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「EVAザクラ 新劇場版」
(第0部)[2/5]

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「みんなどう思う?」

 尋問部屋の光景を、居間で一緒に見ていた隊員達にソノミは呟いた。彼女はモニターの光景を食い入るように見ている。居間には隊員がほぼ勢ぞろいしていた。クルミ、サキ、カリンカの三姉妹と島の警備隊隊長のカッシュ・土門と配下のコノエとヤシマ、宇宙ステーションであるTB5号の駐在員である、ナギサと、技術担当のレイン・土門、弟子のイクヨがいる。もう一人のTB5駐在員であるホノカはすでにTB5に滞在して、回線を通して参加している。土門夫妻を除けば全員隊長である大道寺ソノミの養子だ。セカンドインパクトで孤児になった子供達のために、当時から玩具の製造販売で大富豪となっていたソノミは、孤児院を大量に建て運営していた。その中から選抜された子供達を鍛えて隊員にした。土門夫妻はセカンドインパクト後職を失っていたのでソノミが雇っている。夫は拳法の達人で警備隊隊長及び体術指南、妻は天才的技術者としてTBシリーズの制作に携わっていて、今ではソノミの最も信頼出来る友人だ。

「魔法使いなのは事実だろう。だったら残りの話も、あり得ない事じゃないだろうな。まあ難しい話はレインに任せる。俺は島を見回ってくる」

 カッシュは話に飽きてきたのか、居間を出て行った。暑いこの島でも黒いマントのような物を身にまとっているが汗一つかかない。鍛え方が違うのだろう。

「ほんとに面倒くさいの嫌いなんだから」

 ソノミとは違うがやはりきつめの美貌を誇るレイン・土門博士は勝手に部屋を出て行った夫の背中をにらみつけた。名前通りハーフらしく、完全に東洋人の顔のソノミとは少し違い、ほりが深い。

「仮定が入るのだけれど」

レインは顎に指を当て話し出した。

「仮定の一は、彼女が本当に魔法使いだと言うこと。少なくともさっき実演してくれたから超常能力があることは事実らしいのでこれはクリア。仮定の二は彼女が言葉通り異世界もしくはパラレルワールドから来たのだと言うこと。これは証明しようがないのだけど、少なくともソノミの記憶にある、ナデシコさんや先生は実在していたわけだし、セカンドインパクトで被害を被ったのも同じ。まあ、ソノミの旦那がルパン四世っていうのは無いけど」
「私のあの人はアニメの主人公じゃないわよ、普通の人。私と一緒にいなければ、あのときも助かったのだけど」

 ソノミは顔はモニターから動かさなかったが、ただ寂しい笑いを浮かべているのがモニターにかすかに映り込んでいる。

「ともかく、パラレルワールドという仮定を受け入れたとすると、この世界に相当近いわ。科学レベルは彼女の世界の方が少し上、政治経済などのシステムは似ているし、文化もね」
「で、どうする」
「ソノミはどうしたいの」
「もし、違う世界にナデシコがいたのだとしたら、違う世界のナデシコの家族だとしたら」
「助けてあげたいんでしょ」
「ええ」
「じゃこうしてはどうかしら」

 レインはソノミの肩に手を置いた。ソノミは振り返った。

「WWRにとって、有益か否かで決める。彼女の、とりあえず魔法は、いざって言う時の切り札の一つとして使える。そして今はそれほどの力があるわけでは無いので危険性はない。例えば本人が知らない間に洗脳されて、こんなストーリーを言っていたとして何かおこしても、コノエなら取り押さえられる」
「ナデシコの子供をスパイだなんて言わないで」
「それは不確定要素よ。ともかく害はないし。そこでWWRの基地に置いておかないで、彼女の旦那と言うべきか、旦那だったと言うべきか、ともかく碇シンジ君のところに送り込んだら。丁度日本の駐在員が欲しかったわけだし、トモヨちゃんは日本に戻すのだから、見張りとして、この世界の案内役として一緒に転校させてあげれば」
「本人が望めばそれも良いかもね」
「ただし、スパイだったりする可能性も否定しないで、頭の片隅に残してちょうだい」
「ええ」

 ソノミはため息をついてモニターに視線を戻した。

「お母様」

 モニターからいつの間にか消えていたトモヨの声がした。

「サクラさんがお母様に会いたいそうです」
「判ったわ。ヤシマ」
「はい」

 ソノミの秘書も兼ねている色黒の女性は、書類入れを手に持った。ソノミの後をついて部屋を出て行った。
「どう思う」
「おかあさまはこの件については判断能力が鈍っているわ」

