AR Mobile Viewer

「【チラ裏より】嗚呼、栄光のブイン基地(艦これ、不定期ネタ)【こんにちわ】」
(第0部)[1/3]

[][次話][目次][][登録]
※オリ設定の嵐です。要注意重点で。
※俺の○×はこんなんじゃねえ! と言われかねん表現が多用されています。ご容赦ください。
※今も昔も地理と歴史は駄目駄目です。勘弁してください。
※人によっては一部グロテスクかと思われる描写有ります。
(※2013/11/10初出。2015/01/17、アニメ第一話よーやっと見れた記念にpixiv様にて投稿始めましたnovel/show.php?id=4799810)
(※2018/6/30、その他板への移動に伴い題名変更)





 こちら『あさうみ2000』! クソッたれ、バケモノだ! ……喰ってる、喰われてる!!


                           ――――――――回収されたブラックボックスより




 平静25年、天気明朗なれど波高し。




 最初に、手元のメモ。続いて、今しがた自分が乗って来たバス(という名前のお古の軽トラック)に目をやってみます。

「えぇと。大帝国海軍ブーゲンビル飛行場発、ブイン仮設要塞港行き……うん。これなのです……よ、ね?」

 手元のメモと、バス(という名前のお古の軽トラック)に書いてあった文字、そして、バス停(ヤシの木)の表示に間違いはありませんでした。
 ブイン仮設要塞港。
 それが私、艦娘式暁型駆逐艦、電(イナヅマ)が新しく配属されることになった基地の名前なのです。
 が、

「……要塞?」

 潮風で風食し、角っこが取れて丸みを帯びたコンクリート製の護岸。その隣の砂浜から直接伸びた古ぼけた木板の桟橋。そしてその桟橋の端っこで麦わら帽子をかぶって釣り糸を垂らしているおじいさんと猫とカモメ。
 どう見ても故郷のと変わらない田舎の港です。本当にありがとうございました。

「気のせいじゃないよ、艦娘のお嬢ちゃん。間違いなく、ここがブイン基地さ」
「え?」

 運転手さんのその言葉が信じられず、命令受領書の裏に書いてあった走り書きに再び目をやってみました。

「……え?」



 ウチの如月ちゃんがエロ過ぎて困る&ウチの如月ちゃん轟沈追悼の艦これSS

『嗚呼、栄光のブイン基地 〜 最初はグー』



「ここが、ブイン基地」

 そこは基地とは名ばかりの、二階建てのプレハブ小屋でした。適当な大きさの板切れを近くのヤシの木にヒモで括り付けただけの看板には、やる気の感じられない文字で『1F:食堂、通信室、あとついでに基地司令の執務室』『2F:各提督執務室(201〜204号室)』と殴り書きされていただけなのです。
 はっきり言って、ショックでした。
 私と同じ工場で少し前に生産されて、佐世保や呉の鎮守府に配備された私と同じ電ちゃん達から届いた手紙は、それはもう幸せいっぱい夢いっぱいでした。

(私が配属されたこのブインだって、南太平洋に浮かぶ、常夏の楽園だって聞いてたのに……)

 あたりを見まわしてみれば、恐ろしく澄み渡った青い空、天高くに広がる白い雲、どこまでも続く遠浅の紺碧、純白の砂浜、寄せては返す優しい波の音、南国の定番ヤシの木に……まとわりつく疫病バエや蚊を尻尾で追い払う牛さんに、手入れのスキをついて中途半端に伸び始めた雑草まみれのイモ畑、そして私の足首をコツコツコケーと軽くついばむニワトリさん達。
 うぅ、記憶の中にある原型(オリジナル)の電のお母さん。電は早速くじけそうです。涙が出そうです。






 ブイン基地(という名前のプレハブ小屋)の203号室。
 そこが私の提督がいる、執務室です。私の配属先は第203艦隊だそうです。
 まさかとは思いますが、部屋割り=艦隊名なのでしょうか……
 人の気配と話し声がしますね。男の人と、女の人の声です。何を喋っているのかまでは分かりませんが、どうも険悪そうです。天候不順で到着が丸一日遅れたのがいけなかったのでしょうか。

