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「然もないと」
(第0部)[1/1]

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「…………ねこ?」

「にゃ?」

ぺしぺしと頬を叩かれるているのを感じ、ゆっくりと目を開ける。
ぼやけた輪郭が少しの間を置いて形となっていき、はっきりした像を結ぶ頃には眼鏡をかけたちっさな猫が眼前に出来上がった。
反射しての行動で身を起こしてみれば、視界に広がるのは海と砂浜。

あれぇと首を傾げる。
何で此処に居るのか分からない。昨日はミスミ様のお屋敷に泊まらせて貰った筈なのだ。何故人里離れた海岸などに?
党首LOVEの忍者に邪推されて寝てる間に運ばれたのだろうか? あいつ時々バカだよな。

「にゃあ?」

「……ユクレスの子かな? でも、何でこんな所に……」

此処は、あの浜辺だよな? この島に最初に流れ着いた時の。
鬼子君と妖精ちゃんとワンちゃんならともかく、他の召喚獣達此処に来るの?
軽い思考と両立してじーとねこ見詰めるが、にゃーにゃー鳴くだけで意思疎通出来そうもない。

しょうがないと溜息をつき、ねこ掴んで立ち上がる。
「にゃにゃっ!?」とか鳴き声を上げるが無視。放っておくとはぐれにボコボコにされそうだし。
取り合えず、あの日焼け忍者どうしてやろうかなー、と集落の方向へ足を向けると



ゼリーが一杯。



「ええぇ?」

一、二、三、四、五……って数多っ!? 囲まれてるし!
朝っぱらから勘弁して欲しいとテンションが下がる。ご飯食べる前にプルプル振るえてるアレ等と遭遇するのどうなんだよ?
気分悪いよ、マリンゼリーだかうんこだか知らないけど、もう普通に無理だよ。狙い澄ましたかの様に茶褐色のヤツいるし。
死ね!!

マジであのクソ忍者どうしてくれようかと殺意が沸いたが、先決するのはこいつ等だ。
さっさと片付けようと剣に手をかけ……

「………………ない」

「キュウ?」

剣がない? ならば召喚を、と腰をまさぐるがサモナイト石もない。
武器ない? 装備が何もない? 闘えない?
………………。


クソ忍者ぁぁあああああああああああああああああああっ!!!!!


ここまでするか!? ここまでするのかっ!? てめーどんだけ党首至上主義だよ!?
くそったれ! とうんこ忍者に悪態をつき「剣」を呼ぶ。
何だってこんなレベル1の序盤相手の格下にファイナルウェポンきらなければいけないのか。
屈辱だ。めっさ屈辱だ。



「ウィル君!!」



……ん?


「貴方達の相手は私です!」


投石。可愛い外見裏腹に恐ろしい速度で石を投げまくってくる赤髪の女性。
軟体であるゼリー達でもアレは痛いのか、額にバッテン十字を浮かべ女性に攻撃の矛先を向ける。
おいおい、アナタも丸腰でしょうと冷や汗浮かべ駆け寄ろうとする。ていうか、あんなご婦人この島にいたか? 全く見覚えないんだが。
あ、でも髪の色お揃いですねー。

「っ! 誰!?」

いいお付き合い出来たらいいなーと夢物語妄想していると、何もない虚空に向かって声を上げる婦人。え……もしかして危ない人? ……気違っちゃってる人?
マジかと、うっそーと、一瞬時を止め失意のどん底に落ちかける。何だってあんなべっぴんさんが。世の中っていうのはいつだって何か間違っている。主に俺中心に。はは、泣けてきた。

って悟ってる場合じゃない。痴呆(仮)の気があるとしても、麗しの女性を放っておくことなんて出来ない。助けなければ。
目から溢れる心の汗を拭い顔を上げて、真っ直ぐ前を見据えようとしたら────




────碧輝く剣を引っ提げゼリーどもをジェノサイドする白装束。




片っ端からゼリー共をぶった切るその姿ははっきり言って目茶目茶怖い。ていうか容赦が無い。
ゼリーが叫ぼうが喚こうがその剣を顔面にブチかます。いや、何アレ?

