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「俺ら素人がホロウと戦うのは間違っている(俺ガイル×BLEACH?)」
(第0部)[1/3]

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 俺ら素人がホロウと戦うのは間違っている(俺ガイル×BLEACH?)
 
 
 2018年の末だったか、それとも2019年の初めだったか忘れましたが、パソコンが壊れたので買い換えました。なのでIDが変わっております。
 
 
 
 
 
 
 
 プロローグ
 
 
 ―――『重霊地』と呼ばれる土地がある。
 
 
 千年に1度現れるという、怪奇現象やホロウ、霊感保有者や超能力者の発生率が異様に高い、地球上に1つしか無い土地である。
 他にもその土地に住む人間の魂魄を使って王鍵が作れる等の特徴があるが、ここで挙げたい話とは異なるので割愛しよう。
 
 
 今しがた挙げた重霊地のように、地球上には『○○地』と名の付く、特殊な土地が約10万箇所はある。
 ……というと多いようにも思えるかもしれないが、地球上の面積は相当な広さであり、また上記の○○地に関しても広いところでも東京都くらいであり、小さければ直径10mくらいしかない。他にも人の住む住まないに関わらず現れるものもある。また人間が住めない火山口や山岳・樹海・砂漠地帯、南極や北極、そして大半は大海原に現れやすいことを考えれば、○○地の1つ1つに、霊感のある人間やホロウ、死神などからすれば、種類にもよるが一度は見物しに行く価値はあるだろう。ある意味、霊感ある者にしか見えない、大自然が生み出した絶景のような光景が広がっていたりする。
 ……そして今から約20年前、1つの○○地が、ここ千葉県に現れた。
 
 
 名は―――『結界地』。
 
 
 約30年ほどで場所が変動する土地だ。しかもこの結界地は、地球上に1000箇所以上も現れる、○○地の中で最もポピュラーな存在でもある。形が町そのものをすっぽりとドーム状に霊子の壁が覆う様子から、あたかも結界に包まれてるように見えるので、その名前が付けられた。数ある〇〇地の中でもダントツに地味で、あまり見物したくなるような代物ではない。
 その結界地の特徴としては、まず幽霊が負の感情によって悪霊と化した怪物―――『小型』ホロウの発生率の増加である。
 
 ここで少しだけ解説するが、ホロウにも大雑把なランク分けがある。
 弱い順に、小型(2〜3m級)、中型(5〜6m級)、大型(10〜20m級。別名、ヒュージホロウとも呼ぶ)、メノス級のギリアン、メノス級のアジューカス、メノス級のヴァストローデといったところだ。
 無論、中には小柄な人間と同程度の体格をした弱小ホロウや、小型と中型の間くらいといった半端なサイズも存在するが、あくまで大雑把なランク分けと思えば良い。そしてギリアン未満であれば、身体が大きいほど保有霊力が高い。
 
 
 
 
 ―――話を戻そう。
 
 
 
 
 結界地でのホロウ発生率の増加というのは、この場合で言うところの『小型ホロウだけ』が現れやすくなるということである。
 彼らが結界地の外部からやって来るのか、それとも自然発生しやすいメカニズムでもあるのか、未だに判明していない。そもそも現世の住人にとっては、地球規模でみると、ホロウとの遭遇率とは恐ろしく低いものである。
 他にも結界地には怪奇現象が起きやすくなるというのもあるが、これも大抵がホロウ絡みであって、しかも小型程度のホロウが悪さするくらいだから、建物の倒壊などといった惨事は滅多になく、せいぜいが『あの廃校舎にはお化けが出る』という噂が出る程度である。
 ―――無論、彼らホロウも無闇に悪さをしているのではない。彼らにとっての食事……ホロウ同士による共食いによって力を得られることを知らない彼らは、霊力のある人間(ホロウが見える程度の)や普通の幽霊などを喰らう。普通の幽霊ならば、そんな怪奇現象の起こってる土地に近づく馬鹿はほとんどいないが、霊感のある人間の場合だと稀に居る。それが肝試しであれ、お祓い目的であれ、哀れな彼ら彼女らがその小型ホロウに喰われるという悲劇も少なくはない。
 ……もっとも、重霊地と異なり、結界地には霊感ある人間が増えたりなどしないが。
 