(……)

 ノックを前に最終確認。
 状況1:室内に提督以下、先任艦隊全員が揃っており、一糸乱れぬ厳格そうな雰囲気だった場合。

 ――――艦娘式暁型駆逐艦、電(イナヅマ)! 現時刻を持って提督の指揮下に入りました! 高性能をご期待ください! いざ、暁の水平線に勝利を刻まん事を!!
(何か硬すぎるかも……)

 状況2:室内に提督以下、先任艦隊全員が揃っており、和気あいあいとした雰囲気だった場合。

 ――――えっとぉ、初めましてぇ〜。私は〜、艦娘式暁型駆逐艦の〜、電って言います〜。よろしくお願いいたしますね〜♪
(何か絶対に違うかも……)

 状況3:その他の状況だった場合。

 ――――艦娘式暁型駆逐艦、電です。世に平穏のあらん事を。
(これなのです!)

 ノックを4回。
 つい緊張しすぎて返事よりも先に扉を開けちゃったのは内緒です。

「し、しつれいしみゃ!?」

 扉を開けた私の目の前は、何かの辞書でした。
 ごっすん。と、私の顔面から聞こえてはいけないような音がしました。ですが、こんなナリでも私は艦娘――――戦闘艦です。分厚い広辞苑の顔面直撃程度でどうにかなるような安っぽい装甲の持ち合わせはありません。でも痛いものは痛いのです。涙が出そうなのも気のせいなのです。

「ぐーか! ぐーで殴りやがったな! オレを! 乙女の顔を! ぐーで! このクソ提督ぶっ殺す!!」
「上ォォォぅ等だこのクソ軽巡! 億兆倍にして熨斗もセットの半額セールだこの野郎! 折って畳んで昨日作った干物と一緒に庭の隅っこで日干しにしてやる!!」

 真っ白い将校用の軍服に身を包んだ男の人――――多分この人が提督さんだ――――が、私よりもずっと大きな身長で、龍の角のような機械製の耳をピコピコといからせ、左目に機械的な眼帯をした艦娘さんともの凄い悪口を言い合いながら大ゲンカを繰り広げていました。
 予想外にも程があります。

「あらあら。大丈夫?」

 床に座り込んだまま、目の前の大ゲンカをただ眺める事しかできなかった私に手を差し伸べてくれたのは、緩やかに波打つ黒の長髪が綺麗な、女の人でした。
 ですがその人の背中には、大きな金属製の部品(煙突?)があり、前髪には紫色の蝶の羽のような髪留めが、そして後ろ髪を結えていた簪だと思っていたのは、背中から伸びていた電探の帆でした。

 ――――この人も、艦娘さんだ。

「可愛い新人さんね。初めまして。私は艦娘式睦月型駆逐艦2番艦『如月』よろしくね」
「は、はい。よよろしくお願いいたします。世に平穏のあらん事を」
「な、なかなか斬新な挨拶ね……」

 そう言って、如月さんは何故かひきつった笑顔になってしまいました。やはり、遅刻したのが駄目だったのでしょうか。

「それはそうと……おほん。総員、傾注!」

 一瞬で如月さんは今まで浮かべていた柔和そうな笑顔を消し、引き締まった表情になって、そのまま教本にでも乗せられそうなほどきれいな敬礼をしました。

「ようこそ、駆逐艦『電』。我々、ブイン基地所属井戸少佐麾下第203艦隊は、貴女の着任を歓迎します!」

 壁際でけんかの行方を見守っていた他の方々――――多分、私や如月さんと同じ艦娘だと思います――――も、一瞬遅れて一糸乱れぬ敬礼をとりました。
 提督さんと、あの艦娘さんはまだ取っ組み合いの喧嘩を続けています。

