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「マギノ戦記」
(第0部)[1/1]

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 あらすじ。
 
 
 魔法〈マギノ〉と機械〈テクノ〉が衝突する時代。
 
 世界に拡大し、奪ってゆく覇権国家、帝国。
 
 家族を奪われた、少女は決意する。
 
私は、勇者を、殺したい。

 そうだ、傭兵を雇おう、何者にも負けない強い傭兵を。一騎当千の傭兵を。
 
 くすぶる火種が燃え盛り、戦火は燃え広がってゆく。
 
 これは傭兵と国家をめぐり争う、帝国との戦いの記録である。
 
 
 
 ■.Little Revenger.
 
 
 
 私は、勇者を、殺したい。
 
 誰かを憎むのも。誰かに殺意を抱いたのも、それもこれも勇者のおかげだ。
 
 私は、全てを奪われた、家族も平和も。全部。
 
 私は無力だ、何もできはしない、ただの子供だから。奪われるだけ。
 
 だけども、私には意思があり、意志がある。
 
 例えどれだけ、ちっぽけでも、私には力がある。
 
 諦めはしない、最後まで。勇者の喉元に迫るまで、勇者の首を落すまで。
 
 私が、許さない。どんなに強くでも。
 
 世界が認めても。理不尽でも。
 
 私は、許さない。
 
 
 
 ■. 大陸の戦火。
 
 
 
 ユーシア大陸より西、王国諸国とスフィア連邦の境界地帯に広がる肥沃な土地と天候に恵まれ、「女神の穀倉地帯」と呼ばれる『広大なる小国』オスロ―公国は存在した。
 
 領土だけは大きな小国とよばれる事もあったが国王の善政、メガララ帯水層地下水の汲み上げによる灌漑によって一大農業地帯、巨大な穀物倉庫や牧場を保有する世界一の農業国へと生まれ変わった。世界の穀物を生産し、寒冷な土地柄な連邦諸国へと穀物を輸出することで、互いの不足を補い会う共存関係を築いていた。
 
 そんな幸福な時代も長くは続かなかった。
 大陸諸国のさらに西に存在する島国オルリス。半ば鎖国状態の国であったが、長年に渡る魔法技術開発が身をむすび。魔導革命の先端を切っていちはやく〈世界の杖〉の座を占めたオルリスによって,先進魔法国家として,原料・食糧供給地域としての植民地を大陸の広域にわたって支配する覇権国家が確立した。
 
 魔剣、魔杖、数々の発明品の中でも際立ったのが召喚術の開発である、別次元の世界から呼びよせた勇者を使役することで古代に存在したとされる魔導王朝時代の遺物を発掘、解明、再現することで巨大な軍事力、魔剣を使い周辺諸国を併呑、併合吸収していった。
 
 そして、版図拡大に最も寄与した、勇者の存在があった。一小国に過ぎなかったオルリスが帝国化した要因は、召喚された勇者がもたらした別世界の知識、その圧倒的な魔法適正から生みだされる圧倒的な戦闘力にあった。
 
 善政が徒となり軍事力を縮小していたオスロ―公国に抵抗する力はなく、連敗につぐ連敗を喫する。首都オデッサを占拠され、国王は連邦へと亡命、事実上の敗北となった。
 
 これに反発したのがスフィア連邦だ。ツンドラ〈凍土帯〉とタイガ−〈針葉樹林帯〉からなる極度に寒冷化した土地柄ゆえに国土から得られる食料資源は限られていたのだ。安定的な食料確保のためにはオスロ―との関係が必要不可欠なゆえに、軍事力を行使するのに長い議論をする必要はなかった。
 かくして連邦軍と帝国軍双方の武力衝突により旧オスロ―公国内は戦火に見舞われることとなった。これにより難民が続出、戦争孤児などの問題が多発した。
 
 活発な帝国に抵抗するべく、小国家は共通の敵を見出し。軍政機構を統合、連合化、十二王国連合軍。通称国連軍を結成し侵攻へ備え、連邦との同盟を締結。軍備を増強していった。北方の巨大国家スフィア連邦は魔法技術に劣り、帝国に後塵を廃するが。優れた機械技術を運用し、銃火器を製造。国連軍へと供給していった。
 
