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「【一発ネタ】そして、今日から「ゆ」のつく自由業【完結・DQ3・TAS臭】」
(第0部)[1/3]

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1、そして……勇者と遊者。

 ルイーダの酒場。
 その扉の前に僅かに緊張と不安の見える一人の少女がいた。
 その名はアルス、勇者。
 その日、めでたいかどうかともかく17歳の誕生日を迎え、
「起きなさい。起きなさい、私の可愛いアルスや……。おはようアルス。もう朝ですよ。今日はとても大切な日。アルスが初めてお城に行く日だったでしょ……」
 とアルスは母に起こされた。
 支度を整えると城の前まで連れられ、促されるままに王様と謁見し、
「……魔王バラモスを倒して参れ! 街の酒場で仲間を見つけ、これで装備を整えるがよかろう。ではまた会おうアルスよ!」
 との言葉と共に50ゴールド、たびびとのふく、こんぼう、こんぼう、ひのきのぼうを内心がっかりしながら体裁上はありがたく頂戴し、一度家に返って母に報告した後、仲間を見つけるため今まさにルイーダの酒場の前に至る。
(よし、がんばろっ)
 アルスは小さく腕を構えながら自分にエールを送った。
 入ると、何故か酒場内は閑散としており、ゴールド銀行の受付のおじさん、二階に続く階段の前にいるシスター、そして受付のルイーダだけだった。
(えー……)
 思わずそう心の中で呟いたアルスはさっきまでとは違う方向に一転不安になる。
(と、とにかく……)
 アルスは気を取り直して、ルイーダに話しかけた。
 妙に生暖かい表情をしたルイーダは口を開く。
「ここはルイーダの店。旅人たちが仲間を求めて集まる出会いと別れの酒場よ。……何をお望みかしら?」
 アルスは一度振り返った。
 見回せば……どう見てもそもそも出会いが無さそう。
 ゆっくりルイーダに向き直し、恐る恐る尋ねる。
「えっと……では名簿を見せて下さい」
「名簿を見るのね」
 ルイーダは名簿を出して見せた。
 登録されていたのは一名。

???
あそびにん
ラッキーマン
せいべつ:俺の性別が気になるのかい?
レベル:??

Eぬののふく



ちから:俺に眠る力は数字で計れるようなものではないのさ。
すばやさ:俺から目を離さないように気をつけな。そうでないとはぐれちまうぜ。
たいりょく:もう一度言うぜ。俺に眠る力は数字で計れるようなものではないと。
かしこさ:遊ぶのにも……頭は使うものさ。
うんのよさ:俺の運の良さは目で見た方が早い。
さいだいHP:???
さいだいMP:???
こうげき力:???
ぼうぎょ力:???
Ex:???????

 これ何てウザいステータス。
「ぁ……あの……この、???さんというのは……?」
 ルイーダはため息混じりに答える。
「???さんは???さんね。……言いたいことがあれば本人に言って頂けるかしら」
 他に答える事は無いとばかりの事務的対応にアルスはつられて頷く。
「は……はい」
「他にご用は?」
「で、では、???さんを呼び出して貰えますか」
「???さんを仲間に加えるのね。分かったわ。???さーん! アルスさんがお呼びよー!」
 ルイーダは二階の階段に向かって大きめの声を出した。
 数秒して階段からコツコツと音を立てながら遊び人が現れた。
 大きなぐるぐる眼鏡。
 取ってつけた大きなつけ鼻。
 そして付け髭。
 お陰で表情は全く見えず、服装は桃色を基調とした縞々の衣装。
 体型は良く言えばぽっちゃり系、悪く言えば言わずもがな。
 背丈はアルスが少し見上げる必要がある程度の高さ。
 唖然としているがアルスにとって???の第一印象は悪かった。
 表情の全く見えない???はアルスの側まで近づくと大仰に手を動かす。
「こんな素敵なレディに呼ばれるなんて光栄だ。おっと失礼、自己紹介が先だったね。私は自称伝説の遊者。レディの旅の供になろう」
 その声色は何だか耳が幸せになる包容力のあるものだった。
(い、良い声……だけど)
 ???の口元は一切動いていなかった。
 腹話術である。
(それに、ゆ、ゆうしゃ……? 自称……?)
 良く分からない発言にアルスは混乱しつつ思わず答えた。
「は……はぁ……。よ、よろしくお願いします」
「礼儀正しいレディだ。こちらこそよろしくお願いする」
 そう言う???の対応もそのふざけた見た目とは裏腹に実に礼儀正しいものだった。
 そこへ空気をぶった切る事務発言をルイーダがする。
「他にご用は?」
「あ……名簿に登録されている人は他にはいませんか?」
「いなくてよ。他に登録者が現れるのを待つとなると、時間がかかるでしょうね」
「具体的にはどれくらい……?」
「判りかねるわね。全ては冒険者次第」
「そうですか……」
 アルスが沈んでいる様子なのを他所にルイーダはまた言う。
「他にご用は?」
「あ……ありません」
「じゃ、またいらしてね」
 ルイーダはオホホと営業スマイルを浮かべて言った。
 アルスは内心何度も来たくはないと思った。
(二人旅……よりにもよって遊び人……しかも訳が分からないし……)
 うんうん唸ってアルスは自分の世界に入ったままルイーダの酒場から出た。
 黙って後をきちんと付いてきていた???が声を出す。
「レディ、早速魔王討伐の旅に出るかい?」
「わっ!?」
 アルスは驚いた。
「えっと、もちろん! でもまずは???さんの装備を整えた方が」
 ふざけた見た目で???はジェスチャーをする。
「それには及ばない。私はこのぬののふく一枚で充分だ」
「は、はぁ……。って、そういう問題じゃなくて!」
「大丈夫だ。問題ない」
 ……しばしの沈黙。
 アルスがジト目で言う。
「……その自信がどこから来るか知りませんけど、ど、どうなっても知りませんよ……?」
「心配感謝しよう。では、行こうか」
 表情の全く見えない顔面で???は城下町の外を手で示した。
「……はい」
 先行きに不安を感じざるを得ないアルスはため息混じりに肯定した。

