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「01 僕が来た世界」
(第1部)[1/1]

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 その日
 その時
 
 僕は罪を犯した。









 僕が目覚め、水色の女性と邂逅を終えてはや五日。ようやく状況がつかめてきた。

 馬車や人の集団から少し離れた草の上に寝転がりひなたぼっこしつつ、得た情報を整理してみる。

 まず第一に、ここは僕の住んでいた世界ではない。

 およそ7日前、今僕が動かしている体の本当の持ち主、白亜刹那(はくあせつな)は馬車から転落し頭を打って死亡。その後火葬に処そうとしたところ、僕の精神もしくは僕の命そのものが転移、あるいは憑依して生き返った(?)ようだ。

 それだけならまだ良い。世界を越える空間技術など発明されてなかったから、もしかしたらそういうこともあるかもしれない。

 「でもねぇ・・・・・・まさか想像の世界だとは思わなかった」

 ここが何なのか確信したのはつい昨日の話。偶然盗み聞きしてしまった大人達の会話に火の国だの砂の国だの、あげくは忍者がどうこう護衛がどうこうと聞いてしまったからもう大変。

 うわぁい、NARUTOの世界だ〜。

 ――何でだよ!

 思わず叫んでしまったものである。変な目で見られたが。

 いや、だってねぇ〜。NARUTOだよ?忍者でチャンバラでドカドカズバズバだよ?

 ・・・・・・うん、言いたいことは伝わったと思う。多分。

 とにかく、危険な世界なのだ。力がなければ即瞬刹されてもおかしくないような、そんな世界。

 ・・・・・・ぜっっったい、そんなのやだ!

 せっかくの自由を奪われてたまるか!

 ・・・と意気込むのは良いのだが、はてさてどうしよう。現在僕は予想通り3歳児。いくら健康優良男児(注、1回死亡)とはいえこのままでは普通の大人にすら負ける。どうしたものか・・・

 幸い、と言っても良いかはともかく、白亜家は代々商隊の護衛として生活費を稼いでいた(母親談)。つまり母さんはそこそこ強いはず。父さんはと言えば、2年前に事故に遭い既に鬼籍に入っているという他に頼りようもない事態だったりする。・・・・・・気は進まないけど母さんに頼むしかないのかな〜・・・・・・ 

 「・・・・・・刹那?」

 いつの間にか閉じていた目を開けると、今し方考えていたばかりの女性が僕を見下ろしていた。

 結うこともなく背中まで伸ばした水色の髪は風に流れ、

 鍛錬からか引き締まった身体は優雅さをたたえ、

 僕を見つめる水色の瞳には、ただ慈愛だけが揺れている。

 白亜刹那の母親、白亜アゲハ。

 客観的には、僕の・・・母さん。

 とそう思った途端、なんとなく面はゆくなってはにかみつつ起き上がる。

 「お母さん、どうかした?」

 そう言われて、母さんは明らかにほっとしたようだった。

 「いらっしゃい、お昼ご飯出来たわよ」
 「え、もうお昼?」

 どおりでお腹がすくわけだ。

 伸ばされた手を数秒見つめ・・・逡巡の後、暖かなそれを握って――

 心からの笑顔を、母さんに向けた。
 




 僕が目覚めて母さんに抱きしめられた時、記憶喪失であると嘘を吐いた。

 もしも僕が【白亜刹那】でないと知ったら、母さんはまたあんな顔をするだろう。

 ・・・・・・嫌だ。

 断言できる。あれを見るのは、二度とごめんだ。

 記憶喪失――そう知って、母さんは今にも泣きそうな顔だった。

 ・・・・・・僕の、嫌いな顔。

 だけど、母さんはすぐに表情を改めて、

 『生きてるだけでいいの』

 ――そう、言ってくれた。

 【白亜刹那】ではない、この、僕を。

 ・・・・・・初めてだった。

 こんな暖かい言葉をかけられるのは。

 短くも長い15年の人生の中で、

 ・・・・・・初めてだった。

 その時わき上がった感情は二つ。

 胸を締め付けるような、嘘からくる罪悪感と、

 もう一つは・・・・・・分からない、

 暖かくて、全てを依存したくなる。・・・・・・こんな気持ちは、知らない。

 けど、悪い気は、しなかった。

 膝に乗せられて、母さんは記憶補完のためにたくさんの話をしてくれた。

 言葉の端々から、母さんがどれだけ【白亜刹那】を愛していたか・・・容易に、感じられた。





 そして、僕は決めた。

 この人から、二度と【白亜刹那】を失わせないと。

 僕が刹那じゃないと知ったら、この人はまた悲しむ。この人が悲しむのは、見たくない。

 だから、僕が【白亜刹那】になる。

 ナルトや我愛羅も気になるところだけど・・・今がいつなのか分かってないから、後回しだ。

 最優先事項は【白亜刹那】としての自己の確立。全ては、それから。

 母さんに僕の真実を伝えることは・・・多分、一生ないと思う。

 悲しむから、伝えない。

 そう、僕が決めた。

 ・・・・・・これも初めてだな、と内心苦笑する。




 
 まだ1メートル以上差がある母さんを見上げる。

 視線が合い、僕は子供らしく母親に笑顔を向ける。

 それで、母さんが笑ってくれるから。

 何度でも、何度でも。

 僕は、笑った。 
 


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