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「どろどろ(ネタ)"どろろ"二次創作」
(第0部)[1/1]

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時は戦国乱世。
武蔵国、台六領領主、台六武光(だいろく・たけみつ)の館。
「奥方様、もう少しにござりまする」
奥方の間では臨月の武光の妻が産婆の介添えを受けて子どもを産むのに必死になっており、
「そら、がんばれ。もう少しだぞ」
厩舎では産気づいた母馬を介添えすべく厩番が必死になって励ましていた。
当主の間に一人瞑目してあぐらをかいていた武光はつい先ほどまでのことを思い返していた。

台六領の古刹。
雨降り止まぬ中、武光は供も連れずに単騎駆けつけていく。
境内手前に下馬して近くの樹に馬をつなぐと、一心不乱に早足で境内の外れにある「地獄堂」の看板があるお堂に向かって走った。
荒々しく扉を開けると、座して一心不乱に魔を降す経を唱えている住職がいた。
「殿、やはり来られましたか」
武光が背後から来たにもかかわらず、彼の方を振り返らずに座したまま住職は経を止めて言った。
「住職殿、退かれよ」
立ったまま、武光が言う。
「退きませぬ。殿がここに来たと言うことは、この八柱の鬼神と盟を結ぶつもりとお見受けしましたが、如何に?」
武光はそれには答えず、八柱の鬼神像を見上げてぽつりとつぶやく。
「去年は日照りで不作。今年は長雨でこのまま降り続ければ稲の根腐れや川が氾濫してもおかしくない。さらにおととしは流行病(はやりやまい)。加えて武蔵守護である扇谷上杉からの役料取り立ても容赦はない。最早人の手には負えぬ……」
「なれど、鬼神と盟を結ぶは外道の所業。どうかお考え直しを!」
住職が振り返るのと同じタイミングで武光は差した刀を抜き、そのまま住職を切りつけた。
「どうか、ご再考を……」
今際の際にそう絞り出した住職の言葉に、武光は返す。
「こうするよりほかなかろう」
住職が息絶えたのを見て、武光は床に座り、名乗る。
「我は武蔵国台六の住民、台六武光なり。鬼神達よ我に力を。この台六の地に平穏と、我が名を天下に轟かしめよ」
名乗り終わると同時に地獄堂全体から咆哮とうなり声のような音が上がった。
臨月の妻のことを思い描いて武光は続ける。
「ただとは言わぬ。我が館で生まれる新しい命を捧げようぞ」
歓喜の声を思わせる音が上がり、
地獄堂に雷が落ちた。
「わーつ!?」
激しい衝撃とともに武光は意識を失った。
しばらくして、意識を取り戻した武光は自身の眉間に×印状の傷があることを確認した。
もう一度歓喜の声を思わせる音が上がったとき、武光は鬼神との契約がなったことを悟り、不敵な笑みを浮かべた。
その一部始終を小坊主がのぞいていたことを武光は気づかなかったが。

「生まれました!若様にございまする!」
当主の間に奥方付の侍女が飛び込んできたのは丁度そんなときだった。
侍女を押しのけるかのような勢いで当主の間を飛び出し、奥の間へと駆け出していった。
奥の間に入ると武光は大音声で歓喜の雄叫びを上げる。
「奥よ、でかした!」
「お屋形様……」
その直後、屋敷の厩に雷が落ちた。
「何事か!」
「とっ、殿ー!」
厩番が頓狂な声を上げながら武光を探していた。
武光は奥の間から廊下に出て、
「厩番か。何があった!?」
「とにかく厩へ!とにかく厩へ!」
それだけを繰り返して厩へ走る厩番の後を武光はついて行った。

「こ、これは……」
厩で生まれた子馬には目、耳、鼻、舌、両前足、両後ろ足がなかった。
「生まれたときにはこんなことはなかったのですが雷が厩に落ちたと思ったらこんな有様に……」
武光の問いに厩番が答える。
「誰か、この子馬を畜生塚に埋めよ」
武光はそう命じた後に考え込む。
そして何かひらめく物があったのか、厩番に尋ねた。
「儂の子が生まれたことは存じておるか?」
「あいつ−さっきの子馬−が生まれたか生まれないかの間に侍女が走っているのをちらと見たような……」
その厩番の答えを聞いて、武光は地獄堂で鬼神に対しての約束を思い出した。

