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「「着いてきてくれる理由」  ドラゴンクエスト6」
(第0部)[1/1]

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『ひとは、いったいどこからやってきて、どこへ流れていくのだろうか?  レイドック王』



『魔王ムドーは倒され、世界に平和が訪れた』
 国王が出したこの知らせの夜、盛大な宴が開かれた。レイドックの者たちは、大きな声で歌い、狂ったように踊り、胃袋が破裂しそうなほどご馳走をほおばり、酒など一生見たくなくなるほど、飲み明かした。かつてないほどの大宴会に、国は眠らない夜を喜びで満ち明かした。今この街の何処へ行っても笑いが聞こえない場所などないのではないだろうか?
「無理もないか・・・。ずっと魔物に怯えて過ごしてきたんだもんな」
誰にでもなくフェイトはつぶやいた。特徴的な青い逆立った髪をポリポリと無造作にかく。そこに浮んでいるのは、この宴の主人公とは思えないほど暗いものだった。別に平和な世界を勝ち取ったことが嬉しくないわけではない。ただそれが自分たちの手で得たものだという実感がわかない。だから、今の盛大な宴や、街の人々の喜びを見ていても、素直に喜べないし、胸を張る事もできない。なんと言うのだろう。今の彼は、世界から自分だけが切り離されて、ガラスの檻から、宴を眺めている。そんな気分だった。
 

既に魔王ムドーとの死闘から1日が過ぎようとしていた。

戦前の恐怖は戦いの中で興奮へと変わり、身体中の神経を張り巡らせた。ムドーの動きを眼を光らせて捉え、脳はそのすべてを指先まで伝達した。フェイトの素早い剣術とハッサンの豪快ながらも威力のある攻撃。ミレーユの的確な指示と魔術でのフォロー。チャモロの一歩早い回復魔法。息1つすることも許されないような紙一重の攻防戦。正直何度もやられると覚悟を決めた。だが勝利の女神はフェイトに微笑みかけてくれた。ハッサンの捨て身の攻撃によりムドーの足がフラつき、フェイト目掛けて吐き出された火炎がわずかにずれたのだ。これをチャンスと見たミレーユは最後の魔力を振り絞り、ヒャドを唱え、わずかに火炎の威力を軽蔑することに成功した。更にチャモロの決死のベホイミが、ボロボロのフェイトに最後の反撃のチャンスを与えた。
「だらぁああぁあああ!!!」
 ブレス攻撃は確かに危険だ。しかし攻撃している最中は本体は無防備になってしまう。
「これで終わりだぁああ!!!!」
 フェイトは最後の力を振り絞り、剣をムドーの喉元につきたてた。
「お、げふ・・・・」
「・・・・・!!!」
 今まで多くの魔物を貫いてきたが、そのどの感触よりもおぞましい感覚が両手を支配していく。一瞬吐き気を覚えながらも、フェイトはそのまま剣を真横に引き裂いた。
「ぎゃああぁあああぁあああ!!!!!」
おぞましい悲鳴と共に、赤色や紫色の血がフェイトの顔へ降り注ぐ。
「あああぁあああぁあ!!!!」
躊躇せずに魔王の心臓へ剣をつきたてた。
「・・・・・・おの、れ・・・」
「俺たちの勝ちだ!!!」
心臓に突きたてた剣を引き抜くと同時に鮮血が飛び散った。だがそれもすぐに終わり、ムドーの身体はあっという間に石化した。魔物の肉体ではなくなったそれは、触れる前にバラバラと砕け散っていった。

「勝った・・・のか??」
 自分が魔王を倒したという実感が沸かないフェイトは、剣を構えたまま、唖然とその場に立ち尽くした。
「ああ、終わらせたんだよ・・・。へへ、いいとことりやがって・・・」
 なんとか起き上がり、ハッサンが肩をたたいた。
「私たちが勝者です。もっと胸を張りましょう」
 杖にもたらかかりながらどうにか起き上がるチャモロ。
「バーバラも待ってるわ。戻りましょう」
 まだ立ち上がれないミレーユだが、精一杯の笑顔を作る。
「ああ、そうだな・・・。俺たちが、魔王をやっつけたんだ・・・」
カランと剣を落とし、フェイトは力の抜けていく両手をなんとか握り締めた。喜びの大きさと同時に、なぜかそれに身を委ねられない違和感。それでも仲間たちの笑顔が、彼にガッツポーズを取らせてくれた。


死闘の興奮が疲れへ変わるのには、充分な時間が過ぎていた。だが眠気と身体のだらしさと同時に意識の中にはっきりと浮んでくるものがあった。魔王を倒した時に、喜びにすべてを委ねられなかった原因を作った違和感・・・。

『自分は何者なのだろう』

というどこから来るかもわからない問いだ。ムドーの城で、ハッサンは石になっていた自分と融合し、記憶を取り戻し、己を取り戻した。今になって思えば出会ったばかりのミレーユも自分を取り戻していた。
「俺は、俺はなんだろう・・・」
 拳を強く握り締め、歯を食いしばってみる。確かに『俺』はレイドックの王子だ。両親がムドー討伐に向かい、帰ってきてから眼を覚まさなくなった。そんな両親を救うため、王子は自らムドー討伐の旅へと乗り出した。そこでハッサンとミレーユに出会った。大雑把だが頼りになる兄貴分ハッサン。ミステリアスだがなんでも知っているミレーユ。3人の旅は苦難に満ちたものだったが、楽しい思い出も数知れない。だが今の『俺』は、その思い出は『記録』であって『記憶』ではないのだ。繊細な情報を文章で読んでいるに過ぎない、思い出を経験したのが『自分』だと実感できないのだ。

