AR Mobile Viewer

「村勇者 (ドラゴンクエスト6)【完結】」
(第0部)[1/5]

[][次話][目次][][登録]
険しい山の奥の奥。
生い茂った森を越え、厳しい崖を越えた先に村があった。
藁の屋根を被る木製の家々。
すぐ傍には断崖絶壁の崖があるが、柵のようなものはない。
日の光が存分に当たるように造られた畑と、山に生い茂る草花を餌とする家畜がその村の糧だ。
平野の人里からは遠く離れたまさに秘境。
だがその村に住む住人達は、今日も日々の生活を笑顔で謳歌している。
厳しい環境ではあるが、そこには幸せがあった。

そして、太陽が真上に差し掛かる頃、村唯一の娯楽場――酒場で陽気な笑い声が響いていた。




「ガハハ!だからよぉ、俺は言ってやったのよ。お前の好みはスライムにも劣るってなぁ!」

「そりゃねぇぜガッツ!ハハハ!」

村の端に位置する酒場。
小さいながらも、村の果実から造られた果実酒がずらりと並んでいる。
そんな酒場の中央で、昼間から酒を飲んでいる男達がいた。
村での仕事を終えた男衆が、疲れを酒で癒そうと酒場に集ったのだろうか。
皆、農作業や家畜の世話で汗を流し服を汚してた。
その男衆の中で一際目立つ大男が集団の中心にいる。

逆立った青い髪と同じ色の無精髭。
膨れ上がった筋肉の鎧。
農家というにはあまりに鍛えられたその肉体は、一目見て闘うためのものだとわかる。

「ガッツ、杯が乾いちまってるぜ」

「おぉ!悪いな!ンンッ……カッー!旨いねぇ!これのために生きてるってもんよ!」

注がれた酒を一気に飲み干すガッツと呼ばれた大男。
村人達の黒髪や茶髪の中で、一際目立つ青髪の男。
彼はこの村の男衆の中心人物であった。

険しい崖の上にある村は、正面の入り口を除き周りを崖に囲まれている。
そのため魔物達も侵入しづらい構造ではあるが、魔物の被害はゼロではない。
時折、正面の入り口から迷い込むように魔物がくることがある。
その際に迎え撃つのが、この村唯一の戦士ガッツなのだ。

たった一人で村に這い寄る脅威を駆逐する。
村が今日も平穏なのは彼に拠るところが大きいことは村人も理解しており、彼には感謝と尊敬の念を持っている。

「そら、もう一杯!」

「おっとっと。悪いねぇ。ガハハハ!」

今の姿はただの酔っ払いでしかないが。

ガッツと村の男達は酒を注いでは飲み注いでは飲み干す。
女衆がその姿を見れば、働け宿六共と怒鳴ったであろうが、この場には幸か不幸か男しかいない。

「おとうさん!」

そんな暑苦しくも笑いの絶えない酒場に、男達とは異なる可憐な声が響き渡った。
その声は酒場の入り口から店全体を突き抜けるように渡る。
幼さを宿す可愛い声。
その声を聴いた男達は、にやにやと笑った。

「ガッツ。ほら、来たよ」

「お、俺はいねぇ。どこにもいねぇ」

一名を除いて。

「おとーーーさぁーーーん!」

呼び声に答えがなかったからか、入り口からもう一度叫び声が響いた。

「おう、ターニアちゃん!ガッツならこっちにいるよ!」

「あ、てめぇ!待てこら!」

こそこそと隠れるガッツを指差し、ここにいると男達の一人が答える。
その答えを聞いて、入り口で叫んでいた存在が酒場へと入ってきた。

店に並ぶ丸テーブルよりも低い身長。
年齢は5歳前後だろうか。
だが足取りは真っ直ぐに迷いもなく、酒場を歩く姿は堂々としている。
青く長い髪が歩くたびにふわふわと踊り、大股にずんずんと進む姿を周りは微笑ましく見守った。

そして、店の奥、ガッツのすぐ傍で立ち止まり、腰に両手をあてガッツを見上げる。
とても可愛らしい顔立ちを、私怒ってます、と言わんばかりに目を吊り上げて同じ青髪の男を睨みつけた。

