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「The Lancer」
(第1部)[1/1]

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 ――――新暦64年



 無数のコンソールとディスプレイが並ぶ部屋で白衣の集団が慌ただしく作業をしている。



「おい、聞いたか?第二研究所が首都防衛隊に摘発されたってよ。セカンドとサードも確保されたらしい」

「第二が?ヤバかったなぁ。俺先週まで向こうに居たんですよ」

「そういやお前ファーストの性能実験でこっちに来たんだったか」



 話している男達は何台ものディスプレイによって様々な角度から映し出されている少年を見た。

 年の頃は十にも満たなそうな、茶髪に黒い瞳の少年だ。

 手には身の丈を超える槍型のアームドデバイスが握られている。どちらかといえば斬撃に主眼が置かれている形状だ。



「ええ、ファースト様々ってところです。
 ……でもちょっと惜しかった気もしますね」

「何がだよ?」

「ファーストの移送がもう少し遅かったらオリジナル相手に性能実験できたんですよ?格好の宣伝材料じゃないですか」



「貴様ら!下らない事を喋ってる暇があったら手を動かさんか、手を!」



 リーダー格らしき初老の男が作業を止めていた二人を一喝する。



「は、はい!すみません………………と、完了しました!」

「よし、それではこれよりタイプゼロ・ファーストの実戦試験を開始する」





**********





「ったく、なんだって俺がこんなガキと戦らなきゃなんねぇんだ」



 仄かな明かりが灯る廃墟に男のぼやく声が響く。

 男の名はカーチス・アントン。裏ではそこそこ名の知れた魔導師だ。

 彼は自分の腕前に自信があったし、いくつかの“仕事”をこなした上でそうそうしくじる事はないと自負している。

 その自分をこんな廃墟に呼びだして、依頼された仕事が「もうすぐ現れる魔導師と戦え。殺す気で構わない」だ。

 約束された報酬は文句の無い額であり、仕事に私情を挟むつもりも無い。

 だが目の前に連れて来られた相手を見れば悪態の一つも零れようというものだ。

 どう見たって十にもならない子供。

 手には槍型のアームドデバイスを携え、籠手と脛当てが装着された黒基調のバリアジャケットを身に纏っている。



 ……大方親に売られたか攫われたかでこっち側に堕ちたクチだろう。



 子供が命の遣り取りの場に居る事、それ自体は……実は珍しい事では無い。レアスキルや豊富な魔力を持っていれば子供といえど侮れない戦力になるのだ。

 それが何故外部の自分を雇ってまで私刑のような真似をさせられているのかは分からないが。



 まぁいい、深入りしないのがこの道の鉄則だ。とっとと済ませて酒でも飲んで寝よう。



「それでは始めてくれ」



 突如目の前にウインドウが現れ、開始の合図が告げられた。



「坊主、恨んでくれるなよ」

『ラピッドシューター』



 カーチスは即座に最も手慣れた魔法を構築。

 足元に魔法陣が広がり、両手で構える杖型デバイスに計4発の誘導弾が生成された。

 躊躇いもなく少年目掛けて発射。当然、全弾が殺傷設定だ。

 少年は光を曳いて殺到するそれらを見ても棒立ちのまま動こうとはせず、デバイスを構える様子も無い。

 まさか全てその身に受けようというのだろうか?





「IS、発動」





 少年の呟きはすぐに爆音に掻き消され、カーチスの耳に届く事は無かった。

 が、その効果の程はすぐに知れる事となる。



「あん……?」



 着弾時の煙が晴れると少年は先程の位置から微動だにせず、しかし全くの無傷でそこに立っていた。



 魔法障壁か?それにしては魔法を使うような素振りは見えなかったが……。



 避けようともしなかった事を考えると余程自分の防御に自信があるのだろうか。

 気になる事は他にもある。



 それに奴の目。あれは一体なんだ?



 こちらを見据える少年の瞳は沈むような黒から爛々と輝く金色に変わっていた。

 ……と、ようやく少年が動きを見せた。デバイスを構えこちらに突進してくる。

 速い。

 子供とは思えない速度だ。なにかの身体強化魔法を使っているのだろうか?



「ちっ」

『プロテクション』



 踏み込みを始点に大上段から叩きつけられたデバイスを障壁で防御。

 拮抗する障壁とデバイスが鎬を削る。

 鮮烈な火花が舞い、グラインダーのような音が部屋に鳴り響いた。

 しばしその状態が続いたが、少年のデバイスの石突きがスライド。

 硝煙と共に薬莢を吐き出した。



 カートリッジシステム!?

 やはりベルカ式か!