「じゃあ、改めて自己紹介ね。私は、艦娘式睦月型駆逐艦2番艦の『如月』よ。よろしくね」

 元の温和な笑顔に戻った如月さんに続いて、他の艦娘さん達も自己紹介をしてくれました。
 如月さんの次に答えてくださったのは、金の飾り紐をあしらった巫女さん服のようなものを着た、溌剌とした雰囲気の艦娘さんでした。

「Hi! ワタシは艦娘式金剛型戦艦の『金剛』デース! 4649ネー☆ 所属はお隣の202号室の、水野中佐の202艦隊ネー」

 なんで203艦隊に? と聞き返すよりも先に、私の提督のトコの紅茶切れたからおすそ分けして貰いに来てただけデース。と、金剛さんが答えてくれました。図々しい。
 思っていたよりもブイン基地というのはご近所付き合いが多いのでしょうか。
 二人目。弓道着と胸当てと赤く短い袴を履き弓掛を挿した、真っ直ぐな黒髪と肩盾のような飛行甲板が特徴の、大和撫子の見本のような艦娘さんです。

 黙っていれば大和撫子の見本のような艦娘さんなのですが……一心不乱に食べる姿は残念の一言です。

「ハッフ! ホフ! ハフハフホフホフホフマン大佐!  我々に援軍(お代わり)はあるのですか!? うおおおおおぉぉぉン! 今私がしているのは食事ではない、これが予の間食である。でも今の私はまるで艦娘式発電所だ!! あ、私はこの203艦隊所属の艦娘式正規空母『赤城』です。あと早速で悪いんだけど何か胃に溜まるもの持ってない? 入渠中って食べるか寝るかお風呂入るかお布団の上で資材(ボーキサイト)齧って漫画読むくらいしか自由が無いし」

 ごめんなさい。帝国を出る際の検疫で唯一持ってこれたポンカン飴は、昨日全部食べちゃいました。

「そっかー。ヤシもヤシガニも、今日の上限までたべちゃったしなー」

 赤城さんは、口の端から甲殻類か何かの脚を覗かせながら……い、いえ見間違いです! きっとヤシの実か何かのスジです。私は何も見ていませんし、聞いてません『うん。すごく好きなのよ……ヤシガニ』なんて呟きも聞こえていません!
 三人目。探査灯のような形状に機械化された左目が特徴の、セーラー服の艦娘さんです。バトーさんの御息女? どなたですか?

「初めまして。重巡洋艦の古鷹といいます。わたしもこの203艦隊の所属なんですよ」
「よ、よろしくお願いします」
「本当はあと二人いるんですが、今遠征に出ているんですよ。あと、後ろの二人は203艦隊の司令官である井戸少佐と、同艦隊の総旗艦である軽巡洋艦『天龍』さんです。今の二人は、まぁ、その……あの……」

 古鷹さんがチラリと後ろを振り返って、それきり言い詰まってしまいました。
 無理もないと思います。

「ヲ級の変異種と護衛艦隊をオレと赤城と古鷹の三人共同で全艦撃沈! リ級を単独で3隻!! 黄金は無理でも銀剣はどう考えても確実だろ! なのに何でオレだけ出場停止なんだよ!? 二人も一緒じゃねぇのかよ!!」

 天龍さんが納得がいかない、といったように提督さんに詰め寄ります。
 軽巡単独で重巡3隻を撃沈。
 いったいどこの戦意高揚映画の主人公でしょうか。確かにその戦果なら銀剣突撃徽章も――――授与条件が一会戦中に、単独で軽巡以上を7隻轟沈ですから――――まぁ、ひょっとしたら夢ではないです。
 しかし、その提督さんは、天龍さん以上の大声で怒鳴り返しました。