 そして、勇者と遊者の旅が始まった。




2、そして……自称伝説の遊者の超難度遊戯。

 アリアハンを出て、橋を渡ったアルスは黙々と早足で歩き続ける。
 自称伝説の遊者はその後ろをお手玉を投げながら早足で進む。
(魔王討伐の旅に出ようって自分が先に言ったくせにこの遊び人はっ……)
 チラとアルスは後ろを振り返って確認しすぐまた前を向く。
(魔物が出たらどうするつもりなのよ……。やっぱりこんぼうだけでも渡した方が良いか……)
 そんな事を考えながら進み続ける事しばし。
「魔物が……現れない……?」
 一向に魔物が現れない。
 勇者になるべくして育てられて来たアルスにして見れば、アリアハンの外に出て魔物と戦った事ぐらいあるのは当然だが、全く現れないというのはどういうことなのか。
「レディ、魔物が現れないのが不思議かい?」
 突然???の声が上がり、驚いて後ろ振り返って答える。
「も、もちろん」
「種明かしをお望みかな?」
 言って、???は腕を交差させながらボールを投げる素人目には何だか複雑そうに見えるお手玉をピタリと止めた。
「えっ……???さんが何かやっているの?」
「よくぞ聞いてくれたッ!」
 途端に???はビシビシと無駄にポーズを取りながら饒舌に腹話術で語り始める。
「これは私の会得している108の超難度遊戯の一つ。その名も『あっちいけ魔物!』……だっ!」
 大きな声が周囲に響き渡り、ひらひら飛んでいた蝶がアルスと???の間を通過する。
 穏やかな草原の風景を肌に感じ、
「……な、なんだってー!?」
 と優しいアルスは突っ込みを入れてあげた。
 ピッと???は直立不動の体勢に戻り、
「では先に行こうか」
 歩き始める。
「うん……。って待ってよ!」
 思わずアルスは呼び止めた。
「他にご用が?」
「その返答何かやめて!」
「ならば今後は気をつけよう」
「うん……そうして。で……あ……『あっちいけ魔物』の種を聞いていないんだけど」
「何かなその酷いネーミングは。それはともかく種明かしをするとでも思ったのかい?」
「するつもりなかったの!? っていうか酷いネーミングなのはそっちでしょ!」
(さっき種明かしをお望みかなって言った癖に!?)
 やれやれ、と???は肩をすくめる。
「残念ながら無い。何分こちらも命を賭けて遊んでいるのでね」
 ポヒューと鼻の穴から紙ストローが飛び出し、また引っ込んだ。
「そ……そうですか……」
 真剣な声色だが、締まらなさすぎる返答に呆れ、アルスは力無げにどうでもよくなった。
(調子……狂うなぁ……)