 軍事とは物資の消耗である。食料、武器は当然として細かな日用品まで消費する人類最大の消費活動である。求めるものあれば、手を差し出すものは当然として存在する。
 
 大陸の東の最果てからの『企業』の参戦、参戦とは言っても武力によるものではなく経済的利潤を求めての経済侵攻であった。
 
 〈世界の武器庫〉企業は全ての国、組織、果ては個人に至るまで武器を供給した。その中に傭兵という商品が紛れ込んでいった。戦火に燃える世界では傭兵の需要はうなぎ昇りに高く、戦争により四肢を欠損する者が続出し、義肢義足の発達により生まれたのが手足の機械化〈ゴーレム化〉技術である。通常はヒト型のゴーレムを形状変化させたうえで、人体と神経組織を接続、自由に動かせる義手を各国へと提供していった。
 負傷兵を再度、前線に戻すという離れ技に味をしめた各国はさらに改良〈魔改造〉を加え、人体の戦闘力を高めていった。
 
 それら傭兵を統括する組織、傭兵斡旋組合を設立、より巨大な利潤を生みだしていった。
 
 超人化、機械化した傭兵は引く手あまたとなり各産業を潤し、より高性能な義体〈アームズ〉の開発に取りつかれることになった。多数の不幸な、人材。傷病兵や戦災孤児を流用した人体実験など倫理にもとる行為まで行われた。
 
 倫理から外れた行為ではあったが、戦争景気がそれを受容していった。そしてそれに次ぐ産業が帝国の奴隷制の導入、勝利し、拡大を続ける帝国はその国土の巨大さから大量の人材を獲得していった。
 
 その中にゴーレム関連の技術者の存在があった。元々は土木工事用に開発されたゴーレムを戦闘用へと転化させた。
 
 土や石、金属でできたゴーレムを制御する技術の応用で、外部からの制御を必要としない半自立、独立したゴーレムの製造に成功。大量生産されたゴーレム兵が戦場に投入された。一定の周波数で起動し、多数のゴーレムを画一した戦力に変えた。強力な単体戦力を有する勇者と、広範囲に展開できうる安価なゴーレム軍。この両輪を以って世界へと侵攻していった。
 
 緒戦、戦いは帝国の優勢に天秤は傾き、勇者の活躍によるところが大きく。重要な局面での、戦力投入で盤面を大いに優勢を傾けていった。
 
 劣勢となった国連軍は戦争犯罪により収監されていた魔王の助力によりゴーレムの大量生産に踏み切った、単純な命令しかできない粗悪品も大量に造られ、暴走事故も多発した。
 ゴーレムには自我がなかったからだ、もしゴーレムに自我を付与することができれば戦力は大幅に増すであろうが、戦時下ではそれも望むことはできなかった。そして暴走の危険性もさらに増すであろうことは明確だったからだ。
 一部の試作品を除けば、案山子も同然の性能だった。
 魔法関連技術では劣っていた国連軍も、ただ座していたわけではなく、魔法を使わない兵器の開発に尽力していた。小銃、火砲、戦車『企業』からの技術提供を受けそれら軍需品を製造していった。
 
 物量で勝りながらも決め手に欠く国連軍。戦力に勝りながら勇者という強力な個人に依存する帝国。両陣営の武器供給を担い長期の戦争で利益を得たい企業、各勢力は危い均衡を保ちながらも拮抗していた。
 帝国各地で頻発する反乱、統治能力を超えた国土拡充政策。勃興する新興勢力など火種は山ほどに存在している。
 
 勇者擁する帝国は元来、短期決戦を得意とする。帝国は長期化、泥沼化する戦争に難色を示し始め、新たな勇者を召喚し始めた。多大な魔石資源を必要とする召喚術に、望みを託し、計、7人の勇者が召喚された。
 
 召喚された勇者の活躍により旧オスロ―公国戦線での連邦及び国連軍の排除並びに撤退させることに成功。形勢は逆転しつつあった。
 
 同盟軍が完全な敗北とはならず連邦領土内へと撤退できたのは、冬の到来のおかげだった。補給の見込みのない寒冷で広大な連邦を占領するには。世界最大の軍事力をもつ帝国でも兵力が足りなかったからだ。
 
 それらの優位性も春の訪れとともに、無くなるだろうことは確実であり、補給物資を整えた帝国軍に敵う敵は存在しなかったからだ。
 
 春までに帝国の侵攻を止めなければ、蹂躙されるのは明白だった。
 
 
 
 ■. 旧オスロ―公国領内、郊外の邸宅の二階。
 
 
 
 コインを弾いた、宙を回転する、月光を煌めかせる金貨。
 
 機械の指先で弾いたのはベルモット、傭兵である。金で雇われ戦闘を請け負う、濡れ仕事。
 
 これは動作の確認のようなものだ。いつもの癖とも言えるし、ジンクスでもある。
 
 嘘か、真か。極稀に奇跡を起こすと呼ばれる幸運のコイン、それをいまだ見たことがない。
 
 回転しつつ上昇するコイン。回転する金貨。
 
 黒いバイザーで隠された目の奥に、鈍い鉛色の瞳。軍用のコート。ライ麦色の髪。合成繊維のホルスター、内部に収まるのは6連発のリボルバー357mag.背中に同口径のライフルを背負う。
 