「五月蝿ェぞ! 手前ェがソロでやった重巡3隻が問題なんだよ!! 何なんだよあの報告書は!『タンカー掴んで木刀の代わりにしました。途中で折れました。次はもっと頑丈なタンカー寄こしてください』だぁ!? ふざけんじゃねぇぞ! 三月に一回の大補給の機会フイにしやがって! 昨日の合同会議の時に俺がどんだけ肩身の狭い思いしたと思ってやがる!! 一兵卒から基地司令まで、廊下で誰かとすれ違うたびに舌打ちされるんだぞ!? 給食のおばちゃんにだって露骨に量と中身減らされてるんだぞ!? 具の入って無い雑煮ってなんだよ!? 今日もまた基地司令から直で呼び出し食らってるんだぞ!? 通信中継とはいえ大将以下勢揃いの軍法会議だよ! 俺の胃の痛さが解るかこのヤロウ!!」

 天龍さん、それは流石に……

「知るか馬鹿! テメーだってあの時オレに乗ってたじゃねーか! しかも『コイツら絶対ブッ殺す!』ってオレと一緒に思ってたじゃねぇか! ならテメーだって同罪だろうが!!」

 提督さん、それはさすがに駄目ですと電は思います……

「あ、あはは……ごめんなさいね電ちゃん。本当は皆、貴女の歓迎会をしたかったのだけれども、この様子じゃあ――――」

 突如として、今までの雰囲気をすべて引き裂くような、けたたましく、不吉なサイレンの音が鳴り響きました。
 そのサイレンはこの部屋の中だけではなくて、島中に配置された拡声器を通じて、ブイン島の隅から隅まで鳴り響いていました。

『緊急放送。緊急放送。203艦隊第一種戦闘配置。203艦隊第一種戦闘配置。定期巡回中の201艦隊より緊急入電。ブイン島沖東150キロの地点にて有力な深海棲艦を確認。雷巡チ級、軽空母ヌ級を複数認む。応援求む。繰り返す。203艦隊第一種戦闘配置。203艦隊第一種戦闘配置』

 出撃。
 そのためにブインくんだりまで来たはずなのに、サイレンと共に響いてきた放送の内容を聞いた私の頭は真っ白になってしまいました。
 今の今まで骨肉以下の醜い子供の喧嘩を繰り広げていた提督さんと天龍さんが、一番最初に反応しました。

「天龍、水野中佐と202艦隊は!?」
「はい。水野中佐は現在、特殊任務を遂行中です。第202艦隊の所属艦は、入渠中だったそこの紅茶……金剛を除いて水野中佐と共に全艦出撃中です」
「Oh,ソーデシター。ワタシの提督からの伝言Forgottonデシター。水野中佐麾下、第202艦隊所属、艦娘式金剛型戦艦『金剛』は、提督不在の本日のみ、かつ緊急の場合に限って一時的に203艦隊総司令、井戸少佐の指揮下に入りマース」

 そりゃあ助かる。と提督さんは言い、続けて私たちの方に振り替えると、今までとはまるで別人のように違った引き締まった表情で叫びました。

「第203艦隊総員! ドッグに向かって駆け足、すゝめ!!」
「「「了解!!」」」

 艦隊の皆さんに遅れること一瞬、私も敬礼を返してそのままプレハブ校舎を飛び出し、すぐ裏のイモ畑と隣接した港のドックに向かって駆け出しました。





「報告! 第203艦隊総司令井戸提督麾下、軽巡洋艦『天龍』以下3隻+1現在地! 2隻遠征中!!」

 203のドックこと、ブイン港の桟橋の端っこに整列した私達と対峙する形で天龍さんの報告を聞いた提督さんが、説明を始めました。

「よろしい。諸君らも知っての通り、当ブイン基地の201号室に在住の、オーストラリア海軍のファントム・メナイ少佐率いる第201艦隊が定期哨戒中に航空戦力を含む有力な敵部隊と遭遇、現在も遅滞戦闘を継続中である。少佐の艦隊は旗艦の『愛宕』……ああ、今は『ハナ』だったな。兎に角、旗艦以外は全て通常戦力である。少佐ならば負けはしないだろうが、それでも元々の数が――――」