「ただとは言わぬ。我が館で生まれる新しい命を捧げようぞ」

「ふはははは、そうか、そういうことであったか」
「殿?」
「喜べ!馬が身代わりとなってくれたのだ!我が家も我が領土もこれで安泰だ!そして儂は天下に名を轟かすのだ!!」
武光の哄笑が館中に鳴り響いた。

それから十余年の月日が流れた。
長尾景春が扇谷上杉家に対して謀反を起こし、役料の減免を餌として長尾方に付くよう促された武光は長尾方に付いた。
それを受けて扇谷上杉は名将太田道灌を台六領に差し向け、一気に決戦を挑むつもりだった。
太田方陣中。
「良いか、敵地故にどこに伏兵が潜んでいるか分からぬ。見張りを多く出し、一時も油断するな!」
「はっ!」
道灌の下知に配下が応じる。
その直後雨が降り出してきた。
「敵方の不意打ちに備えよ!雨音に紛れてくる敵勢の足音を聞き逃すな!」
直後、武光方陣中に雷が落ちるのを見た。
そして、武光方から大音声が上がる。
「敵襲か!?」
「いや、音声が遠ざかる。何事かあって敵は崩れたと見るが。物見を出せ」
浮き足立つ部将を押さえて道灌が命じる。
「殿、何故かは分かりませぬが敵は総崩れにございます」
帰ってきた物見がそう言うと、
「良し、陣を前に押し出すぞ」
道灌が命じた。

「こ、これは……」
武光方本陣跡についた道灌とその配下は、具足−その飾りから見ておそらく大将−を纏った焼死体を見つけた。
「誰か首実検の証人を探せ」
「はっ」
道灌が配下に命じてしばらく後、厩番を兼ねていた馬の口取り役が同館の前に引き出された。
「と、殿……」
焼死体を見て呆然と立ち尽くす口取り役を見て、道灌が尋ねた。
「台六武光か?」
「確かに殿にございます……」
「しかしこれは余りにも異様な……」
焼死体には目、耳、鼻、舌、両腕、両足がなかった。
「昔もこのような亡骸を見たことがございます。あのときは馬でしたが……」
「その話を詳しく聞かせてはくれぬか」
口取り役は武光の息子が生まれた日、同じ日、同じ時に子馬に起こった怪異のことを話した。
「ふうむ?」
道灌はしばらく考えていたが、
「殿、ご采配を」
部将の声で考え込むのを止め、下知を下す。
「武光の首を取れ。台六領まで一気に押し入るぞ」

台六領に押し入った道灌勢は仮の陣屋を設けるべく領内の古刹に向かった。
当主怪死という状況で混乱する台六領に対して早速に乱暴狼藉の取り締まりを武将達に命じ、住職の元を訪れた。
道灌は住職に当主が怪死した台六領の混乱を鎮めるために来たので、古刹と力を貸して欲しい旨を伝える。
「やはり、こうなってしまいましたか……」
「やはり、とは?」
道灌が聞くと、
「昔、私がまだここの小坊主だった頃の話です……」
住職はそう切り出し、昔地獄堂で武光が鬼神と盟を結んだことを話した。
「ふうむ?」
「(住職の話と口取りの話を合わせて考えると、武光は昔に遠からず生まれる自身の赤子を生け贄として鬼神と盟を結んだものの、途中で赤子を代償とするのが惜しくなって馬を生け贄とした故、鬼神の恨みを買ってあのような最期になったのか?このことを台六領の混乱と景春の謀反を鎮めるために使えぬものか……)」
道灌はしばらく考えていたが、何かひらめく物があったのか、
「そうだ、この手で行こう」
そう言って部下に何事かを命じる。

台六領の刑場。
そこには武光の晒し首と、次のような立て札が添えられていた。

「この者、かつて鬼神と盟を結んだことにより、謀反人の長尾方に付き、その天罰を受けし者なり」

道灌は旅の托鉢僧や行商人に路銀を渡した上で武光のことを周囲に触れ回るよう依頼した。
かくて、武光は「鬼神と盟を結んだ外道」として関八州に名を轟かせたのであった。
因果応報、諸行無常。

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