 コノエは手にしている木刀のような物を膝の上に置いた。棒の握りの側にかすかに切れ目が見えるので、仕込み杖かなにかだろう。

「でもクルミはサクラちゃんはいい人にみえるです」
「私も姉さんに賛成」
「私も賛成。コノエさんはトモヨちゃんべったりだから、トモヨちゃんが心配なんでしょ。日本に着いていったら。ここは師匠に任せて」
「それもありね」

 師匠とはカッシュの事だ。みんなの体術の師匠のためそう呼ばれる。

「ともかく、隊長の決定に従うわ」

 結局、日本の屋敷にトモヨが帰るのについてサクラも日本に渡り、第三新東京市に行く事になった。護衛にコノエがついていくことになった。
 たまたま第三新東京市の近くに建てていた大道寺家の別宅から、シンジが通うであろう第三新東京市立第壱中学校に通うこととなった。あれこれと三ヶ月間ほどかかったが、その間にサクラとトモヨは仲良くなった。それと共にサクラと一体化していた、カードとなった前の世界のトモヨとケンスケの気配は体の中から消えてしまった。とても悲しかったが、その事を屋敷の部屋で今のトモヨに打ち明けると、黙って抱きしめて頭を撫でてくれた。

「大丈夫ですわ、サクラさん。もう一人の私に替わって、私がサクラさんをお助けしますわ。サクラさんは、その碇さんを助けてあげてくださいな」
「ありがとう、トモヨちゃん」

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「第二新東京からかぁ、美少女二人とはついとるなぁ」
「えへへへへ」
「おほほほほ。ロサンゼルスからも一人ですわ」
「えっへん、って言うんだよね。こういう時は」
「そうですわ。ルーシーさんは日本語が上手ですわね」
「ママが日本の会社に勤めていて、ママのボスの家によく遊びに行くうちに覚えちゃった」

 始業式の後、2−A組ではサクラとトモヨとルーシーの周りに人だかりが出来ていた。第三新東京市は人口の流入が制限されている。あからさまにはなってはいないが、ネルフが手を回している。そのため転校生は珍しい。三人を除けば全員が1−A組から繰り上がって来ていた。新担任もまだ来ないため、盛り上がっている。


「ルーシーさんは何故日本へいらしたのですか?」
「ママが副社長になったから、本社のある日本に家族ごと引っ越したの。弟も一緒よ」
「お父様は?」
「パパは離婚協議中。ニューヨークで刑事をやってるよ。二人とも仲は悪くないけど、すれ違い多くて、二人とも意地っぱりだし。私も嫌いって訳じゃ無いけど、殆どあってないから他人って感じ」

 ルーシーは肩をすくめた。茶色のセミロングの髪が揺れた。横からシャッター音がした。

「ケンケン、さすがに撮りすぎ。モデル代取るよ」

 先程から三人の写真を撮りまくっているのはケンスケだ。一応断って撮っているが、休む間もなくシャッターを切っている。

「第壱中は写真部が無いだろう。部を作るのは、コンクールに入賞が一番。それには美少女の写真が一番だし」
「トモヨ、ケンケンに何か言ってよ。なんかケンケンは色々だめな感じ」
「おほほほほ、ケンスケさん、過ぎたるは及ばざるがごとしですわ」
「そうそう、サクラもやり過ぎだと思う」

三人に言われて今度はケンスケが肩をすくめた。さすがにシャッターから指を離しカメラを下ろした。

「ま、また今度。ところで大道寺さんは、お母さんが大道寺コーポレーションの社長なんだよね」
「おほほほほ、よくご存じですわね」
「大道寺って苗字は珍しいからね」
「ところで、写真がご趣味のようですが、被写体は主にメカと伺いましたが」
「良く知ってるね。主に被写体はメカ、たまに景色かな、あと美少女」
「やはり色々だめな感じですわね」
「一概に否定はしないよ」

 トモヨはサクラから前の世界の事は聞いているが、それとは関係なく、この世界でも相性は良いのかトモヨとケンスケは話が弾んでいる。

「木之本さんは大道寺さんのハトコなんですって」
「そうだよ、ヒカリちゃん。お母さん同士が従姉妹なの」

 この世界でのサクラの戸籍は、この世界のサクラ達の家族の戸籍を使用している。この世界のサクラはセカンドインパクト後の混乱期に死んでいるが、大道寺家の政治力で記録が改竄され、サクラだけ生き残り大道寺家に引き取られた事になっている。色々聞いてからヒカリは急に謝り出した。サクラが気にしてないと笑いかけ、ヒカリはほっとしたようだ。その後もおしゃべりは続いた。