「おとうさん!またおひるからおさけのんで!」

「い、いや。ほら、これはお酒じゃなくてな。その、あれだ。お仕事を終えたお疲れの合図といいますか」

「いいわけしない!」

「はいごめんなさい!」

幼子に一喝される大男。
娘ターニアが、父ガッツを叱り付ける。
周りの男衆はその姿をにやにやと見守り酒の肴にしている。

「だいたいおとうさんまだおしごとしてないじゃない!」

「それは、あれだ。これから頑張ろうって心意気をだな……」

「いいわけしない!」

「はいごめんなさい!」

幼子に平謝りする戦士。
その姿は大いに笑いを誘い、仕事に疲れた男衆に癒しを与えた。

「おいこら、お前等。何笑って――」

「きいてるの!?」

「はい聞いてます!」

普段は大剣を担ぎ、村の周囲の魔物を屠る屈強な戦士が、このときばかりはうだつの上がらないダメ親父になる。
毎日のように繰り広げられるダメ親父としっかり者の娘。
その光景が村の名物となったのは何時からだったであろうか。
大きくなったよなぁ、と今も続くお説教を見守っている男衆は感慨深く酒を飲んでいる。

「きょうは村長さんがおひるにきてねってやくそくしてたでしょ!」

「はいそうです!」

「じゃあかけあし!」

「了解です!」

少女が大事な約束のことを伝え、店の外へ向って駆け出す。
その後を父が娘を追い越さないようにゆっくりと走り出した。
少女は村長の家に行くことに集中しているのか、真剣な顔で走っている。
その後ろをゆっくりと走る父は、店を出る間際に共に飲んでいた友人達に目で訴えた。

――俺の分の酒とっといてくれ。
――約束……できねぇ。
――おい、こら待て。
――大丈夫さガッツ。
――お、さすがだぜ。
――アンタの分も俺達がきっちり飲んでおくから!
――ふざけろお前等ぁ!

昼間から飲むダメ親父共の絆は、このやり取りを目線で行えるほどに深かった。




「村長さん、おとうさんつれてきたよ!」

「おぉ、ありがとうターニアちゃん。これはお礼じゃ」

「わぁ、きいちごだ!ありがとう!」

村の中で一際大きく立派な建物、村長宅の玄関先で少女は老人から木苺を受け取った。
受け取った木苺を口に含みもごもごと味わっている様子を見守る老人の表情は、優しさに満ちた好々爺だった。
そして父は娘の可愛らしい様子に後ろで身悶えている。

「んぐんぐ……おいしかった〜。おとうさん、村長さんのおはなしちゃんときくのよ!」

「はい!」

くるりと後ろを振り返った娘に、身悶えていた姿を一瞬で直立不動に変えしっかりと返事を返す。
だらしない姿は一応隠しているのだろうが、叱られている時点で意味がない……と村長は口に出さず思っている。

「ふむ。それじゃあわし等は仕事の話があるでの」

「あぁ。ターニアは先に家に戻っていてくれ」

「……うん。はやくかえってきてね」

「おう。すぐ帰るから留守番よろしくな」

「うん!」

父に元気よく返事をし少女が走り出す。
その姿が見えなくなるまで軒先で見送り、ガッツと村長は家へと入った。

「さて、さっそくで悪いが今年の精霊祭のことなんじゃが」

「あぁ。民芸細工の売出と冠の受け取りな」

この崖の上にある村では年に一度、祭がある。
精霊祭と呼ばれる祭は、自然の幸と日々の安然への感謝を山の精霊に奉るという祭だ。
この祭では、日々勤労な村人達も仕事を忘れ料理に酒に愉しむ。
そして、この祭の時にはいくつかの重要な仕事がある。
それは外貨の獲得と祭事の道具の用意だ。

この村はほぼ村のみで完結している閉鎖的な村ではあるが、完全に孤立しているわけではない。
山を降りた平野にある町との付き合いはもちろんあるし、交易もいくらか行っている。
完全に村だけで完結しているのであれば交易は必要ないが、山から得られるものだけでは生活を続けることができないのが現状である。
他の町から買い付けなければならない物が多々あるのだ。
例えば、農具に使われている鉄。
この村にも鍛冶屋はいるが、肝心の鍛冶材料が取れない。
農具を作るためには材料を他の町から買い付ける必要があるのだ。