 少年の魔力が瞬間的に増大し、均衡が崩れた。

 カーチスの障壁が容易く斬り裂かれる。

 振り抜かれたデバイスが地面を砕き破片を散らした。

 だが少年の動きは止まらない。

 姿勢を下げ穂先を掬い上げると同時、全身の伸びで突きを繰り出してきた。

 狙いは首だ。完全にこちらを殺す気できている。



「くっ!?」



 なんとか寸前で首を傾けてかわした。すぐそこを刃先が通過していく。

 カーチスは射撃一辺倒で生き残るのは難しいと、それなりに接近戦の心得も身につけていた事を感謝した。



 しかしこいつは本職だろう。にわか仕込みが近付いていいもんじゃない。

 ここは定石通りにいくのが一番か……。



『フラッシュブレイク』



 少年がデバイスを戻すより早く部屋に閃光が炸裂した。ごく簡単な魔法ではあるが使い勝手は良い。しかもこの暗い空間では効果は覿面だ。

 カーチスは少年が怯む隙に距離を取り、素早くその場を後にした。





**********





 来いよ坊主。こっちの準備はできてるんだ。



 あれからカーチスはとにかく移動を繰り返し、ここと決め場所で少年を待ち構えていた。

 今居るのは倉庫のような部屋だ。カーチスはそこに積み上げられたコンテナの陰に身を潜めている。

 先ほど魔法で倉庫の壁をぶち抜いたから、音を聞きつけた少年が必ずここにやって来る。

 それを見越して開けた穴の周辺に条件発動型のバインドを仕掛けておいた。少年が近づけば即座に発動し彼を拘束するだろう。

 直接発動ではない為拘束力は落ちるが、5秒は身動きが取れない筈だ。



 来た……。あいつだ。



 少年が姿を現した。

 壁の穴に気付いたらしい。周囲を警戒しながらも壁へと近付いていく。



 あと、10歩……5歩……3歩……。



 息を殺して少年が罠に嵌るのを待つ。



 かかった!



 少年は突如足下から発生したバインドに全身を拘束されている。なんとか解こうともがいているが、動けば動く程にバインドはその身をより強く締め上げていく。



「これで終いだ!」




 コンテナの陰から躍り出し、身動きが取れないでいる少年へデバイスを向けた。

 先程の不可解な防御を考慮し、渾身の砲撃魔法で吹き飛ばす。

 多重展開された魔方陣に光が集う。それは障壁の上からでも相手を滅さんが為の魔法。

 ましてや今バインドに捕われている少年に為す術があろうはずもない。



「消し飛べぇぇぇぇぇぇ!!」

『フレイルバスター』



 ここでようやく少年がバインドから逃れた。

 ……だが、遅い。

 限界まで圧縮された魔力の塊が強引に指向性を与えられ、標的へと射出される。

 もう回避は間に合わないし、防御するにも生半可な障壁で防げるようなものではない。

 殺傷設定の砲撃が轟音と閃光を伴って柱を、壁を、天井を、射線上の一切を吹き飛ばし、その勢いのまま少年を飲み込んだ。



 数秒の間部屋を蹂躙し尽くした光柱がようやく減じていく。

 しかし粉塵が舞い散り、視界は未だ不明瞭だ。



 少しやり過ぎたか……。



 これでは少年の遺体は見つかるまい。

 どのみち残っていても欠片だけだろうが、完全に依頼を遂行したという証拠が無いというのはどうもしっくりこないものがある。



 ……まぁ、依頼人もどっかで見てんだ。問題無ぇだろう。



 粉塵が徐々に晴れ、ようやく視界がはっきりしてきた。





「……冗談、だろ……?」





 そこにあった光景は先刻の焼き直しだ。少年が崩落した屋根から差し込む月明かりに照らされ、やはり無傷で立っている。

 ただし今度は少年の眼前に魔法陣らしき見たこともないテンプレートが展開していた。

 それはすぐに消えてしまったが、あれが誘導弾や砲撃を防いでいたと見てまず間違い無いだろう。

 呆れた固さだ。奇襲のタイミングを逃したのが悔やまれる。



 少年が再度カートリッジをロード。デバイスを構え直した。

 攻撃が、来る!



「なぁっ!?」



 少年はろくな助走も無しに、いきなり弾丸のような速度で飛び込んできた。

 さっきまでとは比較にならない速さだ。残像すらも残っているように見える。



 魔法防御は間に合わねぇっ!



 全く慮外の動きを見せた少年に内心動揺しながらも、魔法の発動が間に合わないと見るや反射的にデバイスで身を庇う。

 だがその俊敏な反応ですら時間稼ぎにもならなかった。



 斬!