 それにしても、この提督さんも天龍さんも、第一印象がアレすぎたからかもしれませんが、こういう真面目な表情をしているとなんだか違う人みたいです。
 おっとっと。提督さんの話に集中しなければ。

「――――したがって、我々第203艦隊は全力を持って敵主力の側面から打撃ををかけ開囲を試み、201艦隊の撤退をより確実なものとする。何か質問は?」
「はい! ハイハイハイ! 提督、全力ってことは、オレも――――」
「お前は黙って謹慎してろ、天龍」

 あっさりと断られた天龍さんの機械耳は、彼女の表情の落ち込み方と連動するかのように、ぺたんと倒れてしまいました。

「代わりにと言っちゃあなんだが天龍、新人のお守を頼む。お前にしか出来ないし、お前にしか頼めないんだ。頼む」

 ――――お前にしか出来ないし、お前にしか頼めないんだ。

 そう言われた途端、今度は天龍さんの表情が今までに無いくらいに明るく輝き、機械耳もピコピコと激しく振り動いていました。

「え……オレに任せろ! 任せとけ!!」

(……なんだか、原型(オリジナル)の電が実家で飼ってた犬みたい)
「電、お前は今日のところは見学だ。配属初日で連携も何もあったもんじゃないからな」
「りょ、了解しました」
「よろしい。では編成を発表するぞ。隊形は単縦陣。前衛から順に如月、古鷹、金剛、赤城」
「「「「はい!」」」」
「なお、金剛と赤城は艦隊に随伴しなくても良い。入渠中だしな。後方からの支援に徹してくれ。赤城、金剛、水上機の無線周波数を合わせておけ」
「「了解しました」」

 こないだヘシ折ったタンカーの中にあったのが補給用のボーキサイトだったので、動かせる艦載機は赤城に載っているので全部だ。と提督さんは言いました。
 戦艦の決戦火力で地均し(この場合は海均しでしょうか?)、快速の駆逐艦で傷口を広げ、重巡洋艦の砲打撃で撃ち漏らしを片付ける。と言ったところでしょうか。でもそれなら集中砲火を受ける如月さん(駆逐艦)と古鷹さん(重巡洋艦)の配置が逆の方がいいのでは?
 そう意見具申しようとしたちょうどその時、提督さんは私と天龍さんの配置を発表するところでした。なので、結局言えませんでした。

「天龍、電は金剛の艦橋にて待機」
「「はい!」」
「なお、本作戦の作戦旗艦は如月とし、私も同乗する」

 私も同乗する。

 その一言を聞いた瞬間、如月さんはこの世全ての法悦を極めたような表情のまま、何故か自分の体を抱きしめるようにして、内股でガクガクと痙攣していました。凄く艶っぽくて、でもとても破廉恥な雰囲気でした。
 一方の天龍さんは、可愛がってもらっていた飼い主から突如として殴るけるの暴力を受けた時の子犬のような表情をしていました。絶望や恐怖には鮮度があるって本当だったんですね。とっても素敵です、天龍さん。

「では状況を開始する。如月以下、順番に展開始め!!」
「如月、提督と一緒にイきます、イっちゃいます!『展開』ッ!!」

 如月さんは、無駄に洗練された無駄しかない無駄に艶やかな掛け声と共に三回転半月面宙返りで海に飛び込み、直後、もの凄い大爆音と閃光が周囲を包み込みました。
 光と音が過ぎ去った後、海の上には人の形をしたものは無く、あったのは鋼鉄の艦船が一隻だけでした。