 
 そしてここからが結界地の『最も厄介な点』であるが、本来はホロウを討伐すべく、一定量の人口が住む町に1人という割合で、死神が配置される。
 ところが結界地の場合、その土地がドーム状に結界のようなもので常に覆われているため、死神達が持つレーダーにホロウや幽霊の姿が一切映らないのである。無論、結界地の中から発するホロウの霊圧等も察知する事は出来ない。気配だけを完全に遮断する結界なのである。ただし、結界の中に入ってしまえばレーダーも、死神が持つ気配察知の能力も、結界地内部だけなら使えるようになる。
 そのことは死神達の住まうソウル・ソサエティでも知られており、もし担当する土地に結界地が見つかった場合、その結界地の中だけは別の死神が派遣されることとなる。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 ――比企谷八幡サイド――
 
 
 ―――どうしてこうなった……。
 
 
「ゆ…ゆきのん……どうしよぉ……」
「ゆ、由比ヶ浜さん。この期に及んで『希望を捨てるな』とは言わないわ。でも―――でもなるようにしかならないのだし、今は『あれ』から逃げることだけを考えないと」
 震える由比ヶ浜を、雪ノ下が抱きしめながら諭すが、彼女自身もまたやや震えていた。
「ちょ……べーって!? マジやべーって!!? なに『あの化け物』!? それに―――」
「戸部! ―――下手に騒ぐな……。あいつの注意を引くんじゃない……」
 葉山が冷や汗を流しつつも、冷静に前を見据えたまま答える。
 俺も葉山と同じく、眼前にある、完全に倒壊したグランドの体育用具倉庫と、その倒壊時に発生した土煙の中に立つ『10m級の怪物』に目を向けた。
 一言で言えば、それは親父たちが若い頃に流行った映画―――超巨大ゴリラのキングコングと似た姿をしていた。
 大きく異なる点があるとすれば、そのキングコングは仮面を付けていたくらいだろう。あと本物のキングコングはあれの倍以上は大きかったと思う。
 
 
 
 ―――これは後になって知った事だが、ここが結界地と呼ばれる、『小型ホロウ』との発生率が異様に高くなる土地だということと、それとは全く関係なく、こいつは本当に偶然やってきただけの『大型ホロウ』だということだった。
 
 
 ……もう1度思う。どうしてこうなった?
 俺は数分前までの記憶を遡った。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 俺と材木座のクラスで体育の授業が行われ、適当にチームを分けて野球をしたところ、俺と材木座、戸塚、葉山、戸部、大岡、大和のチームは珍しく敗れ(俺と大岡以外が野球が苦手で、不覚なことに俺も戸塚と材木座以外から声援を送られた)、敗北したチームが後片付けを命じられた。
 そしてサッカーの試合に参加していた女子の三浦、海老名さん、由比ヶ浜、川崎、相模もまた試合に敗れ、同じく後片付けに参加していた。
 しかも何の偶然か、更に別のクラスの体育に参加していた雪ノ下も、同じ理由で数人のクラスメートと共に片付けに加わってきた。
 体育で使ったものを体育用具倉庫運び込み、先に雪ノ下のクラスメートだけが倉庫を出てから数分。轟音と共にそこで記憶が途切れ―――
 
 
 
 ―――そして今に至る。
 
 
 
 
 
