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「万夜城の主」
(第0部)[1/1]

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男は逃げていた。それもひたすら逃げていた。
暗い森、ひたすらにしげみをかき分けてその先に丘があるか谷があるかもわからない。
追手は5人、すぐ後ろから迫っているものが5人、総勢ではおそらく30を超えるだろう。
なんとかまいて5人である。

「殿、先にお逃げください! ここは私たちが」
「あぁ、逃げるは逃げるが、できれば死ぬなよ」

そうは言うものの、足止めするのも難しいだろう。
屋敷が襲撃を受けたとき、こちらには100人を超える侍衆が控えていた。
それでも30人の忍を相手に総崩れになったのだ。
どうして今3人の配下が5人の忍を相手にしてどうにかなるだろうか。

男は3人の護衛をその場に残し、逃げながらそう考えた。
考える間にも背後で悲鳴が聞こえてくる。

どうしてこんなことに。まるで走馬燈が駆け巡るかのように、男はそう思わずにはいられなかった。
敵は少なくない。
黒幕は? 三番街の武田か? 6番街の寿機尾か? それとも1番街の黒夜叉だろうか?
いずれにしても忍を使って謀殺を図るのは明確な協定違反ではないか。
いや、ここで俺が死ねば、表ざたにはならない。
表ざたにならないことは、万夜街ではなきに等しいのだ。
こちらもそれを考えないではいなかった。だからこそ、屋敷には100人の侍を置いていたのだ。
しかし、まさかあれだけの数の忍をそろえてくるとは。

やや開けた場所に出た。男はそこで足を止めた。
逃げるのをやめたわけではない。
しかし、男は後ろを振り向いた。

目の前に立つ5人の忍に背を向けたまま相対するのは死に等しい。
だからといって相対すればどうなるものでもないだろうが・・・

「9番街の黒辻ヒツギだな?」

忍の一人が男に聞いた。ヒツギと呼ばれた男は相対する5人の姿をジっと観察した。
誰一人として、一筋の刀傷すらついていない。
ヒツギはフフッと笑った。

「何がおかしい?」
「おかしなことを聞くと思ってな、俺が何を答えてもどうせ殺すんだろ?」
「そのとおり。しかし2、3聞きたいことがある」
「聞きたいこと?」

ヒツギはアゴに手を当てた。

「はて、何か答えてやる義理があったかな。屋敷を襲って、俺の配下を100人殺して、今俺も殺されるのに」
「ふむ」

その忍はアゴに手を当てて頭をかしげた。
そして次の瞬間には、一瞬でこちらに距離をつめ、手にもった白刃を喉元に振った。

「ギリギリセーフだってばよ!!」

ザクッ、という音の代わりに、ギィィン、という金属音があたりに響いた。
見ると、ヒツギの前に少年が立っている。
背はヒツギよりやや低く、髪はキツネ色、手にはクナイを持ち、そのクナイがヒツギの首に迫っていた刀を押しとめている。

「てめぇら、悪事はそこまでだ! 木の葉の忍、うずまきナルトここに見参だってばよ!」

それに少し遅れて、近くの木から別に人影が飛び出してくる。こちらは女だった。

「こらナルト! また一人で先走って! あ、あなたは黒辻様ですね? 我々は木の葉から参りました。私は春野サクラと申します」
「木の葉の忍か、見たところどうも俺を救おうとしているように見えるがそう思っていいのか?」
「ええ、そのために来ました」

少女はニッとほほえんだ。
しかしどうだろう。ヒツギはあまり明るい気持ちにはなれなかった。
忍だとは言っているが、こちらは二人、自分と同じくらいの背丈、子供ではないか。
それに対して相手は5人だ。

「で、俺は逃げてもいいのか?」
「あー! こいつ俺たちのこと信用してないってばよ!」

ナルトと名乗った少年が顔だけヒツギのほうに向けて抗議した。

「見ててねサクラちゃん。俺がこいつら全員倒しちゃうからさ!」

なんだこいつは。ヒツギのナルトに対する印象は、いぶかしいである。やはり逃げたほうがよさそうだ。
ナルトが言っている間に、相手の忍は距離をとって、2本目の刀を抜き、2刀に構えた。
そしてスゥ、と一息すうと、一瞬でナルトの目の前まで距離をつめた。