 僅か一振りでデバイスが真っ二つになった。

 たいした抵抗も見せずにデバイスが破壊される。

 カーチスは手の中で棒きれになったデバイスを今度こそ驚愕の目で見た。



 有り得ねぇ!

 いくらアームドの方が固いっつっても、デバイスが一撃で砕けるだとぉ!?



 思わず一瞬動きを止めてしまう。

 それが文字通り命取りになった。

 少年が動きを止めた瞬間を見逃すわけもなく、返す刀で逆袈裟に斬られた。

 右腰から左の肩へ肉が断たれ血が噴き出す。



「がああぁぁぁぁぁっ!?」



 激痛に耐え切れず傷口を押さえ叫びを上げてしまう。敵の目前でこれは致命的だと分かってはいてもどうにもならない。

 少年はカーチスの血を吸って赤い軌跡を描くデバイスの穂先をゆっくりとこちらへ向けた。



「ぐっ!?……ごぶっ!」



 少年の刺突が無防備なカーチスの左胸に突き立ち、背中から飛び出した切っ先がカーチスを壁へと縫い付ける。

 デバイスを伝って大量の血が流れ出し、少年の手をべっとりと濡らしていった。



「あ……ごぼっ!……助……け……」



 どんどん体が冷えていき、自分の命が失われていくのを感じる。

 もう自分は助からない。それが分かってしまう。

 血を吐きながらも本能的に手を伸ばし、助けを乞うた。



「……ごめん、なさい」



 カーチスは初めて少年の声を聞いた。

 年の割には低い方かも知れないが、やはりまだ変声期も迎えていない子供の声だ。

 急速に霞んでいく視界の中、最後に見えた少年の顔は黒の双眸から止めどなく流れ続ける涙に塗れていた。

 カーチスの手から力が抜け落ち、だらんと垂れ下がる。



 最早少年以外に音を立てる者もいない廃墟に啜り泣く声だけが響き続けた。





**********





「Aランク相当の魔導師を相手に単独で無傷……。これなら使えますね」

「当たり前だ。一体幾らかかったと思ってる。使えませんですむか」



 研究者達が机を囲み議論を重ねていた。

 机の中央に浮かぶウインドウには先程の少年の戦闘が一部始終、様々なデータを添えられて流れている。



「ISは順調です。誘導弾はおろか殺傷設定の砲撃魔法をも完全に防ぎ切りました。
 課題は一旦発動すると効果範囲が確定されてしまう事でしょうか」

「カートリッジシステムとフルドライブ使用時のファースト、“ナイトホーク”双方にかかる負荷も想定の範囲内で収まっています」

「ふむ、他には?」

「やはり、実戦経験が不足していますからね。もう少しバインドの解除が遅れていれば危ないところでしたし、メンタルもアグレッサー殺害後に低下しています」

「それは仕方が無い事だ。経験ならこれから積ませていけば問題はないだろう」

「メンタルの方も下手に薬物を投与して使い物にならなくなっても困るので、即座に改善できるものではありません。
 そちらもこれから慣らしていくしかないでしょう」

「そんな所か。
 ……まだ何かある者はいるか?」



 場を仕切っていた初老の男が周囲の研究者達を見渡す。

 が、誰も口を挟もうとはしない。



「では今回の検証はひとまずこれで終了とする」



 それでこの議論は終わりだと研究者達がぞろぞろと部屋を出て行く。

 最後の一人が扉を閉めて、部屋は全くの無人になった。

 机の上に広げられた無数の紙束の中に少年の顔写真が入った資料がある。

 少年についての簡易報告書のようだ。議論の間にもいくつか書き込まれている。



『検体   :Type 0-01

製造   :新暦56年

性別   :男

身体特徴:初期、機械部位と肉体部位に軽度の拒絶反応が見られたが現在は落ち着いた模様。

       身体内外共に同年齢の平均を大きく上回る強度、能力を獲得。

       空戦適正あり。

 IS    :ファームランパート

       平面防御障壁展開能力。
       現在、最大2メートルまでの距離で展開可能。
       複数同時展開に挑戦するも、強度不足の為実戦での使用は困難と思われる。
       Aランク魔導師の殺傷設定の砲撃に耐える強度を確認。

       
       
       追記)一度障壁を展開すると効果範囲を変更できず、再度展開し直す必要有り。

 デバイス:ナイトホーク

       槍型アームドデバイス。
       非人格型。
       ベルカ式カートリッジシステム、フルドライブシステム搭載。
       
       
       
       追記)夜間強襲を視野に入れ、発声機構を停止。
           アームドデバイスとしての強度を重視し、人格や変形機構等も不要と判ずる。
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 “遺伝形質提供者:時空管理局・首都防衛隊所属ゼスト・グランガイツ”                                     』

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