 傭兵になったのは、両の目を失った時から始まった。炸裂した魔法が輝き、その美しさに見惚れ、人生に絶望するほどには永く、その光を失わせた。
 『企業』が私を買い取り、簡素な契約書にサインしたあと古い眼球を抉り出し、最新鋭の眼球を詰め込まれた。
 
 正直にいえば、感謝しているし、憎んでいる。この地獄を再び見る羽目になったからだ。さらなる高解像度で。
 
 金貨は頂点に達し、落下しつつある。
 
 呼気を吐き、止める。
 
 コインを見入る、鷲の文様が掘られた古い細工。人々の手で旅をしたであろう細かな凹凸。そして古い言葉でこう刻まれている。『生まれたのなら、たぶん幸福。死んだのなら、さらなる幸福』
 
 運命は皮肉が好きなようだ。裏にせよ、表にせよ、どちらにしろ幸福なのだから。
 
 コインはゆるやかに落下する、重力に引かれて。落ちる。
 
 機械化した腕、滑るように。瞬く間の内に銃把を握り、抜き打つ。音もなく。速く。
 
 息を吐く。絞るように。
 
 銃口の尖先、静止したコインが直立していた。機械義肢特有の精密の業。
 
 裏でもなく、表でもない。運命は選び取るものだ。自分の力で、それが幸運であれ、不幸であれ。
 
 指先でコインを摘まむ、こちらは生身だ。今回も奇跡は起こらなかった。たぶん、これからも。拳銃を回転させつつホルスター仕舞いこむと、ややあって。月光が差し込む窓を、見る。見事な満月、金貨のような色合い。手元のコインと見比べても遜色ないほどに。 
 
 侵略された国家とはいえ、人気もない郊外の豪邸は荒らされた様子もなく、佇んでいる。湖面のような静けさ。誰もいない空になった町。避難していった家族やその他大勢の住民はいまごろ、何をしているのか。私と同じ月を見ているのか。
 
 今度の依頼は一風変わっていた。雇い主が直接傭兵と面談するのだという。
 
 傭兵と雇い主が顔を合わせる事は、ほとんどないと言っていい。手紙でも電話でも傭兵組合に連絡さえつけば、その日内に契約が成立する。匿名性の利点を捨てる理由はない。
 
 片手でまた、弾きつつ、手持ち無沙汰に遊ぶ。今回の依頼は見送ることになりそうだったからだ。報酬も期待したほどではないと思ったから。
 機械の体というものは金食い虫だ。人体より頑丈、精密、完全。売り文句は素晴らしく実際は欠陥が多い。定期的なメンテナンスにも金がかかり、戦闘用ならば尚更にかかる。費用を捻出するのに危険な仕事を選ばなくてはならず、戦闘では高性能の義手にさらに換装せねばならない。戦闘での修理費もただではない。堂々巡りなのは分かってはいるが、これが私の生き方だ。
 そして適正の問題もある。人体とゴーレムを融合させる際にでる拒絶反応。これを投薬や薬物で抑える。耐えられずに廃人になるか、適合し超人になるか。運次第。
 私を改造した医者がいうには適合率が高いらしいのだが、怪しいものである。最初は指を動かすのさえ苦労したものだが、いまでは先刻のようなコイン遊びができるほどに熟達した。最初は練習を兼ねて、慣れると習慣に、今では体の一部と言っていい。
 
 緩やかに振り返った視線の先、子供がいた。年は十二位か、そのあたり。くすんだ電球の下で、質素な服に、質素な皮靴。喪服のように見えるが極めて上質の服。貧相に見えないのは、その身に宿るたぎるような、くすぶるような怒りの所為だろう。
 はた目から見ても、目立つ、黒色の髪色。同じ色の瞳。典型的なオスロ―人の風貌。覚悟を決めた人間の顔。
 
 この手の輩は、極めて厄介と相場は決まっている。無理難題を押し付ける、貴族の類と似通っている、だが、似ているというだけで同じという事ではない。
 顔が違う。安いプライドもなく、驕りもなく。あるのは覚悟だけだった。修羅場をくぐった人物特有の顔付き。
 