 
 ―――ってか最悪の予感が、すでに頭の中にある。
 俺達はいつの間にか倉庫の外に出ていた。そして目の前には、完全に倒壊している体育用具倉庫があり、その上に立つキングコングのような怪物。……これだけでも不自然なことだが、それ以上に無視できないことがある。
 1つは、授業が終わって先生に礼をするために整列している生徒や教師。
 彼らが突然倒壊した倉庫に驚き、駆けつけたまでは良い。
 だが葉山や雪ノ下がいくら呼びかけても、こいつらは俺らどころか怪物までも無視して建物を指差し、そして叫ぶ。
『先生! 中にまだ雪ノ下さんが!!』
『葉山君がっ! 葉山君が中に!!』
『憧れの由比ヶ浜さんもだ!!』
『川崎さんは!? 俺、まだあの孤高の女王に告ってないんだけど!?』
『海老名さん!! 腐ってるけど、そんなあんたを諦められないんだよ俺はよぉッ!!』
『王子! あたし達の戸塚王子も生き埋めに!?』
『俺達の優美子女王もいないぞ!!』
『南ちゃん! 返事して―――ッ!!』
『戸部っちも大和もだよ!?』
『あのデブの材木座もだ!』
 ―――何だろう、やっぱり俺は忘れられてる。……ん? あ、そーいや大岡もナチュラルに忘れられてるわ。
 まるで、俺らの姿どころか、あんなに巨大な怪物すら見えてないかのようなリアクションだ。
 そしてもう1つ。
 
 ―――俺らの胸から生えている、このブランコと同じ太さをした、錆の無い鎖は何だ?
 
 それらは何mもあり、倒壊した体育倉庫のガレキの下へと続いていて―――。
 
 
 
 
「なぁ―――俺ら、もしかして死んでんの? でもって幽霊になって、この胸の鎖は死体まで続いてる……とか……?」
 
 
 
 
「うああああああぁぁぁぁぁんっ!!」
 茫然とした大岡の放った言葉に、由比ヶ浜が泣き出し、三浦が膝から崩れた。
 他の奴らも俯いたり、握りしめた拳を震わせたりと、今しがたの大岡の言葉を否定できずにいる。
 視線を上げれば、怪物は左右を見渡し、何かを探しているように見える。
 だが怪物が一歩だけ踏み出したとたん、地面に奴の片足が数センチほどめり込み、それを見ていた教師や生徒達が一斉に逃げ出した。怪物が見えない彼らも、何も無い地面に巨大な足跡が刻まれるのが見えれば、そりゃ逃げもするだろう。
 
 
 
「―――なぁ、あの怪物、こっち見てなくね?」
 
 
 
 震えながら戸部が呟いた言葉に、全員が肩を震わせる。あながち間違いではなかったようで、怪物はゆっくりと俺達の方へと歩き出した。ある者はひたすらに震え、またある者は歯をカチカチと鳴らしている。どう見ても心が折れかけていた。
「みんな逃げろ!」
 と大和が叫び、誰もが言われるまでも無いとばかりに走り出すが、胸から生える鎖が伸びるわけでもなく、俺達は一定範囲―――約15mから抜け出せずにいた。
 さすがにヤバイと感じ、俺は動いた。
 
「おい葉山! 今から言う通りにしろ!!」
 
 と言って作戦を伝える。
「……分かった! 死ぬなよ!!」
「お前もな!!」
 そして俺と葉山の鎖を絡ませ、ちょうど由比ヶ浜を追いかけようとしていた怪物の足に引っ掛けた。
 ……ちなみに鎖を絡ませたのは、鎖の強度を高めるためだ。もし俺1人の鎖だけで怪物の足を引っ掛けた場合、千切れる可能性があった。そして今の状況で鎖が切れることにより、俺の身に何が起こるか全く分からない。よって鎖を絡ませた。
 ―――だから海老名さん、ここで鼻血を吹きながら『はやはちの絡み……』とか言わずに擬態しててくれ!
 怪物が盛大に転ぶ。
 続けて葉山が叫んだ。
「全員、壊れた倉庫の鉄骨か何かで、この化け物を滅多刺しにしてくれッ!! この化け物を倒す、最初で最後のチャンスだ!!」
 誰もがやや放心気味だ。
 しかし葉山の言う通り、この怪物を殺すチャンスは、今以外にはないだろう。俺達が手に入れた絶好のチャンスだ。……たぶん次は無い。
 