「あたしが新担任の九段クキコだ、よろしくゥ」

 急に教室の戸が開き、頭がぼさぼさの女教師が入ってきた。年の頃なら三十でこぼこ、少しつり目の整った顔立ちをしている。やせているが、胸はデカく、ぴったりとした服とも相まって目立っている。ただ何となくだらしがない感じと、今どき珍しいタバコのにおいのせいで、色気は余りない。クキコは教壇に手をつくと、自己紹介を始めた。

「言っとくが私は魔女だ、嘘もごまかしも通用しないから、そう思え」

 取りあえず、適当な席について話を聞いていた生徒達の顔は見ものだった。みんな大丈夫かという感じのあきれ顔でクキコを見つめていた。二人を除いてはだ。サクラとトモヨだけは、目を見開いて見ていた。

「じゃあ、まず学級委員長から決めるか、他薦、自薦何でもありだ」

 この世界でも委員長はヒカリだった。

ーーーーーーーーーー

 初日はホームルームだけでお開きだが、サクラとトモヨだけがクキコに相談室呼ばれた。サクラとトモヨがテーブルの前に並んで座ると、クキコは反対側に座った。

「木之本は、何者だい?何かが違う。変な言い方だが違い方も普通と違う」
「えっと」
「ま、何者でもよいが一つだけ。何者でも私の生徒だ。困った事があったら、どんな事でも相談に乗るよ。私じゃないと相談に乗れそうも無いことが多そうだ」

 クキコの笑いはニタニタ笑いなのだが、何故か下品に見えないのは、瞳が澄んでいるからだろうか。色は黒いのだが、見ていると、色んな色が見えるような気もする。サクラとトモヨはクキコの顔をじっと見ていた。

「先生は魔女なんですか?」
「そう言っただろ」
「じゃあ、私も魔女です」
「それは良かった。宇宙人はあった事が無いし、物の怪は面倒だし。ともかく魔女の悩みは他の先生には話しづらいだろ。遠慮せずにいつでも来な」

 そう言うと、クキコはウインクをした。サクラとトモヨも、音が出そうな大げさなウインクに、顔の緊張も解け微笑みが浮かんできた。

「はい、そうさせて頂きます」
「おう、今度家庭訪問するから、差し障りの無いところだけ教えてくれ」

 家庭訪問は早速週末に行われた。クキコの月収位しそうな食事と酒を振る舞われた後、サクラとトモヨとクキコの三人は、サクラの部屋で一晩中語り明かした。理解しあえる教師のおかげで、サクラはシンジがそして使徒がこの街に訪れるまで、穏やかに過ごす事ができた。

ーーーーーーーーーー

代打屋

「あの、どなたですか」
「トーゴー、代打屋だ」

 初めて第三新東京市に来たはいいが、変な怪獣が攻めてきて、リニアは止まるわ、ミサイルは飛び交うわで、シンジは進退窮まっていた。近くで爆発したミサイルの爆風でリニアの駅の入り口のシャッターによろめきかかった。丁度その時、目の前に盾になるようにツードアのクーペが急停車した。

「とにかく乗れ」

 特徴があまりない中年男が手を伸ばして助手席のドアを開ける。トーゴーが何者かは知らないが、怪獣大戦争のまっただ中にいるよりはいい。シンジが大きな鞄を抱えて、頭から滑り込むように助手席に入ると、ドアを閉めた。

「うぁ」

 シンジが座り直すのを待たずに、トーゴーはクーペを発進させた。年代物のガソリン車だが、整備状態も、ドライバーの腕も良いのかクーペはみるみるその場を離れていく。少し経ち直線路にクーペが入り、横Gが収まったところでシンジは助手席に座り直した。

「あの、葛城さんの代わりの方ですか?」
「その通り、代打屋でね。依頼人に急用が出来たので、依頼があった」
「代打屋ですか、えっと」
「何でも屋だよ、ネルフってとこのジオフロントにお連れしろって事だ。ネルフというか、葛城さんは金払い払いがいいから好きなんだ」
「はぁ」
「で、一応確認したいのだが、IDカード持ってるかい?送られているだろ」
「はい」

 シンジが足の下の鞄に手を伸ばした時だった。いきなり運転席側の窓から閃光が車内に飛び込んで来た。そして轟音と共に爆風がクーペの側面を叩いた。爆風にあおられてスピンしかかったクーペだが、道幅が広かったため、なんとか体勢を立て直し、すぐ先にあったトンネルに逃げ込んだ。トーゴーは車を少し進めて止めた。強烈な爆発は、トンネルの入口を赤々と照らし、爆風も凄い勢いで吹き込んでくるが、外よりはましだろう。シンジは鞄に手を伸ばした姿勢から、頭を抱えて、安全姿勢をとっている。なぜか最近学校で頻繁に行われる、避難訓練が役に立った。トーゴーはダッシュボードの下の小物入れから小型の無線機を取り出した。以前ミサトから仕事を請け負った時に渡された、直通の無線機だ。今回も連絡が必要な時はこれを使うことになっている。