 相手と離れてはいない、近くはない、目前にある木製の長テーブルと椅子さえなければ。触れ合える、そんな距離。
 
 暗がりの部屋の中、少女は復讐を考えていた。どうしたら勇者を殺せるのかを。
 
 「あなたで28人目になるわ」
 呟くように、夜気を震わせる声、湿った声色。達観にまみれた口調。
 
 「誰もが断ったわ、勇者を殺せだなんて酔狂な輩は誰もいなかったわ」
 
 帝国の勇者。護国の守り人。帝国の守護者。魔王の天敵。侵略者の尖兵。勇名も悪名も含めれば幾百とある通り名。
 
 間違いなく言えるのが、勇者はとんでもなく強いということだ。魔王の一角を打ち破り、虜囚とした実力は本物だ。立ち向かうのなら、残りの魔王を全部かき集める必要があるほどに、まぁそんな奇跡みたいなことは起きない。個人主義者の塊のような癖の強い連中が纏まって一致団結するなんてことは、ない。ありえない。
 
 そこで傭兵の出番という話になるわけだ。思想によらず、感情に動かず、契約で動く雇われびと。
 金額にもよるが、重要な役職につく重鎮を殺した前例は少ないながらも存在した。貴族の全財産をかき集めたほどの金額が支払われたという噂を耳にしたことがある。一度でいいから目にしてみたいものである。
 
 だが物事にはふたつに分けられる、可能なことと、不可能なことだ。勇者を殺したなんて前例はない、そもそも殺せるのかすら怪しいものだ、公表された情報では人間ということになってはいるが、実は人間の形をした最新兵器だと言われても正直、信用できる。それだけの実力がある。本物の中の本物。
 
 「報酬がどれ程かによるね」
 
 今回ばかりは断ろうと、カマをかけた。小遣い銭で英雄は殺せない。
 
 「これを見れば解るわ、私が本気かどうか」
 
 古びた扉が軋んで、泣いた。呻くように開かれた、先。
 
手遊びが止まる。コインを落しそうになる。

 金貨の山。それもけた外れの。たぶん一生遊んで暮らせるほどの。部屋を埋め尽くすほどの金貨の麻袋があって、零れた雫が煌めきを放った。
 一目で価値があるであろうとわかる装飾品の数々、きっちり重ねられている金の延べ板なんて初めてみた。無造作に並べられているのは銘のある魔剣、魔杖。魔術本は本棚に整然と並べられている。
 一歩、一歩ずつ部屋に踏み入る。驚愕に心が弾み偽物かと思い、ひと掬いばかりを手に取る。煌びやかに光る光沢にこの重み、本物だ。これは小遣い所ではない、一財産。人生を売り払っても手にできない至宝の数々。この子供何者だ?
 
 振り返って、また子供を見る
 
 「    」
 
 あっけにとられ、言葉がでない。本当に全財産をかき集めたとでもいうのか。どうやら本当の本気らしい。
 
 「このお金で――――剣の勇者を殺して欲しい」
 
 「勇者は私の全てを奪っていった、だから、私は彼の命が欲しい」
 
 「私にはもう何もないわ、父上も母様も、二歳だった弟も」
 
 小さな雇い主、は震える拳を隠していた。見えぬように、恐れるように。
 
 ――――だから。二の句は続かなかった。返答を待っているのか。
 
 脳裏で計算しつつある、明滅する灰色の脳。
 これは公式の私的な復讐だ、割にあわない。だが魅力的だ。汚れ仕事から足を洗い、生身に近い体を手に入れることも不可能じゃない。でも、はっきり言えば手に余る、一人では不可能だ。逆に言えば一人でなければ可能性はあった。
 
 報酬は減るだろうが、見返りは膨大だ。乗ったほうが良い。いや、相手はあの『勇者』様だ。一騎当千の怪物を殺せる可能性は0に近かった。
 0に近いと言えるが。0ではないという証明であった。限りなく0に近いということだけの話だ。たったひとり。無敵の個人を殺せば。手に入る全てが。
 情報も、人員も必要だ、組合の伝手を使えれば、奇特な仲間も集まるだろう。リスクが大きすぎるって理性が囁く、不可能だってね、幾ら黄金を積まれたからって無理なものは無理だって断るのも勇気だって。
 
 理性と本能の天秤が揺れ動いて、一方に傾いたと思いきやまた一方へと傾きと、そんな事を繰り返していた。
 
 思索の末に、コインを弾いた。癖のようなものであるし、ジンクスでもある。金貨の閃き。
 
 裏なら断り、表なら乗ろう、何故かそう思った。
 
 コインを見入る。回転する運命。回転する人生。
 
 手の甲と手の平が合わさり、しばしの沈黙。静かな呼吸音、静謐と沈黙。
 
 そして開かれる唇。
 
 「最後にひとつ、名前を聞かせてもらおうか」
 
 「ノイン・テーターよ。傭兵さん」それは、勝ち誇ったかのような笑み。
 
 手の平を、開く。
 
 「ベルモットだ、小さな雇い主」諦めるように、嘯く。
 
  表――――。運命は選ばれた。
 
 
 
 

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