ナルトのほうもクナイを両手に2刀でもってこれを迎えうつ。
忍の2刀をギンギンと跳ね返した。忍を自称するだけあって体裁きはそれなりのようだ。
しかし次の瞬間には横蹴りを食らって吹き飛ばされてしまう。

「ぐわー!」

ヒツギは先ほどの考えを撤回した。
向こうは明らかに手練れである。
サクラと名乗った少女がクナイを抜いてヒツギの前に立つ。
しかし1対5だ。

「もういい。なにもお前まで死ぬことはない」
「そういうわけにはいきません。私も忍ですから、任務を果たします」
「ここで犬死にするのが任務だったのか、ずいぶん冷たい里に生まれたものだな」

サクラはその皮肉には答えず、クナイを構えて5人の忍のほうを向いた。
さきほどの2刀を持った忍が再び距離をつめてくる。
そして次の瞬間、しかし、また別の人影が2刀の忍とサクラという少女の前に現れた。

その黒髪の少年は、迫る忍の前に中腰で立ち、手は目の前で印を結んでいた。
そして次に頬をぶくっと膨らませた。

2刀の忍はその黒髪の少年に気づき、一瞬足をとめた。
しかし、次の瞬間には少年が一息に口を開けると、
口から豪火を吹き出し、その豪火は2刀の忍を巻き込むと後ろまで吹き飛ばした。

その様子を見て、サクラは両手を上げて飛び跳ねた。

「っしゃーんなろー! サスケ君かっこいー!!」

見ると2刀の忍は丸焦げで、別の忍が肩を抱きかかえている、かろうじて死んではいないようだ。
5人の忍は、しかし、何も言わず、その場を離れた。
どうやら助かったようだ。少なくともこの一瞬は。

「・・・」

サスケと呼ばれた黒髪の少年は、こちらを向きはしたものの何も言わずムッツリとしている。

「あー! サスケェ! ナニ一人で先走ってるんだってばよ! 今からオレがあいつら全員ぶっとばしてやるとこだったのにー!」
「・・・」
「あー! あー! 無視だってばよ!」
「うるさいナルト。私たち危ないところだったんだからね!」

ナルトという少年が立ち上がって抗議めいたことを口にしている。
ヒツギはとりあえず、サスケに礼を言った。

「命拾いした。礼を言う」
「フン、俺はお前の命には興味がない。それよりも」

サスケと呼ばれた少年はヒツギの礼をいなすと代わりに質問した。

「お前、暁という名に心あたりはないか? その中のイタチという男を探している。この街に来ているはずだ」
「イタチ?」
「・・・」

首尾がわるそうと見るや、サスケはよそを向いた。失礼なやつだ。というのがヒツギのサスケへの印象である。
それからしばらくして、ヒツギたちが街へと向かう道中、ヒツギの家臣の一人がヒツギを見つけ、走ってきた。

「殿! ご無事で何よりでございました!」
「あぁ、ここにいる三人に助けられた。素性を確認しだい、問題なければ丁重に扱ってやってくれ」
「特にオレ! オレが活躍してコイツを助けてやったんだってばよ!」
「あんたは黙ってなさい」

ヒツギの横でナルトがサクラに小突かれる。
その家臣は、しかし、蒼白な顔でつづけた。

「ご無事でなによりです。しかし・・・」
「どうした?」
「はっ・・・」

家臣は言いよどむと、ヒツギに促されて、とまどいながらなんとか吐き出すように続けた。

「何と申し上げればよいのか・・・ その、8番街が・・・ 消えました!」
「消えた? 8番街というと鋼マンジの管轄街だな。消えたとはどういうことだ?」
「その、消えたのです。まるまる更地となってしまいました。わかっているのは、それをやったのが暁であるらしい、ということだけで・・・」
「暁?」

サスケが割って入り、まるで射殺すように家臣をにらみながらつめよった。

「詳しく聞かせろ。そいつらに用がある」

さらに横からナルトも割って入る。

「俺も俺も、詳しく聞かせろってばよ!」

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