「うぁ」

 スイッチを入れたはいいが、NN機雷の爆発の後の電波障害で凄い雑音がして慌ててスイッチを切った。トーゴーは脱力すると、エンジンを止め、ハンドルにもたれかかった。

「当分動けんな、シンジ君とりあえず安全みたいだぞ」

 シンジは頭に手をのせたまま、こわごわ上目遣いで、トーゴーの顔を見上げた。

「ともかく、無線が繋がったら、葛城さんに連絡して、それからだ」
「はぁ」

 爆風にあおられた砂粒などが窓ガラスに当たる音が少し静かになってきたところで、シンジは頭を上げた。
ーーーーーーーーーー

「他に誰かいませんか?」

 そのころ第三新東京市立第弐中学校の校庭にTB2を着陸させていたクルミは、小学校に退避していた住民をTB2のコンテナに乗せ終わったところだった。怪獣が出た、助けてという通信をモニターしていた、TB5の高感度センサーとWWR本部の高性能AIによって、孤立していた小学校を探り当て、TB1とTB2が急行して住民の退避を手伝っていた。怪獣にもびっくりしたが、巨大な正体不明のVTOLが現れたのも驚いていた住民達だがとりあえず命が大事とTB2のコンテナに乗り込んだ。
 スピーカーの呼びかけの後、高性能のバイオモニターで周囲を感知したが、人間は他に見あたらなかった。

「マリエル、発進するです」
「了解。私はもう少し見回ります。怪獣はどうします、母さん」
「私達の仕事は人の命を守ること。怪獣はほっときなさい。お爺さま達の方でなんとかするわよ」
「了解」

 マリエルはTB1で周辺の探査を続けた。TB2は垂直に上昇すると、怪獣から遠ざかるように東に進んでいった。

ーーーーーーーーー

「アンズ、なんでいるの」
「にゃ、にゃにゃ、にゃにゃにゃにゃ」

 気を取り直したシンジが鞄を開くと、中から白い猫が飛び出してきた。シンジの顔にしがみつくと文句を言うように、アンズが鳴いた。シンジが顔からアンズを引き剥がしても小言のように鳴き続ける。

「猫の輸送代ももらわないとな」
「にゃ、にゃにゃ」

 トーゴーがつぶやくとまるで挨拶をしているかのように、頭を下げて鳴いた。

「アンズは家にいないと。父さんの事だから着いてきてもいいことないよ」
「飼い猫かい」
「先生の家の猫で僕より少し年上なんです」
「じゃ、姉貴か兄貴かな」
「姉と言えば、姉みたいなものです。勝手に着いてきちゃった」
「弟が心配だったんだろな、ともかくネルフに、一人と一匹とどけますか」

 トーゴーは無線機をとるとスイッチを入れた。今度は雑音はさほど聞こえない。

「えー、こちらトーゴー聞こえますか、どうぞ」
「聞こえます。シンジ君無事、NN大丈夫だった?」

 無線機からはきれいな女性の声がした。

「無事ですよ。ただ車はぼろぼろ。そちらの入口まではなんとかいけそうだけどね。あと追加でお客が一匹」
「お客?一匹?」
「シンジ君に飼い猫がついてきたようです。ともかく届けるので、一匹分と車の修理代追加でよろしく」
「追加費用はなんとかするから、いそいでね」
「了解」

 その後、ルートのうち合わせなどを少しした後トーゴーは無線を切った。トンネルの外も大分落ち着いたようだ。まだ怪獣は暴れているのか遠くから音は聞こえてくるが、NN機雷の爆風などは収まってきた。

「じゃ、出発するから、猫は後部座席に」

 トーゴーが言うと、アンズは自分で後部座席に飛び移り、置いてあったタオルの上に寝転がると一声鳴いた。

「言葉がわかるみたいだな」
「そうなんです。時々、人の言葉がわかるような事をするんです」
「まぁ、十何年も生きれば猫又になるかもしれないし、言葉ぐらいわかるのかもな。ともかく出発だ」

