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「EVE burst error -double-face-」
(第0部)[1/1]

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まりな編一日目

「うわー、こりゃまた随分綺麗に皮膚削がれてるわねぇ…」

「でしょう?下の筋肉のピンク色が損なわれる事無く。これはプロの仕業でしょう」

「しかし『顔の無い死体』って聞いてはいたけど、指紋も歯も無いじゃないの」

事件番号平成29に1251。

関係者の間では『連続顔無し殺人事件』と呼ばれ、既に証拠不十分ながら裁判所へと起訴され、被疑者不明、容疑者不明のまま検察により再捜査が妥当と判断が下され、検察官立ち合いの元、警察機関の再捜査という異例の事態。

「しかし内閣官房から調査官が派遣されるとは、我々検察も随分と信用を失っているのですかねぇ?」

「あらイヤですわ。この案件は充分に政治的な配慮が必要であるとの上層部の判断によるものですから、そう身構えないで頂ければ幸いですわ」

「しかし法条調査官。現場の方達からすれば我々がいる事ですら邪魔でしょうに、さらに内調ですからねぇ」

「お互い、詮索は無しに致しません事?矢島啓次郎検察官?」

この事件の担当検察官は40代のメガネ面のいけ好かない男。私と矢島検察官はカオナシ死体の発見場所、沖縄県宜野湾市の『宜野湾海浜公園』の園内にいる。公園の全面芝生の広場の木の下で、死体は発見された。

「しかし暑いですなぁ。さすが沖縄と言ったところですかな」

「…実は沖縄でバカンス中、近くにたまたまいたからこの事件に首突っ込めって何してくれちゃってんのよ本部長のあほんだら」

「何か言いましたか?」

「なーんでもありません事よ、おほほほ」

そう、ここは沖縄。

えっ?何で沖縄だと政治的配慮が必要になるのかですって?なるのよ。米軍基地があるからね。特に犯人が分からない場合なんて真っ先に米軍人が疑われるのが沖縄。その次に疑われるのは…まあそういう事なのよ、察して頂戴。つまり『場所』が問題って事。最悪、超法規的措置が必要になった場合、警察も検察も手出し出来ない判断も出来ない、そんな事態に対処出来る権限を持つ者がいたらいいねぇ、なんて本部長の判断なんでしょうよ。

あ、あと『検察の信用が失われてる』ってのもちょっとあるわよ。何て言うのかしら、『検察が政治的に勝手な判断』を下す事があるのよね。政治判断はアンタたちの仕事じゃないわよ!って事ね。それはどっちかって言うと私達の仕事なのよね。だから内閣官房長官の直属である内調が、検察の勝手な判断について情報を内閣へと上げる為に情報収集をする、という側面が今回、含まれている訳ね。じゃなきゃいくら政治的に微妙な土地柄での殺人事件だからと言って、普通は内調が出しゃばったりしないわよ。

「死体発見場所は米軍基地周辺の雑木林、米軍関係者が利用する繁華街の裏路地、さらにキャンプシュワブに隣接する辺野古ダムの水面に死体が浮いた、等々…実に7件もの殺人が僅か一カ月の間に起きている」

「ですな。そして半年前にも連続で5件の殺人事件が発生し、手口からして同一犯と思われると。半年前に一度、証拠不十分のまま起訴。よりによって再捜査中に再び連続殺人事件が起きた訳です」

「さらに死体の身元が一切分からず仕舞い。顔から歯型から指紋まで、全て切除されているわね。DNA鑑定も、そもそも誰のDNAか登録情報が無いのだから身元に繋がらず。さて、犯人は一体、何を目的としているのかしらね」

身元が分からずとは言え、まず普通に考えるならば地元沖縄の住民が可能性が高い。しかし沖縄はリゾート地でもあり、他所から観光で来る場合も多い。

「さて、普通に考えれば隠ぺい工作でしょう。死体の身元が分からなければ、犯人も分からない。自分の捕まるリスクを最大限減らす、とまあこんなところでしょうか」

「しかし、それだと死体を無造作に放置しているのが引っ掛かるわ。死体の身元を隠しておきながら、それじゃあ一貫性が無いと思うわ。隠すなら徹底的に隠すでしょう?」

「ふむ、どうやら法条さんは一貫性にこだわっておられるようだ。そこに政治的な関わりがあるとか、考えてらっしゃいます?」

「どうでしょうね。人を殺すなんて一番リスクが高い事ですからね。そんな政治的な意図というのはまず考えられないわね。クリミアみたいな事案であるならば兎も角」

クリミア事案とは、親ロシア派住民による武装蜂起、それによってロシアへ併合という事件の事で、『静かなるクーデター』とも言われている。この背景で誰が何人死んだのか、全く情報が分からないと言われている。何故かと言うと、徹底したメディア制圧が行われ、情報が完全に統制された為と目されている。諜報関係者の間では近年、非常に興味深い事件として話題に上がる事も多い。