 
「「おお…ぅおおおぉぉぉ――――ッ!!!!」」
 
 
 材木座と大和が雄叫びを上げながら、鋭く尖った、割と大きな鉄骨の先端を叩きつける。片や中二病、片や体当たりを至高とするラグビー部員。こんな超常現象めいた命の危機と、それを打開する局面にて、最も闘争心の強い2人が真っ先に動いたのだ。
 大柄な奴が助走をつけた刺突をしたからか、怪物の肋骨の辺りに30センチ近くも刺さるが、それ以降は抜いては刺すの繰り返しだからか、勢いが足りないせいで大して刺さらない。
 俺がステルスヒッキーを発動させながら、さも『どっかの第三者が言った』かのように叫んだ。
「デブとデクの坊に負けてたまるか! 俺達も行くぞぉっ!!」
 叫ぶと同時、俺自身も鉄パイプを拾い、助走して怪物の仮面の目の辺りに突き刺した。……ここだけ仮面に穴が開いてるから、防御力が低いと思ったからだ。
 
 
『ル……ルオオオォォォォッ!!!?』
 
 
 怪物の絶叫が響き渡る。
「比企谷に続けェ―――ッ!!!」
 葉山の叫びに、他の連中も雄叫びを上げて突進する。
 ……ってか、俺が叫んで動いたのって、由比ヶ浜と雪ノ下、戸塚だけじゃん。
 しばらくは俺らによる一方的な攻撃が続いた。怪物の方も、途中で何度も立ち上がろうとしたものの、腕をついて立とうとすれば手首を袋叩きし、膝に力を入れようとすれば横膝に全員で打撃を与える。
 もしどこかで攻撃するポイントを間違えれば、怪物は立ち上がり、俺らに勝ち目は無くなってしまうことだろう。下手に二手に分かれて攻撃する余裕なども無い。誰かが転べば攻撃が手薄になり、奴は起き上がる―――そのくらいギリギリな戦いだった。マジで怖い。命がけの綱渡りどころかピアノ線の上を歩く気分だ……。
「どわっ!?」
 と思ったそばから大和が足をもつれさせた。
「しっかりせいっ!」
「ちゃんと走って!」
 しかし転ぶより先に、左右から材木座と雪ノ下が抱きつくようにして支え、何とか持ちこたえる。普段であれば足を引っ張った事に罵倒したり、男なら雪ノ下に抱きつかれてる大和を嫉妬すべきところだが、今だけはナイスだと言いたい。
 大和も手短に礼を言い、攻撃に加わる。
 だが敵も身体の大きさのせいか、なかなか敵も事切れない。
 逆に俺らの方が息が上がってきた。
 そしてとうとう―――
「しまった! あいつが立ち上がるぞ!?」
 全身から紫色の血を流しつつ、怪物がヨロヨロと、しかし完全に立ち上がってしまった。
 とっさに俺と葉山が鎖で転ばせようとしたが、怪物は地面を片手で殴って揺らし、俺ら全員を簡単に転ばせてしまった。
 ―――いくら腕力があっても出来ることではないが、奴が地面を殴ったとたん、妙な力が、怪物の拳から地面へと流れ、ありえない事に地面が波打ったような気がした。
「万事……休す、か……」
 材木座が呟いた。
 普段なら中二病の戯言と取れる言葉だが、皮肉にも今だけは寸分違わず的を射ていた。
 
 ……ちく…しょう……。
 
 しかし、誰もが諦めかけた次の瞬間。
 
 
 
「―――うらああああああぁぁぁぁッ!!!」
 
 
 