 トーゴーはエンジンをかけるとトンネルの奥に向かって進み出した。

ーーーーーーーーーー

「はい、お母様無理はさせませんわ」

 桜色のリムジンの後部座席で、トモヨはソノミと通話をしていたが、今にもドアを開けて飛び出して行きそうなサクラを見て通話を打ち切った。ここは第三新東京市より少し離れた山の頂上だ。使徒が出たという知らせを受けたトモヨとサクラは、ピンクの大型リムジンで、運転手とコノエと共に偵察に来ていた。第三新東京市より200km以内は外出禁止令が出ているが、このリムジンは別らしい。途中戦自の検問にあっても運転手のパーカーがIDを見せて照合させると、フリーパスで通れる。パーカーは屋敷の執事を束ねる立場だが、トモヨ達が出かける時は自らハンドルを握る。ソノミの腹心の部下であり、トモヨ達のもっとも頼りになる味方だ。ボディーガードのコノエはいつものメイド姿で助手席に座っている。助手席には、情報端末やレーダースクリーンがあり、有用な情報が入るたびに、皆に伝えている。

「サクラさん、助けに行きますか?」
「今助けに行ったら、時の流れの誤差が大きくなって、先が読める利点がなくなる。それに今の魔力では使徒と戦えない」
「そうですわ。ここぞという時を見極めないと、今は我慢の時ですわ」

 その時、コノエの端末にTB5から連絡が入った。コノエは直ぐにトモヨの前端末に転送した。

「碇さんは、代打屋さんとジオフロントに向かってますね。代打屋さんはトーゴーさんといって100%の成功率を誇る何でも屋さんだそうです。碇さんの事はとりあえず代打屋さんに任せてはいかがですか」
「うん、でもいざというために、もう少し近くに行きたい」
「わかりました。パーカー、安全かつ最近の距離まで近付いて下さいな」
「はい、お嬢様」

 パーカーは静かにリムジンを発車した。リムジンは使徒の暴れている方へ向かっていった。

「シンジさんは、きっとEVAには乗りたくないと思う。だけど乗ってもらわないと」

サクラは呟くと、足元をみた。しばらくすると靴にしょっぱい水滴が垂れてきた。

ーーーーーーーーーー

「なるほど、親父さんはここのトップなのかい」
「はい」

 ミサトに指示されたジオフロントへの入口に向かうと、そこはネルフ本部への直行便のカートレインの駅があった。入口の警備にはトーゴーとシンジの風貌、使っているクーペの特徴は通達されていたらしく、すぐに案内された。その場にいた係員にシンジのIDカードをチェックしてもらい、本人確認が終わると車でそのままカートレインに乗りこむ。

「トップなんです」

 うつむき気味に話すシンジを、頭の後ろに手を組んで天井を眺めていたトーゴーは横目で見た。シンジは膝の上に戻ってきたアンズの頭を撫でている。アンズはシンジの膝の上で寝ているようだ。

「苦手なのかな、親父さんが」
「はい」
「ま、男は親父が苦手なもんだよ」
「トーゴーさんもですか?」
「だれでも大体そうさ。で大人になると急に苦手でなくなる時が来るんだ」
「そうなの」

 その時、車内が急に明るくなった。カートレインの軌道は地下の大きな空間に出た。

「あっ、凄い。本当にジオフロントだ」
「凄いな、俺も初めて来た。民間人は中々入れないからね」

 シンジは夕焼けの赤い光に照らされたジオフロントの光景に目を奪われた。光ファイバーによる採光システムのせいで、地下なのだが相当明るい。ただ地上とは微妙に色の具合が変わっており、ジオフロントの天井から下に伸びる兵装ビルの奇景のため、抽象画のように見える。

「なあシンジ君、ところで君は何をしに呼ばれたんだい?ここは軍事基地らしいし、子供の来るところとは思えないんだが」
「判りません。ただ、なんとなく碌でもないようなことみたいな気がして。何かちょっと前から直観が鋭くなってきて、そうだ。アンズ預かってくれませんか?」
「にゃ」

 寝ていたように見えたアンズが顔を上げた。

「怪獣が攻めてきてるし。僕といると危なそうで」
「にゃにゃにゃ、ねにゃねにゃ」

 抗議しているのか、アンズが盛んに鳴き始めた。シンジの手を軽くかんだり、前足で叩いたりする。

「なんかいやそうだけどな。それに俺に物を頼むと料金がかかるぞ」
「そうなんですか。どのくらい?」
「まっ、ネルフに請求するよ」
「にゃにゃにゃ」
「アンズ、お願い。ちょっとの間トーゴーさんと一緒にいてくれない」

 シンジの懸命の説得の結果、カートレインが出口に到着する頃には、アンズは納得したらしい。シンジが出口で係員の出迎えを受け別れる時には、トーゴーの頭の上に乗り盛んに鳴き声を上げていた。

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