そして、その材料を買うための貨幣を精霊祭が行われる前日に得る。
それが重要な仕事の一つだ。

「うむ。今年の民芸品はそこに置いてある分じゃな」

「あいよ。任せてくれ」

外貨を得るために村が売り出しているのは、この村で造られる民芸品だ。
これらの品は、村の職人が作り上げた一点物で、細かい造りや装飾が他の町で人気がある。
売りに出せば必ず売れる、それなりに価値のある品であった。
この民芸品を定期的に売れば村も潤ったであろうが、村はそれをしない。
なぜならば、他の町で民芸品と呼ばれるこれらは元々は精霊祭で奉納される祭具だからだ。
年に一度だけ造られ、必要以上には造らない。
それが村のしきたりであるため、民芸品を売り出すことも年に一度だけなのだ。

「すまんのぉ。おぬし一人に山降りをさせてしもうて」

「なぁに。それが俺の仕事だ」

村長が頭を下げるが、ガッツはやめてくれと笑いながら手を振った。
民芸品を売るためには当然山を降り、町へ行かなければならない。
魔物が闊歩する山を、降りなければいけないのだ。
かつて、この民芸品の売り出しは村の男衆が10人ほどで行っていた。
基本的には魔物も弱く、男衆は日々の農作業で鍛えられているので問題は無い。
しかし、絶対ではない。
大怪我をして帰ってくることもあれば、10人が数人になることもあった。
魔物がいる山を降り、平野を越えることは危険が付きまとうのだ。
だが、今はガッツが一人でそれをこなしている。

「おぬしが来て、何年になるかのぉ」

「さてな。忘れちまったさ」

ガッツはこの村の生まれではない。
十年ほど前、魔物がいる山を越え、ふらりと村に現れたのだ。
そして、なにを思ったのか若き戦士は村に住み着いた。
村に住み着きだしたころは、ガッツは中々村人に受け入れられなかった。
ただでさえ閉鎖的な村に、戦士などという荒くれが現れたのだ。
村人はガッツを警戒し静かに排斥していた。
ただ一人、ガッツの妻となった女性を除いて。
その女性はガッツを恐れなかった。むしろ興味があるといわんばかりに彼に近づいていった。
村人達の忠告も聞かず、毎日ガッツと話をするために近づいた。
そして、ガッツが話せば面白い人物であることや、魔物から守ってくれていることを村人へ伝える。
少しずつ村に受け入れられていき、いつしかガッツは村の娘に恋慕し、彼女もまたガッツを愛し結婚した。
ガッツは本当の村人となったのだ。

「……ターニアちゃんは大きくなったのぉ」

「おう、もう六つだ。自慢の可愛い娘さ」

村長が少し言いづらそうに言った言葉にガッツは嬉しそうに答えた。

「のぉ、ガッツ。ターニアちゃんには母親が必要だとは思わんか」

「思うさ。だけどな、村長。俺は一人の女しか愛せねぇ。そういう奴なんだ。そんなところに嫁がせたら可哀想だろ?」

「……そうか」

村長が言った、母親が必要という言葉。
それは、今ターニアには母親がいないという意味。
二年ほど前、ターニアの母、ガッツの妻はこの世を去った。
病に倒れた妻を治すため、夫は山を降り薬を求めた。
彼が手に入れた薬を持って帰りついたのは、娘が冷たくなった母にすがり付いて泣いている場面だった。

それから二年。
もう二年なのかまだ二年なのか、ガッツにはわからない。
娘は父をよく叱るほどにしっかりしてきた。
父はそんな娘に笑いながら謝る場面が増えた。
失ったものは大きいが、今の幸せを見失うわけにはいかないと、ガッツは常に想っている。

「うむ、すまんな。老人のたわ言じゃ」

「おう。耄碌してきたな村長。そろそろ代替か?」

「やかましいわい!あと十年は現役じゃ!」

「ガハハハ!よし、そんで冠のほうは話はついてるのかい?」

「うむ。売出の時に渡してくれるそうじゃ」

精霊祭の重要なもう一つの仕事。
それは巫女の冠を職人から受け取ることだ。
精霊祭には村娘から巫女を選び冠を被せる。
その冠は村の職人ではなく、外の町の職人が作る慣わしである。
その理由を知る者はいない。
ただ、古くからの慣わしであるため今もそれ守っているのだ。