「しかしそうだったりしたら、それはもう米軍関係者の関与と疑うしかありませんな」

「それはちょうど当事者に聞いて貰いたいわね」

「は?」

「はろはろー、待ってたわよジョナサン」

公園の遊歩道を、一人の白人男が歩いてきた。アロハに短パン、ビーサンにグラサン。以前にお世話になったアメリカ海軍のジョナサン・ウィリアムズの登場。

「またアンタかホウジョー。この前は大変だったらしいな」

「あら、さすが米海軍情報局。概ね知ってるって訳かしら」

「おいおい、俺に足代わりさせておいて知らない訳にもいかんだろう?」

「そりゃそうか」

「で、そちらさんは?」

ジョナサンは隣の矢島氏を見て首をかしげる。

「ああ、失礼。私はこういう者です」

一方の矢島検察官は懐から名刺を差し出し、ジョナサンに手渡す。

「検察官?何でまた?」

「この事件は半年前にも起きていましてね。既に立件していた訳です。ところが再び事件は起きてしまった。故に、検察から再捜査の要請を警察機関へ申し渡したという次第です。しかし、米軍関係者の方が来られるとは聞いておりませんでしたな」

「まあ米軍関係者の身の潔白を証明する意味も込めて、情報を提供しようと思ってね」

「情報?」

「ああ。殺しの手口がどうもメキシコの麻薬カルテルのやり口に似ていてな。顔面の損壊した死体ってのはメキシコではよく上がるそうだ」

「…それがどうして米軍関係者の身の潔白に繋がるんです?」

「アメリカは移民の国でな。それは軍隊であっても変わらない。アメリカ軍には約30万人もの移民が軍務に就いている。その中でも特に多いのがメキシコ移民だ。どうしてか分かるか?不法移民が永住権を得る為に、軍務に就く事によって永住権獲得の審査期間を短縮出来るんだよ。だからメキシカンに多い殺しの手口だが、米軍のメキシカンは永住権が欲しいのでそんな事件を起こす可能性は低い。まずは麻薬カルテル関係者を洗った方がいいと俺は思うね」

「しかし可能性であればゼロでは無いでしょう?それだけで潔白とは到底言えませんな」

「いやもう一つあるんだ。『犬』だ」

「犬?」

「海兵隊憲兵隊所属の軍用犬宿舎において、ジャーマン・シェパードの餌に人間の皮膚が混入していた」

「…どういう事です?」

「さて、どういう事なんだろうな。普通に考えると、憲兵隊に犯人がいるって事になるんだが…あからさま過ぎやしないか?」

「つまり、米軍関係者の犯行に見せかけようとする工作だと?」

「多分な。もしも本当にメキシコ移民の米軍人が犯人だったとして、自分のとこの犬に剥いだ皮を食わせた、特に隠ぺいもせず、って?」

「無いわね。ただ、ここで一つ大きな疑問が生じるわね」

「ああ、そうだ。『犯人は、米軍基地内部へ侵入した』という事になる」

ブブブブブ!

「あ、ごめん。スマホのバイブだわ。本部長?」

あー、変な想像はしないように。私は別に欲求不満なんかじゃないわよ。

『あー、まりな君。出ちゃったよ』

「あのね、本部長。私は別に、本部長の朝のお通じの報告なんて求めてなんていませんからね」

『違うんだ。出ちゃったのよ』

「だーかーらー。そういう話は奥さんとして頂戴。あっ、香川さんとした方がいいのかしらね」

『あのねぇ。そうじゃなくて、カオナシ殺人、こっちで出たんだよ!』

「…マジで?」

『大マジよ。だから、まりな君。大至急戻って来てくれたまえ』

こうして『連続顔無し殺人事件』の捜査が開始された。

〜一日目終了〜

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