 オレンジ色の炎と、人が絡み合った何かが、物凄い速度で文字通り飛んで・・・きた。
 そいつはそのまま怪物の両目に、炎で包まれた『何か』を二刀流で根元まで突き刺した。しかも刺した刀身が爆発したのか、爆炎と血煙、そして肉片が辺りに飛び散り、俺達の元へと落ちてきた。
 怪物が絶叫し、両目を押さえる。―――その寸前で人影は怪物の目から得物を抜き、数mの距離を取り、空中に浮かんだまま静止した。
 
 
「ちょ―――なんであいつ宙に浮いてんの?」
 三浦が茫然としながら呟く。
 今しがた乱入してきたのは、パッと見ただけの姿を言えば20歳前後の女だった。服装もジーンズにジャケットという、お洒落よりは動きやすさを重視した格好だ。
 無論、不審なところもある。
 まず浮いているということ。次に胸に穴が空き、そこから10センチほどの鎖が垂れていること。
 そして何より、彼女が『刀身が炎に包まれた剣』を、しかも二刀流でぶら下げていることだ。
 彼女は人なのだろうか? それとも人に似た『何か』か? ……少なくとも敵ではないと思いたい。
 その彼女は宙に浮いたまま剣を構え、少しだけ後ろに下がる。逃げる……というよりは、弓を引くための動作に近い気がした。
 
 しかし今度は怪物が予想外の行動に出た。
 
 怪物が雄叫びを上げながら、地面に拳を突き立てる。すると拳は地面を砕くわけでもなく、地面が液化しながら・・・・・・拳を包み込んだ。そして拳の位置周辺の地面から、グランドの砂と同じ色をした人型(ドラクエの泥人形に少し似ているな、眼球無いし)が100体近く、まるで草が生えるようにした現れた。
 嫌な予感がすると同時、泥人形(仮名)どもが、歩くくらいの速度で、フラフラと押し寄せてきた。
「く、来るよ!? こっち来るよ!?」
 相模が騒ぐ。泥人形どもの見てくれだけを言えば、小柄な雪ノ下を少し太くしたような奴であるが、やっぱり敵意のようなものを感じる。きっと危険だろう。すると上空から、さっき乱入してきた女が、腰から皮袋(ドラクエの道具袋っぽいな……)に手を入れ、何かをばら撒いた。
 何だろうと思っていると、目の前の地面に『ザシュッ!!』と音を立て、抜き身の剣が突き刺さった。しかも刀身が炎に包まれてる奴だ。
 辺りを見渡すと、他の連中の眼前にも同じ物が刺さっていた。……ってかあの女、よくもまぁ正確に狙って落とせたな。下手すりゃ俺が串団子みたいになってたじゃねぇか。あとその道具袋、剣が13本も入るとか、四次元ポケットかよ?
 女が上空から叫んでくる。
 
 
「あんたら霊体のわりに動きが良いだろ! その剣で泥人形どもの相手を頼む! あたしはこいつを倒すから!!」
 
 
 そう叫んで、再び巨大な怪物とぶつかりだした。
 目の前に刺さった剣を眺めつつ、どうしたもんかと悩んでると、俺の―――否、俺達の一歩前に踏み出す奴が現れた。そして皆に良く通る声で言った。
「―――早くそれを抜きなさい。あの浮いている人が助けてくれようとしてるのは分かるけど、泥人形みたいなのを相手にする余裕は無いってことくらい分かるでしょ? ……ならせめて自分の身は自分で守るべきだわ。そうでなくでも武器まで貸してくれているんだもの……あとは自分の力で切り開いてみせなさい」
 