「あいよ、それじゃあ明日にでも出るわ」

「うむ。頼んだぞ」

「あぁ……村長、俺からも話があるんだが」

村長からの仕事の話が終わり、今度はガッツから村長へと話を始める。
その時のガッツの顔は、先ほどまでのおどけたものではなく、歴戦の戦士のものであった。

「やはり、壁を作ったほうがいい」

「うぅむ……しかしのぉ。この村は精霊様のおかげで魔物の侵入も少ないしの」

「あぁ、俺だってわかってるさ。この村は不思議な力……精霊様の力で守られているってな。それでも、最近の魔物はやばい」

ガッツは最近村長に進言していた。
村の入り口に柵を――可能であれば壁を作ったほうがいいと。
今、村の入り口には柵も何もない。
そのまま山に生い茂る森に繋がっている。

「おぬしがそこまで言うほどなのか?」

「あぁ、強さ自体も上がって来ているが……そこは大したもんじゃねぇさ。ここの野郎共なら十分対処可能だ」

「ふむ、ならば壁はいらんのでは?」

村長は壁を作るべきだという進言に乗り気ではない。
あるがままに山と共に生きてきたこの村の住人では当然の感情であろう。

「いや、必要だ」

「ふむ?」

「奴等……統率が取れてきてやがる」

「なに?」

ガッツはこの村周辺の魔物を駆逐している。
それこそ、根絶やしにするが如く屠っている。
魔物、その存在は動物と違い脅威でしかない。
動物はよほどのことがなければ人を襲うことは無い。
彼等の生活区域を侵したときや、子を守るときくらいにしか敵対することはないだろう。
しかし、魔物は違う。
人であれば見境なく襲う。
それがどのような理由なのか誰も知らない。
魔物は人を襲うもの。
故にガッツは躊躇も容赦もなく魔物を駆逐しているのだ。

「この前のことなんだが……奴等、囮で俺をおびき出して俺を囲みやがった」

「なんと!?魔物がそのようなことを!?」

魔物は人を襲うが、それは本当に真っ直ぐ襲いかかってくるのだ。
本能がそうさせるように、愚直に人に突撃する。
そこに戦術も戦略もなく、人がそれに対抗するための術は多くあった。
だが、その愚直な魔物が理性的に攻めてくるとどうなるか。
それは、人の持つ戦術の優位性を魔物も持つようになるということだ。

「うぅむ。魔物が、のぅ……」

「村長、頼む。壁は必要だ」

村長はガッツの言葉に驚いているが、彼ほどの脅威を感じていない。
戦う者とそうでない者の差がそうさせるのだ。
村長はこの村の今までの暮らしから中々判断できない。
この村には精霊の加護があるという自負もある。
だが、壁を作るべきだと考えている部分もある。
ここ十年、村を守り続けているのは目の前にいる男だからだ。
そして、熟考し答えを出した。

「……うむ。あいわかった。祭が終わったら皆に話をつけよう」

「おう!ありがとうよ!」

「なに、村を守るのはわしの仕事でもあるからの」

目の前にいる男を信じたのだ。
今まで村のために血を流してくれた男の言葉を受け入れるべきだと判断した。
村長もまた、村を守ってきた男だったゆえに。

「……ところで、魔物に囲まれてよく無事じゃったの」

「ガハハハ!あの程度の雑魚、五月雨斬りで一瞬よ!」

「おぬしも大概非常識じゃのぉ」








翌朝、村の入り口には人だかりができていた。
村人全員が集まったと言っても過言ではないほどに、閑散とした村には珍しく混雑している。
その人だかりの中心は青い髪を持つ親子だった。

「おとうさん、ちゃんとおかねもった?やくそうは?」

「おう、ちゃんと持ったぞー」

「わすれものは?ぜんぶもった?」

「おう、ちゃんと持ったぞー」

幼い娘が何度も何度も父に忘れ物はないかと確認する。
その様子を村人達は微笑ましく眺めていた。

「えっとえっと、やくそうは?」

娘はよほど父が心配なのか、何度か同じ質問を繰り返している。

「ガハハハ!いざとなったら回復呪文があるから大丈夫よ!」

「むー!そのゆだんがいのちとりー!はい、やくそう!」

「お、おう」

娘を安心させようと言った言葉は即座に反論され、追加の薬草を持たされた父。
周囲は微笑ましく眺めるから、必死に笑いを堪えるようになっていた。
何時までも終わりそうのないやりとり。
それを止めるかのように、集団の中から一人の男がガッツへと近寄る。

