヴ5推進派の者ではないだろう。だが、あのような高性能機、個人で製造できるわけがない。
(あ〜もう!謎が謎を呼ぶわね!)
 夕呼は珍しく苛立ちを表に出しながら、中央作戦司令室をあとにした。



「―――よっ、と!」
 武は、制服姿で片ひざをついた状態の「伊邪那岐」から飛び降りた。
 今現在、武がいるのは横浜基地から十数キロ離れた地点だ。米国軍、第三世代戦域制圧戦術機F−22Aラプター以上のステルス性で横浜基地のレーダーは数キロの地点で「伊邪那岐」を見失っているはずだ。廃墟と化したビルとビルの間に、隠すようにして「伊邪那岐」を停止させている。
「さて、ここから横浜基地までマラソンかー」
 だりぃ。体力的には無問題だが、今の武は制服姿なのだ。かといって歩いて行けば夜になってしまう。
「……しかたない、走るか」
 覚悟をきめて、ゲームガイを片手、武は横浜基地に向けて走り始めた。


「――ハァハァ」
 しばらくして、武は横浜基地へと続く坂の下まで来ていた。やはり、体力はループ前のもので、この距離を走っても全く苦にならなかった。
 速度を落とし、最終的には歩いて坂を登る。坂を登りながらゆっくりと呼吸を整えていく。制服の下の汗もだんだんと引いていく。
 
横浜基地の門が見えてきた。そこにいた、2人の門兵は武の姿を見つけると、驚いたような声を上げた。
「お、お前、こんな時に外出していたのか!?」
「こんな時?」
「ああ。さっきな、見たこともない戦術機がこの基地をいきなり襲ってきたんだ!」
 門兵は興奮状態で武に告げる。
「いったい何をしたかったのか、わからないまま、来た時と同じように唐突に向こうのほうへ去っていったんだが……お前は見なかったのか?」

 武はとりあえず、適当に話を合わせておくことにした。
「ああ、あいつか!どこの軍の機体かと思ったが。」
「やっぱり見たのか!……まあいい、隊に戻るんだろう?許可証と認識表を提示してくれ。今基地ではあの戦術機の話でもちきりだから詳しく聞くといい」
 そう言って許可書と認識表の提示を促がす門兵。そこで武が言葉を濁す。
「あ〜、それがな。俺はこの基地の人間じゃないんだ」
 そう言った途端険しくなる門兵二人の顔。肩に掛けてある銃に手が伸びる。
 武は両手をあげて、
「怪しいもんじゃない。夕呼せん――香月博士に呼ばれてきたんだ」
「そんな連絡は受けていないぞ!」

「ああ、博士の研究に関係するもので極秘扱いなんだ。ここでいいから、連絡をとって博士と話をさせてほしい。博士に関係することはすべて報告しろって言われてるだろ?」
 そう言っていぶかしげに武を見ていた門兵だが、やがて、
「……わかった」
「お、おい!」
「心配なら銃を突きつけたままでも構わない」
「……」

 結局、銃を突きつけられたままとなった。
「連絡をとるとき、『脳』、『00』、『理論』『間違い』と伝えてくれ」
「なんだそれは?」
「暗号みたいなものさ」
 そう前半二つはオルタネイティヴ4のすべてを知っている者にのみわかる単語。そして夕呼はかならず後半二つに反応するはずだ。博士は自分の『理論』が正しいと信じて研究を続けている。そんな中、いきなりあらわれたやつがその『理論』を『間違い』などというのだ。夕呼の性格からいって絶対興味を持つはずだ。
「……おい!博士がお前に代われだそうだ」
 ほらね。

『――あんた誰よ?』
 夕呼の第一声はそんなものだった。珍しく不機嫌だな。しかも、それを表にだしている。武はその声を聞いてそう感じた。
「こんにちは夕呼先生」
『は?先生?あたしは――』
「『教え子を持った覚えないわよ?』」
「!」
 驚いている様子が電話越しでもわかる。しかし、どの世界でも先生と呼んだあとの答えは同じなんだな。武はどうでもいいことを考えていた。
『……あんた誰よ?』
 そして再び同じ問いがきた。今度はしっかりと答えた。
「白銀武です。純夏に会いにきました」
『!』
「俺は4と5のすべてを知っています。それについて先生にお話しにきました」
『……』
 沈黙。夕呼は今、どんなことを考えているのか。
 しばらくして、
『いいわ。そっちに迎えを寄こすから彼女についてきて』
 よし、と武は心の中でガッツポーズをとった。
『じゃ、切るわよ』
「ちょ、ちょっと待ってください!」
 電話を切ろうとした夕呼を呼びとめる。
『……何よ?』
「あの〜おれってこれから四時間ぐらい検査とか受けると思うんですけどー……その前にシャワー借りていいですか?」
『……は?」
 そんな、気の抜けた夕呼の声が聞こえた。
                              つづく


作者よりお知らせ
※原作では、BETA新潟上陸時のBETA捕獲作戦で二名が戦死。一名が重傷を負い病院送り。12・5クーデター事件で一名が戦死。XM3トライアル時のBETA奇襲で一名が戦死の計5名がこの当時のA−01部隊に追加されるはずなのですが、この作品では人数が多くなると書きづらくなることと、この五人それぞれが誰なのかわからないため、勝手に減らして、3人追加にしています。どうかご了承ください。

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