 アルスは当然レーベの村へ行くつもりだったが、常識的に一日で進める距離ではない。
 陽も傾き始め、当然一泊野宿する必要があるとは分かっていたが、途中???が道なりに草原を行くより、森を抜けた方が早いだろうと言い出した。
(魔物も出ないし……まあ良いか……)
 と思ったアルスも了承し、そして北上を続ける事しばらく。
 森の中に石造りの建物がポツンと建っている場所へと出た。
「こんな所があったなんて……」
 キョロキョロと辺りを見回し、アルスは建物に近づくと最後の鍵で開く灰色の扉を見つけ試しに触れる。
「やっぱり、この扉は鍵持ってないし開かないわね」
 ふっと息をついて振り返ると???が優雅に片手を胸に当てて言う。
「レディ、ここは一つ私にお任せあれ」
「はい?」
 何言ってんだ、とアルスは一応避けると、???が重く閉ざされた扉に素手で触れる。
 そして、キィィという音と共に難なく開いた。
「ほら開きましたよ、レディ」
 どやぁ、と手で示して見せる。
「何で!?」
 アルスは目を丸くして叫んだ。
「よくぞ聞いてくれたッ!」
 途端に???はまたしてもビシビシと無駄にポーズを取りながら饒舌に相変わらず腹話術で語り始める。
「これは私の会得している108の超難度遊戯の一つ。その名も『届いて私の想い! お願い開いて! はぁと!』……だっ!」
 技名のみやたら甲高い声であった。
「気持ち悪い……」
 耐え切れずアルスは本音を漏らした。
 しかし???は全く堪えた様子を見せない。
「そう。その気持ち悪さが重要なのだよ」
「は?」
 ガタガタと震えながら???は声を出し、
「余りの気持ち悪さに鍵も思わず開いてしまう。……そういう事さ」
 両手を広げた。
「んな訳あるか!」
「……事実は小説より奇なり。では中に進もう」
 言って、勝手に???は中に入ってしまう。
「あ、ちょっと! ったく」
 中に入るとあったのは青く渦巻く、旅の扉。
「これは……」
「旅の扉」
 初めて見た、とアルスが声を上げる。
「これが旅の扉……?」
「ではレディ、お手を失礼」
「え? あ、何? ちょっと待!」
 アルスの制止も聞かず、???はアルスの手を自然な動作で取って旅の扉に足を踏み入れた。
 瞬間、二人は吸い込まれるようにしてアリアハン大陸を後にした。




3、そして……新大陸。

 二人が知ってか知らずかはともかく到着したのは、ポルトガとの間に海峡を挟み、ポルトガの丁度対岸の大陸にある灯台一階の旅の扉。
 ???は先行して、大きめの最後の鍵で開く扉を難なくまた素手で開けた。
(一体何なのよ……)
 アルスは存在からしてフリーダムすぎる仲間に頭を痛めながらも後から付いて出た。
 一面濃紺色の壁が広がり、割合良い造りをしている建物だとアルスは判断した。
 そこへふらっと勝手に一度外に出ていた???が戻ってきて声を出す。
「ここは灯台さ」
「灯台……?」
 キョトンとした顔でアルスは首を傾げた。
「上に行けば、灯台守がいるだろう」
「そ、そうね。ちょっと行ってみる?」
 大仰なジェスチャーで???は胸に手を当てる。
「……そのお誘いはとても魅力的だが、私には外の確認を任せて欲しい。ここに魔物は現れないから一人でも安全だ」
「わ……分かったわ。じゃあちょっと行ってくるわね」
 若干引き気味にアルスは了承して、階段へと向かい、???は外へと出た。
 アルスは何段も階段を登っているうちに、内心???がどうして単独行動を取ったのかと邪推していた。
(こんなに高いなんて聞いてない……あの遊び人……登るのが面倒だったんじゃないでしょうね……)
 きちんと定期的に明かりが灯っている円形状の階段を延々と登り続ける事頂上に着くまで。
 ???の言った通り、頂上には灯台守の男がいた……が、寝ていた。
 話しかけても反応がないので、揺すって起こすと、男は酷く驚いて飛び上がった。
 落ち着いた所で男は船で来たのかと尋ねたが、アルスは首を振って否定、旅の扉から来たと答えた。
 旅の扉から来た事に男は驚いたが、ともあれ、折角だからと、アリアハンとの時差の関係で灯台は深夜である中、南の方を示してアルスに説明を始めた。
「ここから南に陸に沿って船を漕げばやがてテドンの岬をまわるだろう。そしてずっと陸沿いを行くとバハラタ。更に行けば黄金の国ジパング。世界のどっかにある六つの『オーブ』を集めた者は船がいらなくなるって話だ。とにかく南だ」
 との事。
(そう言われたものの、船が無いなら今の所意味はない……。でも一応)