「ほら、ガッツ。剣砥いでおいたぜ」

「おう、ありがとうよ」

近寄ってきた男は、村唯一の鍛冶屋だった。
鍛冶屋が両手で担いでいた大剣を手渡され、ガッツはそれを鞘から抜き刀身をしげしげと眺める。

「大分腕あげたなぁ。もうちょいしたら鎧も任せるかねぇ」

「無茶言うな。俺はそもそも農具専門だっつーの。テメェに言われるまで武具なんざ扱ったことすらなかったのによ」

「ガハハハ!そう言うな、頼りにしてるぜ」

受け取った大剣を鞘へ納め、鞘に備え付けられたベルトを肩に通し背負う。
今のガッツは昨日までの布の服ではなく、鉄の鎧に鋼の剣を背負った戦士の姿だった。

「んじゃ、そろそろ行くわ。ターニア、いい子にして待ってるんだぞ」

「うん……」

娘の頭を一撫でし、父は村の女衆へと軽く頭を下げた。

「ターニアちゃんのことはあたしらに任せな。お勤め頼んだよ」

「おう、任せろ。ターニアのことよろしく頼むぜ」

女衆の代表格が声をかけ、ガッツはそれに答える。
そして、女衆の後ろにいる男衆へとガッツは視線を投げかけた。

――打ち上げの準備よろしく。
――任された……「ぐはっ!?」

ガッツがいつものアイコンタクトで酒盛りの依頼をした瞬間、アイコンタクトに答えた男がその妻に殴られた。

「ガッツさんそろそろ出発でしょ?」

「お、おう」

殴った女性の笑顔の言葉にガッツは肯定しか返せない。
殴られた夫は仕事をサボるほどの酒好きだった。
その男と同じ穴の狢であるダメ親父達は一斉に目を逸らす。
妻達はその目線を逃していない。

「さ、さて、今年も頼んだぞ、ガッツ。わしらは精霊祭の準備を進めておくからの」

「あ、あいよ。そんじゃ、そろそろ行くわ」

ダメ親父共と恐妻達のやりとりを精一杯無視した村長の言葉に、ガッツは民芸品の入った大袋を担いでその光景から目を逸らした。

「んじゃ、行ってくるぜ」

「……いってらっしゃい。はやくかえってきてね」

「ガハハハ!そう言われたらパパ頑張っちゃうかねぇ!」

ターニアの不安そうな声に、笑い声を高らかにあげたガッツが走りだす。

「すぐに帰ってくるからなあぁぁぁぁぁ……」

叫びながら走る。
大人数人が分けて運ぶ大荷物だと感じさせない速度で駆けて行く。
村人達とターニアは、その姿が見えなくなるまで村の入り口で見送った。








広い平野に石壁で囲まれた町があった。
その町には多くの店と露天がずらりと並び活気を見せている。
多くの人が売り出される商品に何を買おうか考え、多くの商人が自分の店を売り込んでいた。
今、この町では年に数度のバザーが行われており、いろんな町々から商人が集まり、いろんな町々から買い物客が集まっていたのだ。
そんな活気溢れる商売の町に、一人の大男が通りの真ん中でうろうろしていた。

「民芸品の売却と冠の受け取りも終わったし、帰るかねぇ」

通りを歩き店の露天を覗き込みながらふらふらしているのは、仕事を終えたガッツだった。

「しっかし、あそこの兄弟は何時も売り上げで争ってるなぁ。飽きないのかね、商いだけに。ガハハハ!」

やることもやって後は帰るだけなのだが、ターニアへ何かお土産でも買おうかと町をぶらついていたのだ。
何かいい品はないかとあっちへふらふら、こっちへふらふらと町をぶらつく。

「お待ちなさい」

その背中を呼び止める声。
やや硬い声色。
だがそれに含まれた凛々しさが、声を発した存在の高貴さを物語っている。

そして、その声を聴いたガッツはとても嫌そうに後ろへ振り返った。

「やっと見つけましたわ、お兄様」

「……とりあず、どっか人目のつかねぇとこに行くぞ。レイドック王妃様よ」






買い物客が買い物疲れを癒そうと立ち寄る茶屋。
その奥では疲れを癒す、とは程遠い重い空気が漂っていた。

向かい合って座る青い髪の男女と、女性の後ろに直立不動で姿勢を正す金髪の男性。
男はものすごく面倒だと嫌な顔を隠さずに茶を飲んでいる。
女は男の一挙一動を見逃さないとばかりに睨んでいる。

[][次話][目次][][登録]