『駆逐艦『如月』解凍作業終了いたしましたわ。さ、提督。如月はいつでもオッケーですわ』
「よし。総員、搭乗開始」

 その艦のどこからともなく響いてきた如月さんの声と共に降りてきたタラップを駆け上がり、提督はそのまま艦橋へ。私たちはそのまま甲板の縁付近で待機です。

『展開』の二文字が示す通り、圧縮保存状態――――俗に言う『艦娘』としての私達は、いわば待機状態なのです。
 軍事関係にあまり詳しくない民間の方はよく勘違いされがちなのですが、我々はあくまで戦闘艦なのです。こちらの姿――――全長数十メートルオーバーの戦闘艦の方が我々の本来あるべき姿なのであり、艦娘としての姿は日々進化を続ける深海棲艦に対抗するべく生み出された形態の副産物なのであり、日々の整備・保守点検を容易にするためなのであり、ごはんがおいしくてお布団ふかふかなのです。

「如月、抜錨! 最大戦速で目標海域まで進め! 搭乗中の各艦。沖に出次第、間隔をあけて順次展開に入れ!」




 ブイン島が小さな点になった頃、最後に残った金剛さんの『展開』が終了し、私と天龍さんはそちらに移りました。私と同じ駆逐艦程度ならほんの数秒で回復する程度の爆音と閃光だけで済むのですが、彼女と同じ大戦艦クラスの『展開』時には、小型のキノコ雲が発生するほどのエネルギーが周辺に爆発的な勢いで放出されるので、本当にこういった沖合でしか『展開』できないのです。
 もし、基地周辺で彼女達が『展開』するようなことがあった場合、それはもうその基地は陥落寸前で、そんなことを気にかけている場合じゃあないのだと思います。

『提督、第203艦隊+α、作戦参加中の全艦、配置完了しましたわ』
『金剛さん、赤城です。水上機隊が敵艦隊を目視確認。今そちらに諸元を送りますね』
「Oh,サンキューデース」

 そんな事を金剛さんの艦橋で考えている内に、ついに敵艦隊を捕捉しました。まだ水平線の向こうですが、ここからでも黒煙がいくつも上がっているのが見えました。

「かんむすさんかんむすさん。でーたがとどいたのですよ」
「しょげんにゅうりょくしょげんにゅうりょくしょっぎょむっじょ」
「このいっせんに、こうこくのこうはいはありなのですか?」

 艦橋の隅っこにある補助席に座っている私たちを尻目に、あたりでは妖精さん達――――展開時の余剰エネルギーを利用して作られた艦娘式戦闘艦の無人運用システム群の総称――――が、忙しなげに動き回っていました。赤城さんに搭載されている艦載機や、対空砲座の運用、ダメコン要員も全てこの妖精さん達が賄っているのです。私たち艦娘だけでもひとまずの運用は出来ますが、艦内装置の操作や舵取りやキングストン弁の自抜などの大雑把なものに限られてしまいます。
 例外は――――

『GOODデース! 全砲門、オープンファイヤー!!』

 無人の艦長席の隣に立つ金剛さんが、水平線の彼方を指さして号令をかけました。
 直後、防音・防衝撃処理が施されているはずの艦橋が大きく震えました。









【提督、金剛さんからの第一砲が着弾しました。弾着評価、近、近、直、遠。挟差。軽巡ヘ級の撃沈を確認】
「第一射で挟差、かつ直撃とは……流石は『魔術師』水野中佐の右腕といったところか」

 艦長席に深く座して状況を静観していた井戸が、顎の無精の剃り残しを何度も何度も撫でつけながら呟いた。
 駆逐艦としての本来の機能と形状を取り戻した『如月』に、井戸は手招きをし、それに呼応したかのように井戸の背後の虚空から艦娘状態の如月が顕現――――妖精さんシステムのちょっとした応用だ――――し、井戸の背後から手を回してそのまましだれかかるようにして顔を近づけ、囁いた。

【ねぇ、提督……そろそろ、欲しいの】

 妖精さんと同じ、疑似的な物質となるまで緊密化された情報体状態になっている今の如月に匂いなどあるはずがないのだが、その囁きに乗って微かに甘い香りが己の鼻腔に届いたように井戸には思えた。

「……そうだな。そろそろ包囲の外側からの攻撃だと気づかれるだろうし、頃合いか」
【! 提督、では!】


[][次話][目次][][登録]