 ―――雪ノ下だった。
 
 彼女はそれだけを言うと、俺の前に立って迫り来る泥人形達を見据え、長い髪をたなびかせながら駆け出した。
 炎の剣を構え、長い黒髪を火の粉と共にたなびかせる後姿はどこか幻想的で、俺だけでなく周囲の男女全員が見惚れるほどのものだった。
 一瞬だけ横を向くと、葉山と目が合った。
 だが葉山はすぐさま前を向き、地面に刺さった剣を抜いて叫んだ。
「雪ノ下さんだけを危険に晒すわけにはいかない! みんなも力を貸してくれ!!」
 と言って駆け出した。他の連中も、葉山の後に続く。
 1人残された俺は溜め息をつき、
 
 
「ったく、今さらかよ。……こんな展開、俺が中二病の時にきてほしかったぜ」
 仕方なく地面から炎の剣を引き抜き、走り出した。……ほんの少しだけ、この状況に興奮してたりするのは内緒だ。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「て…てえーい!!」
 やや間の抜けた掛け声と共に、由比ヶ浜が振り下ろした炎剣は、泥人形の右肘から先を切り飛ばしたものの、泥人形は動じることなく左腕で彼女の胸倉を掴んだ。
「ひっ……や…わあああぁああぁぁッ!?」
 由比ヶ浜が絶叫を上げる。しかしすぐに雪ノ下が、その泥人形の上半身と下半身を一瞬でぶった切った。
 切られた泥人形は、全身の形を留められなくなり、崩れて土くれになったかと思いきや、数秒で跡形も無く消滅する。
「あ、ありがと、ゆきのん……」
「立って! 泣いたり立ち尽くす時間なんて無いわ!」
 由比ヶ浜に対して、普段ならありえないくらい、きつい物言いである。しかし雪ノ下の表情を見る限り、それは戦いへの高揚や、焦りなどからくる苛立ちではなく、純粋に由比ヶ浜を思っての叱責なのだろう。
 由比ヶ浜の方もそれに気付いているらしく、震えながらも立ち上がり、引き攣りながらも笑って答えた。
「う……うん! こっちは任せて!! 最低でも1体は仕留めるんだから!!」
 ……せめてもう少し仕留めろよ。俺だってビビりながらも5体は倒してるぞ。
 と、その時。少し離れた所から材木座の叫びが聞こえた。
「ぬおおっ!? 八幡! この剣、持ったままイメージを加えれば形が変わるぞ!!」
 誰もが一瞬だけ手を止め、材木座を凝視する。
 奴の手には、FF7の主人公が持っているような巨大なバスターソードに姿を変えた炎剣が握られていた。
 続けて今度は相模から叫び声が上がる。
「確かに形が変わるけど、飛び道具は無理みたい!! 銃や弓の形にならなるけど、弾丸が出なければ弓も鉄みたいに硬くて曲がらない! 接近戦の武器しか無理みたい!! あとチェーンソーみたいな動く武器も無理!!」
 ……あの女、とっさによく思いついたな。もしかして普段から、こんな非日常の戦いでも想定してるのだろうか? 中二病じゃあるまいし……。それに相模が手にしている炎に包まれたチェーンソー、あれってゾンビパウダーって漫画の主人公が持ってたのと似てるような……。
 
 ……おっと、今は考え込んでる場合じゃねぇ。
 
「おい由比ヶ浜! 剣より槍の方が強いし、扱いが簡単だ! 出来れば先端が両刃のナイフみたいな奴!!」
「う…うん分かった!」
 瞬間、由比ヶ浜が持つ炎剣の刀身が縮むと同時に柄が長く伸び、本当に槍の姿に変えた。
「てええい!!」
 相変わらず掛け声が間抜けだし、振り方も素人臭いが、それでも泥人形の胸に大きな切傷を刻み込んだ。
「せやあぁっ!!」
 続けてもう1度。切傷では一撃で仕留められないと知ってか、今度は胸の中央を狙って突いた。
 炎に包まれたランスの先端は、泥人形の胸を何とか貫き(←けっこう硬かった)、泥人形は全身が崩れて土塊へと帰った。……雪ノ下の奴、よくこんな硬てぇもんを斬れたな。

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