―アルスは今の言葉を深く心に刻み込んだ―

 そしてアルスは再び階段を降り始め一階へと向かった。
 登りよりは当然楽だが下りは下りでそこそこ大変なのを我慢しつつ到着。
「いない……」
 しかし、???の姿は見当たらなかった。
(まさか旅の扉で先に戻った……?)
 一瞬アルスはそう思いながら真っ暗ながら灯台の外へと出ると、すぐに例の声が聞こえる。
「レディ、夜道を一人で進むのは危険ですよ」
 すぐアルスが反応する。
「んっ。それは???さんが……って、今更だけど???って本名……何ですか?」
 ???は首を振る。
「もちろん本名ではない。書類上の名前という奴さ」
「やっぱりそうですか……正直、呼びにくいんですが」
「ならば、遊ぶ者、すなわち遊者と呼ぶといい」
「……は、はぁ……」
 アルスは生返事をした。
(遊ぶ者で……遊者……自称伝説の遊者……何て下らない……)
 聞かなくても良かったと若干の後悔と共にアルスはため息をついて再び口を開く。
「……分かりました。とにかく、私達に船が無い以上旅の扉でレー」
 しかし話の途中で遊者が声を挟む。
「レディ、いつから船がないと思っていた?」
「はいー?」
「ついさっき、通りすがりの船が近くに着いてね。どうやら乗せて貰えそうなのだよ」
 ポカーンとアルスは唖然として声を上げる。
「……え? 本当に?」
「どうして私がレディに嘘をつかなければならないんだい?」
 そんな事するとでも思ったのかい、と遊者は肩を竦めた。
「じゃ、じゃあ……乗せてもらう?」
「よろしい。ならば善は急げだ。エスコートはお任せあれ」
 遊者は恭しく礼をして、アルスの道先案内人となって、暗闇の中、浜辺へと向かった。
 少し離れると灯台の明かりによって周囲が見えるようになり……間もなく、遊者の言う船が接舷しているのがぼんやりと見える所へと到着した。
 アルスにとってその船の印象は何だか少しボロそうだなぁ、という物であった。
 交渉したであろう船乗りの姿が見えないことにアルスは不思議に思いながらも遊者の後を追い、二人で板を伝って船に乗り込んだ瞬間。
 その板を回収する事もなく勝手に船は出航し、岸を離れた。
「は?」
「いざ、海の旅へ!」
 高々に遊者は声を上げた。
 アリアハンから旅に出て一日目。
 勇者と遊者は新大陸に移動したばかりか、「偶然」通りかかった『幽霊船』に乗り込む。
 かくして広大な海の旅へと飛び出した。
 ……しかし、行き先不明。
 間もなくアルスの絶叫が船にこだましたのは言うまでもない。




4、そして……また新大陸。

 勇者とはいえ17歳の少女には、旅に出て一日目でいきなり幽霊船とはちょっとどころではなく難易度が高かった。
 乗る時甲板では全く見あたらなかったが、一つ下の階に降りてみれば、あちこちに腐った死体やら骸骨がいるわ、火の玉は浮いているわ、とかく気味が悪い。
 アルスのストレスがマッハ。
 せめてもの救いは、遊者の超難度遊戯のお陰かやはり魔物が出ない事。
 そして船に乗り込んですぐの甲板、船最後尾の船室に、大体二人と似たような感じで乗り込んでしまったらしい二枚目冒険者がいたりもした。
「おや? あなたは亡霊ではなさそうだ。さてはあなたも財宝がお目当てですね? でもこの船にいるのは亡霊ばかり……参りましたよ」
 などと話をしてみると普通にメンタルが強い。
 なぜなら、
「いざとなればキメラの翼がありますから」
 という心強いアイテムを持っていたからである。
 冒険者の心得。
 備えあれば憂いなし。
 それを聞いて道具袋にキメラの翼が一枚入っている事を確認したアルスも相当安堵した。
 となると、恐怖でストレスは溜まるものの、アルスがキメラの翼で戻れる場所と言えばアリアハンしかないので結局どこか大きめな大陸に着くまでできるだけ頑張る方向性に落ち着いたのだった。
 一方で自称伝説の遊者はといえば、魔物の出ない船室にアルスと冒険者を残し、勝手に幽霊船内を物色して周り、目ぼしいアイテムを集めて戻って来た。
 その収穫はと言えば。