「どうしたの暗い顔して」「おわ!」
 ひょっこりと背後から顔を出したのはバーバラだった。おわ!!っと声と同時にフェイトは素早く距離を取った。
「なんだ、バーバラか。脅かすなよ」
「別にそんなつもりはないよ。ただフェイトがどこにもいないから探しにきたの」
「ああ、そうか。悪いな手間かけさせて。すぐに戻るよ」
 笑顔を作るフェイトをジロリとバーバラは見る。
「らしくないよそんな顔。ムドーのお城から少し変だったって、ミレーユとハッサンは言ってたけど。本当に少し変だよ」
「そうか?」「そうだよ」
 ふいに2人の視線が交わり、互いの顔が視界へと収まった。その間に奇妙な空気が流れる。互いに次の言葉を見つけられないでいる。
(考えてみたら、バーバラも記憶喪失なんだよな。今の俺と一緒・・・。ちょっと違うか・・・)
「ねぇ。フェイト。ムドーも倒したんだし。私たち・・・」
「・・・・・」
 考え事をしているフェイトに、バーバラは口を開いた。気のせいか、彼女の口調がいつもよりも早くなっているような気がする。

「お、なんだこんな所にいたのか?」
「フェイト、バーバラ、探したわよ」
「「!!!」」
 バーバラの言葉を止めたのはハッサンとミレーユの声だった。チャモロもいる。
「お、おうどうしたんだ2人とも」
「私もいるんですけどね」
「あ、悪いチャモロ・・・」
「どうしたんだじゃねぇよ。宴の途中でいなくなるから探したじゃねぇか。こんな所でなにやってんだよ」
 ハッサンの顔はわずかに赤く、息に酒の臭いが混ざっている。珍しく酔っているようだ。
「私たちのこれからについて話し合ってたの」
 ミレーユは笑顔で近づいてきた。
「フェイト。あなたはこの後、自分探しの旅に出るんでしょ。私、ハッサン、チャモロも一緒に連れて行ってくれないかしら」
「え・・・」
 思わぬ言葉にフェイトは眼を見開いた。
「あ、それ私が言おうと思ってたのに・・・」
 むくれ顔をするバーバラ。
「俺やミレーユは自分を取り戻した。だから今度はお前らの番だろ?」
「で、でもよ。みんな自分の生活があるだろ」
「らしくないこと言うのねフェイト」
 ミレーユはイタズラっぽく笑い、言葉を続けた。
「ハッサンは旅の武道家。それに私もやり残したことがあるの。チャモロも後の族長として世界を見て回りたいのだそうよ」
「それによ。俺たちは仲間だろうが!だから最後まで一緒に旅をする!それ以外の理由がいるか?」
「まあ、そういうことです。私も短い間とはいえ、皆さんと共にムドーを倒したわけですしね・・・」
 がっはっはっはと大雑把に腕組をするハッサンと照れくさそうにうつむくチャモロは対照的だった。
「それじゃあ、私たち、またみんなで旅ができるんだね!!」
 バーバラは無邪気な声をあげて、1人ずつ手を握っていった。喜びを身体全体で表現している。
「よかったね。フェイト!これからもよろしく!!」
 最後にバーバラはフェイトの手を握り締める。無邪気な微笑みの中にある視線には、強い意志が宿っているようにも感じられた。
「ああ、よろしくな!」
 バーバラの手を強く握り返し、その眼差しを受け止めた。
「みんなも、改めてよろしくな。一緒に世界を見て回ろうぜ!!」
 向き直ったと同時にフェイトはガッツポーズを決めてみせる。
「へへ、いつものフェイトに戻ったな」
「やっぱりフェイトはこうじゃないと!」
「ふ・・・。一緒にこうやって騒げる仲間とは良いものなのかもしれませんね・・・」
 ハッサン、ミレーユ、チャモロは、それぞれの感想を述べてフェイトとバーバラの周りに駆け寄ってくる。フェイトの表情に先ほどまでの悩みの色はない。何かふっきれたような、また強い決意でもしたようにも取れる、そんな顔をしていた。

「私の出番はないようですね。フェイト、良いお友達を持ちましたね。母は幸せです」
 影からずっと様子を見ていたレイドック王妃シェーラは、息子の成長を喜んでいた。そしてまだ彼がレイドックの王子であり、自分こそが彼の母だと名乗るのは先だと、自身に言い聞かせていた。
 






あとがき

こんばんは、流星です。ここまでご愛読ありがとうございました。今回はドラゴンクエスト6のお話を書いてみました。ムドー討伐から、自分さがしの旅に出るまでの間の場面です。間にこんな話があってもよいのでは?っと想像ですが。私が書く主人公は、全体的に少しネガティブ傾向気味にあります。





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