粗方ぶった切った白装束は切り残りを一睨み。
捻り潰すぞ? そう言外に告げている鋭い眼光に当てられ、残ったゼリー共は尻尾巻いて逃げ出した。

白装束が持つ剣から光が薄れ、やがてはその姿を消す。異形の姿形が大気に溶けたかと思うと、先程の赤髪の女性の姿が現実に舞い戻った。
振り向き笑顔を見せる麗しの女性。駆け足で此方に向かってくる。
自分のもとに注がれる温かな眼差し。男ならば最高のシチュエーションの筈なのに、しかし俺は浮かれる事も出来ず頭の機能を停止していた。

ほどなく、すぐ目の前までに女性がたどり着く。
相変わらずの笑顔のまま、身を屈め自分と視線を合わせる。……身を屈め?



「怪我はない? ウィル君?」



………………。


「…………ウィル?」

「う、うん。ウィル君、ウィル・マルティーニ君。…………だ、大丈夫?」

心配そうに俺の顔を見詰める女性。瞳が僅かな不安の色を灯す。
だが、こちとら構っている余裕がない。

始まりの浜辺? ゼリー? 赤髪? 剣? 碧? シャルトス? 抜剣者? マルティーニ?



…………………………。



「ウィ、ウィル君? やっぱりどこか「えええええええええええええええええええええええええええええええええええぇぇぇぇ!!!?!?!?」きゃあ!?」



抜剣者!? 抜剣者ぁ!? 何で!? どうして!? 何故故!? というか、シャルトス!? シャルトスですか!? 今更シャルトスですかっ!?
ていうか、マルティーニ!? 誰が!? 女性が語りかけている人物デス。ああ、俺だ。って、何ィィいいいいいいいいっ!!?


「ど、どうし「って、俺小せえええええええええええええええええええええええええええええええぇぇぇぇぇ!!??」うひゃあ!?」







抜剣者レックス。
別名魔剣の主、先生、不幸の星の下に生まれてきた者、赤狸、ヘタレ、赤いの。

帝国軍軍人学校首席だったにも関わらず、部隊配属後すぐに退役。
理由は同僚の女傑の襲撃に耐えられなくなったから。

帰郷の際、大富豪マルティーニ氏の危機(退役に追い込まれた腹いせに投げた石が偶然マルティーニ氏の後頭部に着弾、慌てて周囲の人間Aを装い治療)を救い、命の恩人だと感謝される。
元帝国軍人首席と口を滑らせ、嫡子の家庭教師になってくれないかと頼まれる。給料が良かったため二つ返事でOK。
後にレックスはこう語る。「あれがそもそもの間違いだった」と。

生徒アリーゼ・マルティーニと共に工船都市パスティスへ向かう途中海賊の襲撃と嵐に合い海に投げ出される。
決して波にさらわれた生徒を助けようとしたためではない。勝手に落ちた。

奇跡的な生命力で島まで漂流。同じく流れ着いた生徒と合流。その際に碧の賢帝シャルトスの担い手になる。
「マジこの剣ウザイんだけど」とは本人談。語りかけてくる声がラスボスっぽい声だったんで気が気で無かったらしい。

そして、二つ名のとおりその不幸体質を遺憾なく発揮し島の事件に巻き込まれていく。
帝国の女傑との再会してからは胃薬は常備品となった。

島から脱出しようと何度も試みるが失敗。裏で女傑の弟の暗躍があったらしい。
それが判明した折に彼が発した言葉は「ブルートゥス、お前もか!?」だったらしい。

島の住人達に強制され戦闘に駆り出される。幾度となく抵抗を続けるがやがて逃避は不可能と判断。
決して正面からは戦おうとせず、狡い戦法を用いて島に襲来する帝国軍、無色の派閥を退ける。
渾名の内の1つ、赤狸は被害者のセルボルト家の現当主が命名。

その後仲間の尽力もあり島の脅威を全て排除した。
島の住人からは「セイバー」などと謳われるが、一連の事件が解決した後は完全無欠のニートと化した。

そして、今現在。生来の不幸は彼の安らぎを許さず。
原因は定かではないが、抜剣者レックスは始まりの場所へ出現した。





ウィル・マルティーニと成って。





「待てぇえええええええええええええええええええええええええええええええええっっ!!!!」

「にゃあー」




然もないと  1話 「始まりは突然にしてもこれはないと思う」

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