 ちいさなメダル二枚。
 すごろくけん。
 ガーターベルト。
 128ゴールド。
 670ゴールド。
 どくばり。
 ちからのたね。
 あいのおもいで。

「既に他の冒険者に目ぼしい財宝は持って行かれた後だったようですね……」
 そう言って、少々残念な様子で、二枚目冒険者は二人に挨拶をした後、キメラの翼で早々に幽霊船から去っていった。
 酷く呆気ない別れ。
 そして、航海というよりどちらかというと漂流すること幾日。
(灯台守の人が言ってた通り南下してるけど、南下しすぎ……)
 テドンの岬は回ったが、その後の航路は陸沿いなんてものは完全に無視していたのだ。
 しかもアルスは良く良く思い出すと、出港時、普通にポルトガに着けたんじゃないのか、と文句の一つも言いたかった。
 だが、この幽霊船がロマリア付近の海域を離れて外海へと出ていくのは異常で、実は遊者自前の道具袋に船乗りの骨の一本が乱雑に入っていた事をアルスは知る由もない。
 そして何だかんだ暇すぎて、アルスは遊者の拾ってきたガーターベルトを「防御力上がるし、試着してみようかな……」と乱心しかけたが何とか思いとどまったり、『あいのおもいで』とは知らずに「これがオーブだったりするのかな……」と勘違いしたりしているうちに、陸地が見えた事を遊者が船室に入って来て報告する。
「レディ、陸地が見えた」
「ほんと!?」
 その報告に慌ててアルスは甲板へと出て前方を確認すると、一面銀世界だった。
 レイアムランド。
「……あ?」
 アルスは思いっきり顔を引き攣らせた。
 そして間もなく、レイアムランドに幽霊船は到着した。
 仰々しく遊者はアルスへと手を出す。
「お手をどうぞ」
「う……うん。……っていうかホントに降りるの!? しかも寒ッ!」
「流石にこれ以上漂流するのは食料の蓄えから難しい。しかし幽霊船にある地図からして、この大陸には祠があるようだし、一応行ってみるのも悪くはないだろう? 寒いとあれば、これを羽織ると良い」
 声を出して、アルスの手を取っていた遊者は体積と中身が間違いなく合っていない自前の道具袋から暖かそうなコートを取り出して流れるような動作でアルスの背に掛けた。
「あ、あったかい……。ありがとう、遊者」
「どういたしまして」
 仰々しく礼をして体勢を戻すと、ポヒーと遊者の鼻から紙ストローが飛び出して、引っ込んだ。
(本当に締まらないわね……)
 一瞬顔を赤らめかけたアルスはやっぱり阿呆らしくなってジト目でため息を吐いた。
「では、祠へ」
「うん」
 アリアハンではアルスが先導していたが、歩きにくい雪の中では遊者が先導して雪を掻き分け、アルスが歩きやすいよう道を作っていた。
 しかし、その事にアルスは気がつけなかった。
 遊者108の超難度遊戯の一つ『どこまで気づかれないかな? かなぁ?』である。
 大体、技名はウザイ。
 かくして、レイアムランドの祠へと二人は魔物には一切会わずに無事到着。
 アルスは祠を見上げて呟く。
「本当に祠があった……」
「ではお先に失礼」
 言って、遊者は立てかけてある梯子のような階段を先に登り始めた。
「あ、待って私も」
 勝手に行くなんて! と少し憤りながらも慌ててアルスも後を追いかけて梯子を登り始めるが途中まで登った所でふと下を見て思う。
(あ……もしかして……)
 自分が先に登った場合見られのでは、と。
(やっぱり……紳士ではあるのよね……。けど、未だに本名も素顔も知らないし一体何者なんだか……)
 アルスは頭を振って、少し距離の開いた階段を一気に登った。
 登り切った先には六つの頂点を描く金色の台座、その中央に巨大な卵。
 そして、卵の前に双子の幼女、ただし人間のようではない、がいた。
 徐に近づくと、双子は同時に口を開いて話し始める。
「わたしたちは」「わたしたちは」
「卵を守っています」「卵を守っています」
「六つのオーブを金の冠の台座に捧げた時……」
「伝説の不死鳥ラーミアは蘇りましょう」
 短い台詞に、アルスはまだ何か言うだろうと思って期待の表情で待っていたが、双子は完全に黙ってしまった。
(そ、それだけ……? えっと……)

―アルスは人々の話を思い出した―

「世界のどっかにある六つの『オーブ』を集めた者は船がいらなくなるって話だ」

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